13 王族
ルドルフ兄弟の仲が良いこと、この国の情勢も今は安定していること、他国との関係もおおむね良好なことを聞いて、ルドルフの兄弟たちには私のことを話すことに決めた。
ルドルフの兄弟たちは、次男とルドルフが魔力があるという。次男はルドルフと比べれば小さいが、大きな魔力を持つそうだ。だから私に一番関心を示すのは、次男じゃないかとルドルフは考えているらしい。
ルドルフの名前は、正式にはルードルフで、ルードルフ・ファルファラーなんとか・ファルファラー、だそうだ。最初に聞いた時はファルファラーも聞き取れず、ファルなんとか、なんとかラーと聞こえた。
ファーストネームは個人名、ミドルネームは家名と続柄、ラストネームは両親の家名と出身国だそうだ。なので本来はフルネームで名乗られた段階で、この国の王族であり、三番目の王子であることも分かるようになっている。
ちなみにルードルフやファルファラーと私には聞こえているが、実際にはちょっと発音がおかしいらしい。
面倒くさいのでやっぱりルドルフと呼んでいる。出来れば更に短縮したい。
「では私は、莉恵・加藤家の長女・日本の加藤家ですかね」
「カトゥは家名だったのか? リーエが名前か」
「莉恵です、リエ。元の世界では加藤莉恵、リエ・カトウです」
「リーエ・カトゥ」
「リエ・カトウ」
「リーエ・カトゥ」
私がルドルフの名前の発音がおかしいように、ルドルフも私の名前の発音がおかしい。
だいたい日本の加藤家なんてどれだけあるだろう。
ここでは、名前が三つあるのは上流階級だけらしいので、家名が被らないのかもしれない。
そうか、ルドルフは王弟なのか。
なんというか、物語で言うところのありがちな展開だ。でも、ありがちな展開ならもう少しイケメンでもいいだろうに……。
おかしな発音で私の名前を連呼するルドルフの普通顔を眺めながら、失礼なことを考えていた。
元の世界でもイケメンな王族って少なかったもんなぁ。現実は甘くない。
「ねぇ、王族なのに、どうして高級宿屋じゃなく普通の宿屋だったの?」
「ああ、あそこの女将は俺の乳母だったんだ」
なるほど、信用できると言うわけだ。
宿屋の女将さんは、たまたまアルバの街の長の知り合いで、その伝でルドルフの乳母になったらしい。
女将さんの長男はルドルフと一つしか違わない上に、大きな魔力持ちだったため、今はルドルフの補佐をしているそうだ。
次男は武力隊に所属しており、長女はアルバ街長の息子さんと結婚したそうで、三男は青の看板の宿屋の跡取りとして修行中なのだそうだ。
正直私にとってはどうでもいい。
更に、次女四男三女についても語ろうとしたルドルフを止める。
本当、青の看板の宿屋一家のことはどうでもいい。
この国には、上流、中流、下流の三つの階級制度があるそうだ。
王族や代々続く歴史ある家柄が上流、商家など裕福な家柄などが中流、それ以外は下流となるが、表向きには差別はないらしい。
王族は直系男子による世襲制だが、必ずしも長男が継ぐわけではなく、ルドルフの兄弟の場合はたまたま長男が国王になったらしい。長男は次男が国王になればいいと思っていたらしい。
政治や制度は正直どうでもいいので聞き流した。自分にかかわらなきゃどうでもいい。日本にいたときだってそうだった。
ひとまず今は、この世界のこともこの国のことも、きちんと把握も理解も出来ていないので、全部ルドルフに丸投げするつもりだ。必要になったらその時憶えればいい。
リビングの白い方のソファーに座って話し合っていたが、既に日は暮れ、時計を見れば午後八時を過ぎていた。飲まず食わずで話していたので、喉も渇いたしお腹も減った。
ルドルフとダイニングキッチンに向かい、私は夕食の準備、ルドルフはダイニングキッチンのチェックに勤しんだ。
ルドルフのチェックの仕方が、過去の自分の所行を彷彿とさせ、友人たちが貧乏くさいと言っていた気持ちが分かった。うん。気をつけよう。
夕食は、冷蔵庫にあった高級ステーキ肉を塩胡椒でシンプルに焼き、ベビーリーフなどと一緒に盛りつけた。
コーンスープの缶詰を見つけたので、牛乳で伸ばしながら温める。フランスパンをカットして軽く温め、バターを添えた。明日はご飯が食べたい。
自炊用なのか、缶詰やレトルト、調味料が充実しており、手抜きしようと思えば飽きるまで手抜きが出来そうだ。
ちなみに食品庫の片隅にレシピ本まで揃っていた。さすが高級コテージ、至れり尽くせりだ。
出来た夕食を前に、ルドルフがまたもや涙を流さんばかりに感動し、感動しながらものすごい勢いで食べている。なんともせわしない。王族なのに気品がない。本当に王族なんだろうか? 自分のこと俺って言うし。
食後のコーヒーを飲みながら、ようやく人心地着いたらしいルドルフに明日の予定を告げられる。
「明日、陛下にリーエのことを話そうと思うが、いいか?」
「いいよ。ルドルフに任せる」
「出来れば明日、あのサンドイッチを持って行きたいのだが、作って貰えるか?」
「いいよ」
作るも何も出来合である。冷蔵庫に常に四人前が常備されていることを告げると、冷蔵庫の魔法陣を確認しに行き、冷蔵庫を開け、サンドイッチのバッドを取り出し、ひとつ摘まんで冷蔵庫に戻し、再び扉を開けて奇声を発していた。
しばらくサンドイッチを食べては戻しを繰り返し、ようやく気が済んだのか、お腹がいっぱいになったのか、戻ってきた。
「明日、七人分、いや俺は二人分食べるから、八人分用意して貰いたい」
欲望に忠実だな、ルドルフ。あの感動を家族と分かち合いたいらしい。
「わかった。明日出掛ける前に声をかけて。用意しておく」
そんなに気に入ったのかと聞けば、さくっとしているのにしっとりもしているパンや、野菜のしゃきしゃき感や濃い味、肉の柔らかさやジューシーさ、複雑なソースの味、それらが口の中で混ざり合って噛む度に色んな味わいが広がるのだという。「こんな美味しいモノは今まで食べたことはない!」と力説していた。鼻の穴も膨らんでいた。余程衝撃だったのだろう。
夕食の肉やスープも兄弟たちに食べさせてみたいが、ひとまずは最初に食べたサンドイッチなのだそうだ。
これからもルドルフにはお世話になるつもり満々なので、そのくらいのことなら朝飯前である。




