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14 トランク

 夕食後、ルドルフをミントの部屋に案内する。

 お風呂や洗面、トイレなど、部屋全体の使い方を一通り説明したあと、私もシトラスの部屋に戻った。


 部屋はそれぞれホテルの一室のような作りとなっており、入って直ぐの玄関のような場所で室内履きに履き替える。

 小さな玄関ホールのようになった左手にパウダールームの扉、正面にベッドルームの扉ある。ベッドルームとパウダールームの間にはウォークインクローゼットとがあり、それぞれが扉で繋がっている。部屋によって扉の位置が左右異なる。



 あの猫足のバスタブにお湯を張ろうと、クローゼットを通り過ぎたその時、空っぽだと思っていたその片隅に、当時私が使っていたお気に入りのトランクを発見した。

 開けてみれば、当時私が用意した着替えが詰め込まれており、下の方に詰めていた下着を発見して思わず叫んだ!


「パンツだー!」


 これであのステテコとおさらばできる!

 当時、折角の高級コテージだからと、下着も洋服も奮発してここぞとばかりに新しい物を用意したのだ。

 膝丈のAラインのワンピースは袖が膨らんだかわいらしいデザイン、同じく膝丈のエンパイアスタイルのワンピース、やはり膝丈のAラインのフレアワンピースの三枚はいずれも長袖だ。部屋着にシンプルなマキシ丈の半袖のワンピースと薄手のカーディガンが二枚。ぺったんこのバレエシューズも一足。こちらに来たときに履いていたのは、ミドル丈のレースアップブーツだったので、ひそかに足は蒸れるし、脱ぎ履きが面倒だったので助かった。


 とりあえずトランクを一度閉め、状態保持の魔法を掛ける。刻まれた魔法陣をしみじみ眺め、当面の洋服や下着の心配が無くなったと、心底ほっとした。

 再度トランクを開け、クローゼットに収めていく。トランクが空になったところで一旦閉め、再度開けると中身が再現されている。再びクローゼットに収め、再度閉めて、開けて、収めて、洋服が三倍になったところで、下着だけを取り出すこと二回。下着も普段は着けないような、かわいいものを用意したのだ。

 ひとまずこれだけあれば十分だろう。なにせ浄化の魔法がある。

 同じ洋服しか再現されないのが残念だが、それはそのうち考えよう。今はこれで十分だ。


 今度こそお風呂にお湯を張り、下着とパジャマ代わりの部屋着を持ち、本日二度目のお風呂に入る。極楽じゃ。



 お風呂を堪能し、しっかりスキンケアとヘアケアをした後、空いているローズの部屋を再度チェックしに行く。

 ウォークインクローゼットの引き出しの中を全て開けてみたものの、こちらは空っぽだった。さすがに友人たちの持ち物までチェックしてはいなかったので、再現されてはいなかった。


 シトラスの部屋に戻ろうとしたとき、ルドルフの部屋の扉が開いた。


「丁度良かった。今から青の看板の宿屋の部屋を引き払ってくる。転移で行くから直に帰ってくるがいいだろうか?」

「こんな時間にですか? 明日にすれば?」

「いや、多分まだ大丈夫だ」

「じゃ、私はもう寝ちゃいますので、勝手に行って勝手に帰ってきてください。

 あ、ついでと言っては何ですが、私の部屋の荷物も持って来て貰ってもいいですか?」

「わかった」


 この家に居着く気満々のルドルフが階下に降りて行く。


「お願いします」


 私の声に片手をあげ、出掛けていった。

 王族をあごで使っていいのだろうか。ルドルフも普通に「わかった」と言っていたからいいことにしよう。

 そもそもルドルフは王弟っぽくない。普通顔だし、よく鼻の穴を膨らませているし、イマイチ気品もないし、俺って言うし。

 私の中の王弟のイメージは、腹黒く王座を虎視眈々と狙っている、プライドが高く隙の無いイケメンだ。腹黒イケメン必須。

 大変残念なことに、ルドルフとは真逆のイメージだ。妙に兄弟仲も良さそうだし。


 そんなことを考えていたら、ルドルフが手に荷物を抱えて帰ってきた。早。


「お帰りなさい」

「……ずっとそこに居たのか?」

「あー、ちょっと考え事?」


 ルドルフから自分の荷物を受け取る。

 あごで使ったことと失礼なことを考えていたお詫びに、キッチンの収納庫の中に設置されていたワインクーラーの中から、適当に選んだ赤ワインをひと瓶、ワイングラスとソムリエナイフ、冷蔵庫にチーズを見つけ、それらをトレーにのせてルドルフの部屋に持って行く。

 このワインも多分それなりの物なのだろう。もちろんワインクーラーにも状態保持の魔法が掛かっている。抜かりはない。


 ルドルフの部屋のインターフォンを鳴らす。

 鳴らすが一向にルドルフが出てこない。もう寝たのかと思いながらも、ルドルフの名前を呼ぶと、扉が開いた。インターフォンの意味が分からなかったらしい。


「お邪魔します」


 言いながらルドルフの横を通り過ぎ、開けっ放しのベッドルームの扉を抜けて、コーヒーテーブルの上にトレーを置く。

 ルドルフが、未婚の女性がこんな時間に云々と言っているが、気にしない。


「これ開けられますか?」


 キャップシールを剥がし、コルク栓とソムリエナイフを見せながら聞けば、この世界にも、ワインやコルク栓があるという。ソムリエナイフを渡せば、しばしナイフの形状を確かめた後、危なげなくコルク栓を抜いた。

 ソムリエナイフからコルクを外しながら、ルドルフは「これは便利だな」とソムリエナイフを見ていた。どうやら気に入ったらしい。

 ワインボトルからグラスへとワインを注ぎ、どうぞと差し出す。


「リーエはいいのか?」

「私は強いお酒が苦手なので」

「そうか。それにしてもいい香りだ」


 口に含んだルドルフが目を瞠り、こくりと飲み込んだ後、「旨い!」と叫んだ。

 やはりそれなりのワインらしい。うん、さすが高級コテージ。私が愛飲していた缶チューハイなんてどこにもなかった。その高級さが時に徒となる。

 私は最初からワインを飲む気は無かったので、ワイングラスはひとつしか用意していない。

 ツマミのチーズをお行儀悪くツマミながら、荷物のお礼を言い、「お休みなさい」と言って部屋を出る。 


 部屋に戻り、歯を磨き、ベッドに潜り込む。

 久しぶりのベッドが嬉しい。羽毛布団も軽くて暖かい。枕があるって素晴らしい。寝るときの環境って大切なんだなぁとしみじみ思った。横になっただけで疲れが癒やされていくような気がする。

 この家を建てて良かった。この先何とかやっていけそうな気がする。先の事を考えると不安になるので、今はベッドの寝心地だけを考える。


 寝心地の良さに感動しながら、すこんと眠りに落ちた。






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