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02 誰何

 再び門をくぐる。


 “門をくぐり抜けたら、そこは知らない街だった”


 その瞬間、またも同じフレーズが頭に浮かんだ。そこは知っている街だったじゃないの? と思ったところで目にしたのは、やはり草原だった。


 前回とは違い、見渡す限りの緑だけの草原と青いだけの空ではなく、遠くに町並みが見え、草原にはあちこちに色取り取りな花が咲き、青空には白い雲も浮かんでいる。

 今度は色が多いなぁなどと、のんきにその景色を眺め、我に返って振り返ったときには、すでに門は跡形もなかった。


 もう戻れない。


 何故か解っている自分の感覚の不思議さに、どうしたものかと再び目を瞑ってみる。

 もしかしたらもう一度門が現れるのではないかと、微かに期待してそっと目を開けても、目の前の景色は変わることなく、再び門が現れることはないと解った。


 夢ではなく現実。

 何故か解る。

 実際に現実だと、五感が訴える。


 理解してしまうと、取り乱すタイミングを逃したような、何とも言えない気持ちになった。


 それでも一回叫んでみようか。それよりこれからどうしようか。こういう時って都合良く誰か助けてくれたり……小説じゃあるまいしそれはないか。これ、現実だよなぁ。どうしようかなぁ。どうすればいいのかなぁ。なんだか泣くに泣けないなぁ。


 つらつらと考えながら、遠くに見える町並みをぼんやりと眺めてしまう。



 ここはどこだろう。


 頭に浮かんだあのフレーズの通りなら、遠くに見えるあの街は私の知らない街なのだろう。

 細部まできちんと見えているわけではないが、近代化はされていないと何故か解る。

 先ほどから何となく解ってしまうこの感覚はなんだろう。カンだろうか。


 やはり再び門が現れる気はしない。

 二度と私の前にあの門は現れないと、何故か確信できる。

 本当になんだろう、この感覚。


 とりあえずあの街に行ってみよう、と歩き出したそのとき、目の前に門ではなく人が現れた。



 いきなり目の前に現れた人に、びっくりして思わず「おわっ!」と声が出た。


 驚いている私を訝しむように見下ろしたその人は、私より頭ひとつ分は背が高い西洋人風の男の人だ。

 薄い茶色の髪色に青い瞳、まるで魔法使いとは斯くあるべき! とでもいうような真っ黒なローブを着ている。

 悪い人には見えないが、特別人が良さそうにも見えない。特別美形でもなければ悪人顔でもない。魔法使い風なローブを除けば、どこにでもいそうな人だ。


 ふと自分の姿を見れば、いつの間にか生成りのシンプルな長袖ワンピースを着ている。……着替えた覚えはない。足元は編み上げのブーツだ。

 長袖のチュニックにデニムのスキニー、足元はバレエシューズというご近所ファッションだったはずが、持っていたはずのお財布やスマホが入った小ぶりのバッグも見当たらない。


「*** ******* ****」

「え?」


 その普通顔の魔法使いもどきな人が、私に向かって何かを言っている。何を言っているのかはさっぱり分からない。何語だろう。


「*** ******* ****」

「何を言ってるのか分かりません」


 再び同じことを言われた気がする。分からないことを日本語で伝えると、魔法使いもどきは何故か驚き、暫し考えた後私に向かってそっと手を伸ばし、おでこに触れながら何かを呟いた。

 手が伸びてきたときに、思わず後退ってしまったものの、おとなしくしていた方がいいような気がした。

 そのままじっとしていたら、触れられたおでこが一瞬ぴりりとする。


「俺の言っていることが分かるか?」

「あ、分かります」


 思わず頷きながら答える。

 日本語を話しているような感じはしないが、何故か何を言っているは分かる。

 答えた私の言葉を聞いた魔法使いもどきな人は、また少し驚いたように目を瞠り、暫し考えた後再び問いかけた。


「おまえは何だ?」


 次に聞こえてきた魔法使いもどきの声に、「誰だ?」じゃなくて「何だ?」なのか? と疑問に思う。


「ここはどこですか?」

「おまえは何だ?」


 魔法使いもどきな人の問いに答えず、自分の疑問を問えば、再度同じ問いが返ってくる。


「加藤です」


 ちょっとむっとしながら名字だけを名乗る。「何だ?」とは随分と失礼だ。そんな人にフルネームは教えたくない。


「カトゥ? カトゥというのがおまえの種族か?」

「種族は人間です。加藤は名前です」

「人なのか!」


 更に失礼なことを言われた。



 この時、膨大な魔力を持つらしい私は、人ならざるものだと思われていたらしい。

 魔法使いもどきな人は本物の魔法使いで、国で一番魔力が大きいのだそうだ。

 その魔法使いが言うには、私は信じられないほどの膨大な魔力を持ち、それはこの世界の人では有り得ないほどだと言う。人外を疑うのも不思議ではないほどの、とてつもない大きさらしい。


 何でそんなに大きな魔力を持っているのだろうかと考えていたら、一度目の門をくぐったことによって魔力のようなものを得て、その魔力のようなものによって二度目の門をくぐることが出来、二度目の門をくぐることによって更にこの世界の魔力を得たらしいことが、何故か解った。あの不思議な感覚だ。


 しかも一度目の門をくぐった瞬間に肉体は消え、魂のような精神の塊だけとなり、二度目の門をくぐった瞬間に、再度この世界に合う肉体が形成されたことも解った。 

 一つ目の門の先のあの緑と青だけの世界は、どうやら魂のような精神だけの世界らしく、そこで存在するために魔力のようなものを得たらしい。

 二度目の門をくぐった先のこの世界は、肉体に魔力が宿る世界だったので再度肉体を得て、魔力のようなものがこの世界の魔力へと変換され、更にこの世界の魔力も得たので膨大な量になったようだ。


 一度目の世界で得た魔力のような物がこの世界の魔力に変換される際に、この世界のことが解るようになったらしい。

 何故だか解ってしまうというあの不思議な感覚は、カンではなく確実な答えのようなものらしい。



 そして門を一度ならず二度もくぐったがために、精神も肉体も元の世界との繋がりがなくなってしまい、門をくぐる以外の方法でさえも、もうあの世界に戻ることが出来ないということも、解ってしまった。






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