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16 仕事部屋

 なんだかとっても優しい夢を見ていた気がする。

 何となく幸せな気持ちで目を開けると、怒ったルドルフが目の前にいた。……幸せな気持ちが台無しだ。

 どうやら自然に目覚めたわけではなく、ルドルフに肩を揺すられて起こされたようだ。何となく目を開ける少し前から名前を呼ばれていたような気がしなくもない。

 で、起こした人は目の前でさっきから怒っている。


「女性がこんなところで一人で寝てるんじゃない!」


 同じようなことを、言葉を換え、言い方を変え、言い続けている。


「今日は早かったですね。またしばらく帰ってこないかと思ってました」

「リーエはもっと自分が女性であることを理解した方がいい」

「わかってますよ。お帰りなさい、ルドルフ」


 お帰りなさいと言われたルドルフは、一瞬目を見開き、ふん! と小さく鼻を鳴らしながら、家に中に戻っていく。お怒りのルドルフを追いかけ、食べ散らかした色々を片付けながら家の中に入る。


「少し早いですが、直ぐに夕食にしますか?」

「いや、もう少し後でいい。荷物の整理をしておきたい」


 ルドルフの後ろから顔を出すと、階段手前に荷物がこんもりと置いてある。しかも鞄などに入っているわけでは無く、何もかもをそのまま持ち込んだらしい。洋服であろう布の固まりが、ぐちゃっと小山を作っている。どれだけ滞在する気だよ! ってな量である。


「いやな、リーエがこの世界に慣れるまで、一区切りほど様子を見るよう陛下から言われたのでな、どれだけというか、ひとまず一区切りは滞在しようかと思うのだが」


 心の声が思わず口から漏れていたらしい。


「まあいいけど。手伝います?」

「そうだな、どこに収めればいいか教えて貰えるか」

「分かりました。その前にお米だけ研いでおくので、先に部屋に運んでおいて貰えますか」

「ん? ……よくは分からぬが、部屋に運んでおけばいいのか」


 お米を研ぐと言うことがよく分からないらしいが、説明が面倒だったので「よろしく」と言ってキッチンに向かう。ルドルフの食べる量がどのくらいか分からないので、とりあえず二合研ぎ、炊飯器にセットしておく。炊飯器はもちろんお高いヤツだ。きっとつやつやの美味しいご飯が炊き上がることだろう。

 そのうち全てのキッチン家電を使ってみよう。欲しかったハンドブレンダーもある。



 ルドルフの部屋に向かうと部屋の扉が開けっ放しになっていたので、ノックして勝手に入る。

 丁度部屋に荷物を運び終わったところなのか、小山の前にルドルフが立っていた。


「おう、来たか」

「何から片付けましょうか、まずは衣類からですかね」


 まずは衣類をウォークインクローゼットに運んでもらい、一枚一枚ハンガーに掛けてポールに掛けていく。下着などの細かい物は自分で下部の引き出しに入れてもらう。ちなみに魔法使いのローブが十着もあった。外側は全て真っ黒だが、裏地は鮮やかだった。青系が多い。赤、白、黄色が一枚ずつ、真っ黒な物も一枚ある。式典によって裏地の色が変わるらしい。

 シャツやスラックスなども次々ハンガーに掛けていく。

 他に、色んな大きさの布が数枚ずつあり、何に使うのか分からなかったので、とりあえず引き出しに入れておいた。


「とりあえず衣類は全てこの部屋に入れておくので、後で自分で使いやすいよう工夫してください」


 そう言って室内に戻り、残りを片付ける。


「この書類のような物はなんですか?」

「仕事を少し持ち帰ってきた」

「機密的な物じゃないですよね」

「重要な物は持ち出すことは出来ない。ほとんど雑務だな」

「ならば玄関の横の、ちょうどこの部屋の下を仕事部屋にしたらどうですか」

「いいのか? このくらいならこの部屋でも処理できるが」

「休む部屋と働く部屋は分けた方がいいと思うし……。よければ下の部屋を使ってください」

「わかった。ありがとう」

「どういたしまして」


 スタッフルーム改め仕事部屋に持っていくものを分けてもらう。

 髭剃りなどの身支度用の道具をパウダールームに持って行きながら、昨日は水栓の使い方やトイレの使い方しか教えなかったので、きちんとウォシュレットの使い方や、お風呂の使い方を教える。


「浄化じゃダメなのか?」


 確かに浄化の魔法があれば、ウォシュレットもお風呂も必要ない。


「ダメではないですが、気が向いたら使ってみてください。

 あと、タオルはここに入ってますから。バスローブもありますし」


 タオルをじっと見て、一枚取りだして触りながら表も裏もじっくり観察し、バスローブを広げて羽織ってみたりしている。

 アメニティグッズの使い方も説明し、これも「気が向いたら」と言って部屋に戻る。ルドルフはバスローブを羽織ったままだ。気に入ったのだろうか。


 数冊の本などは、壁に備え付けられている書棚に自分の好きなように収めてもらう。



 ひと抱えの書類を持ったルドルフと一緒に、スタッフルーム改め仕事部屋に移動する。

 好きなデスクを使ってもらう。

 使いやすいように配置を換えてもいいと言えば、とりあえずこのままでいいそうだ。

 そのまま仕事を終わらせると言うルドルフを残して、夕食の準備にキッチンに向かう。



 ご飯に合わせてローストビーフはわさび醤油で食べよう。生山葵があったんだよなぁ。ルッコラと山芋を刻んで付け合わせにしよう。冷や奴も食べたい。食品庫に最中のお吸い物があったはず。お湯を注ぐと最中の中から具が出てくるあれだ。ルドルフの目の前でお湯を注いでやろう。


 食事の準備を終え、仕事部屋にルドルフを呼びに行く。


「ルドルフ、ご飯出来たけど……」

「ああ、丁度終わるところだ」

「じゃ、食べる用意しておきますね」


 お吸い物用のお湯を用意し、ご飯をよそっていたら、ルドルフがダイニングにやって来た。


「ルドルフ、お箸使えます?」

「おはしとは?」

「あー、ナイフやフォーク、用意しますね」


 ナイフなどを用意していたらルドルフが叫んだ。


「おい、これもこれも貴重な薬草ではないか!」


 どうやらルッコラだと思っていたのはルッコラではなく魔力を回復させてくれる薬草で、わさびは魔獣除けに使われるという。山芋は体力回復薬の材料だという。


「毒じゃないならいいじゃないですか。美味しいですよ。では、いただきます」


 最中の入った碗にお湯を注ぎながら言えば、何とも言えない顔をしていたルドルフの目が輝いた。最中を割るよう言えば、さらに鼻の穴が膨らんだ。分かりやすいな、ルドルフ。






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