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15 袖の下

 翌朝の目覚めは、それはもう爽快だった。

 マットレスって偉大だ。私が事前に選んでいたマットレスは高反発マットレスだ。枕は低反発を選んでいる。高級コテージって本当に至れり尽くせりだ。ミントの部屋を選んだ友人は低反発のマットレスを選んでいて、互いに寝心地の違いを確かめ合ったものだ。他の二人は有名マットレスメーカの最上級品を選んでいた。


 顔を洗い、歯を磨き、用を足す。そんな毎朝の習慣がすこぶる快適だ。座って用を足せることがこれほど幸せを与えてくれるとは。


 パジャマ代わりの部屋着のまま、カーディガンを羽織ってキッチンに向かい、朝食の準備をする。

 ルドルフが起きてこないので、ならばと今のうちに頼まれていたクラブハウスサンドを用意する。冷蔵庫から取り出すこと五回、二十人前のクラブハウスサンドをバットごと用意しておいた。これだけあれば十分だろう。プチケーキもひと箱分用意しておく。ひと箱に十二個入っているので足りないことはないだろう。ワインも赤白二本ずつ、ソムリエナイフと一緒に用意しておく。

 袖の下である。良きに計らえ、ルドルフ。


 どこかに紙袋はなかっただろうかと探すもキッチンにはなく、そういえばとユーティリティールームの日用品が入っていた扉の中を覗けば、厚手の無地の紙袋が大きさ違いで三種類、数枚ずつ入っていた。この紙袋のきれいなロイヤルブルーを憶えている。

 一瞬でも目にした物が全て再現されているのは、本当にすごいことだ。

 とりあえず大中小一枚ずつ持ってキッチンに戻り、大サイズにサンドイッチを保冷剤と一緒に無理矢理入れ、中サイズにはワインボトル、小サイズにはプチケーキの箱を入れた。ワインボトルの重さに底が破れないか心配になったが大丈夫そうだ。



「おはよう」


 ルドルフがダイニングキッチンに顔を出した。

 律儀に昨晩ルドルフの部屋に持って行ったトレーを手にしている。空になったワインボトルやグラスなどは浄化され、きれいになっていた。王弟なのにマメである。


 スクランブルエッグとボイルしたソーセージにベビーリーフを添え、インスタントのオニオンスープにヨーグルト、オレンジを用意しておいた。


「おはよう」


 ルドルフからトレーを受け取り、トーストと一緒にバターやジャムなど一通り用意し、コーヒーメーカーをセットしながら、席に着く。


「いただきます」


 さすがにもう涙を浮かべることはないものの、目を輝かせて嬉しそうに食事を取るルドルフを見ていると、こちらまで嬉しくなる。

 食べている途中、コーヒーの香りが漂い始め、それぞれのマグカップにコーヒーを注ぐ。



 紙袋を三つルドルフに渡すと喜んでくれた。特にサンドイッチを二十人前用意したと言った時の目が、笑ってしまうくらいに輝いていた。

 一緒に玄関に向かい、あの日のスタッフに教えられたのと同じように、ルドルフにもオートロックの説明をする。扉の横のモニターに触れながらオートロックの電源を入れ、玄関側にまわりオートロックの解除方法を教える。暗証番号はリセットされた状態の0000のままにしておいた。後で相談して変えよう。


 ルドルフは昨日、律儀に外に出てから転移していた。


「これからは直接玄関ホールに転移すればいいですよ」

「それは助かるな。では行ってくる」

「いってらっしゃい。お気を付けて」


 ルドルフを見送って、オートロックを解除して家の中に戻る。

 今日はとりあえずキッチンやユーティリティーの扉の中チェックだ。必要な物といらない物を分別しようと思う。

 例えば浄化の魔法があるので洗剤などは必要ない。折角のドラム式洗濯乾燥機だが、使うことはないだろうし、吸引力に自信があると謳っている掃除機も必要ないはずだ。

 でも各部屋に常駐しているロボット掃除機はかわいいのでそのまま稼働させておこう。


 一旦状態保持の魔法を解除して、要不要を仕分けする。

 ごそごそと扉の中の物を出したり仕舞ったりしながら、商品をひとつひとつチェックしているのはなかなか楽しい。


 ユーティリティールームの仕分けをのんびりしているうちに、お昼になった。冷蔵庫からクラブハウスサンドを食べる分だけ取り出し、絞りたてだろうオレンジジュースはピッチャーごと出しておく。

 午後はまず冷蔵庫チェックからだな。

 カフェコーナーで外を眺めながら、ランチにする。

 今頃ルドルフ一家もサンドイッチを食べているのだろうか。やっぱり涙目になっているのだろうか。想像するとなかなか愉快な一家だ。愉快な一家だが、王族なんだよなぁ。何となく複雑だ。



 さて、冷蔵庫チェックだ。

 クラブハウスサンドに挟まれていた、ローストビーフの残りらしきものを発見。それでも二人で食べるには十分な量だ。グレイビーソースもある。今晩はローストビーフにしよう。

 焼くだけになっているアップルパイやプリン、ロールケーキも発見。

 高級和牛ステーキ用の肉、しゃぶしゃぶ用やすき焼き用の霜降り肉などが、四人前ずつカットされ、バットに入れられている。牛や豚肉の塊、鶏肉もある。いずれも国産ブランド肉だ。

 野菜室にも有機野菜や果物が揃っている。ルッコラなどのハーブ類も発見。ルッコラ好きだ−。

 冷凍庫には板氷と色んなブランドのアイスクリームが詰まっている。アイスケーキまである。あとは保冷剤もいくつか入っていた。


 食品庫と呼んでいるキッチンの収納扉を開ける。

 中には缶詰やレトルト、瓶詰めなど、色んな種類が入っている。パスタも色んな種類が揃っている。うどんやおそば、お米もある。カップ麺も十種類くらい揃っている。ミネラルウォーターのストックもある。そういえばウォーターサーバーはなかったな、このコテージ。


 食品に関しては今のところ不要な物はないので、ざっと何があるかを把握しておくだけにする。

 スパイスは某メーカーの物が一通り揃っているようだ。正直何に使うのか分からない物まである。



 一旦休憩することにした。

 たくさんの物を確かめながら見ていたので、目が妙に疲れた。

 先ほど見つけたプリンと、オレンジジュースを持って、カフェコーナーからテラスに出る。

 テラスにもおしゃれなガーデン用の家具が置かれ、さすがリゾート地といったところだ。確か当時も同じことを思った気がする。

 屋外にガーデン用とは言え大きなソファーが置かれているのを見て、屋根があるとは言え雨が吹き込んできたらどうするんだろうかと思ったものだ。

 とりあえず雨除けの魔法を掛けておく。一つ一つに魔法陣を刻みながら、テラス全体に掛ければ良かったのではないかと気付いた。まあ、いいや。


 そのままテラスのソファーで寝こけてしまった。






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