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10 ライフライン

 吹き抜けのホールと玄関ホールに繋がるオートロックの扉の前で、またもや呆けているルドルフを見つけた。一体いつから呆けていたんだろう。お口閉じなよ、お口。

 静かに近づき、そっと下あごを持ち上げて口が閉じるようお手伝いをしてあげると、ゆっくり首を動かして私を視界に収めてから、ぼそっとつぶやいた。


「一体全体、なんだこれは……」

「私の家ですが、なにか」

「そうじゃない! そんなことは分かっている! どうやってあの一瞬でこれだけの物を作り出したのかと聞いている」


 くわーっと覆い被さってくる勢いで、ルドルフの顔が迫ってきた。近いよ。

 実は私もよく分かっていない。


「出来ちゃったって感じ?」

「は?」

「出来るかなーって頭の中で考えていたら、出来るって解ったから、やってみたら出来ちゃった。って感じ?」

「……って感じ?」

「そう。って感じ?」


 小首をかしげながら言えば、暫しルドルフが考え込んだあと面倒くさいことを言い始めた。


「なぁ、しばらく俺もここに滞在していいか?」

「……若い女性だか未婚の女性だかが、男性と一つ屋根の下で暮らすのはよろしくないんじゃ?」

「よろしくはないな」

「では却下で」

「カトゥは気にしないのだろう?」

「気にしませんでしたが、今この瞬間から気にします」

「大丈夫だ。俺は口が堅い。だから大丈夫だ」

「いや、何が大丈夫なんですか、何が!」

「そうと決まれば俺の部屋はどこだ?」


 ルドルフがホールをぐるりと見渡している。


「いや、何も決まってないし!」

「おぉ、宿屋と同じで二階が各自の部屋か」

「帰れよ! ルドルフ!」


 いそいそと二階に上がり、ラウンジの上の部屋を覗いて、「俺の部屋ここ!」と大声で宣言していた。お前の部屋じゃない!



 ……家が出来て私も心が広くなったのだろう。

 ルドルフは放置することにした。決して追い出すのが面倒くさくなったわけではない。しつこさに負けたわけでもない。


 とりあえず今までの宿代や借りたお金はチャラにしてもらうことを約束してもらい、しばしの滞在を許した。部屋の中でなにやら叫んでいるルドルフは放置するに限る。もう本当うるさい、面倒くさい。


 なんだか疲れた上に、お腹が空いたのでお昼にしよう。

 ホールに掛かっている時計を見れば既に午後二時だ。この世界も一日二十四時間なので時計はこのまま使えそうだ。


 キッチンに向かい、手を洗おうとシングルレバーを上げると、……水が出ない。あれ?

 もしやと思い、近くの照明のスイッチを押しても照明が点かない。あれれ?

 水はともかく、この世界に電気なんて無いよね。どうしよう、冷蔵庫の高級食材が腐る!


 慌ててユーティリティールームにあった配電盤を確認しにいく。

 配電盤を見ながら、どうしようかと考えていたら、ブレーカーに魔力を供給することで、魔力が電力の代わりになることが解った。万能だな! 魔力。

 ブレーカーを触りながら、魔力が電力へと変換されますように……と考えていると、指先からしゅるりと魔力が流れ出たように感じ、ブレーカーに魔力が染み込んでいった。


 ちなみに魔力は空気中に漂っている。酸素や二酸化炭素と同じ感じだ。

 魔力がある人は、空気中の魔力を体の中に取り込んで使用する。赤血球や白血球と同じように魔力の粒子が血液中を流れているらしい。ということが解った。



 ユーティリティールームの照明のスイッチを押せば、しっかり照明が点いた。よしよし。

 念のために冷蔵庫を開けてみれば、ちゃんと庫内灯が光っていた。よかった、よかった。

 冷蔵庫の中のミネラルウォーターを触ってみるとまだ冷たかったので、冷えた状態で再現されていたらしい。高級和牛も冷たいままだった。冷凍庫のアイスクリームも冷え冷えだった。よかった、本当によかった。


 次は水道だ。水が出なきゃ露天風呂が遠のく。

 キッチンの水栓を見ながら考える。それぞれの水栓を魔力で地下水脈につなげればいいと解る。ふむふむと思いながら、何気なく、くいっとレバーを持ち上げたら、なんと水が出た。


 ……水が出た。


 もう一度言おう、水が出た。

 よく見れば、水栓に魔法陣が刻まれている。


 レバーを持ち上げるときに、地下水脈からくみ上げた新鮮で冷たい水がでたらいいなと期待していたからか、無意識に水栓に魔法陣を刻んだらしい。

 そういえばさっきブレーカーに魔力が染みこんだ後も、魔法陣のような物が刻まれていた気がする。

 自分では無意識のつもりでも、そうなるよう考えて、考えた通りに魔法を使っていたらしい。

 なんだかよくは分からないが、そういうことらしい。さっきまでのルドルフの気持ちが少し分かった。私って何だろう?


 ついでにお湯の方向にレバーを回すと三十八℃のお湯が出るようイメージすれば、追加で魔法陣が刻まれた。隣の水栓にも同じように刻んでおく。


 この魔法陣を刻む、と私が思っているのは、実際に刻印のように魔法陣が刻まれているというわけではなく、魔法陣が描かれた小さな透明シールのようなものが貼り付けられている感じだ。刻むと言うより貼り付ける感じだ。

 ちなみに魔法陣も私が魔法陣だと思っているだけで、実際は商品によく貼られていたような、“Made in Japan”のシールや、メーカーのロゴのような地味な感じだ。

 よく映画などで見たことがある、六芒星の周りに文字が描かれ光り輝いているような、そんなかっこいいものではない。実際は非常に地味でしょぼい。


 忘れずに、排水口も別の使われていない地下水脈に魔力でつなげておく。浄化することも忘れない。


 先ほどの照明のスイッチを確認するとやっぱり魔法陣が刻まれていた。このスイッチを押すと天井の照明に電力が供給されるようになっており、スイッチと照明とブレーカーが魔力で繋がっていることが解る。


 冷蔵庫をチェックすれば扉の取っ手に魔法陣が刻まれており、やはりブレーカーと繋がっていることが解った。


 何というか、万能だな魔力も私も。


 使用しながらそれぞれを繋いでいけばいいかと、ひとまず昼食の準備に取りかかる。いい加減お腹が空いた。

 冷蔵庫を覗けば、ラップのかかったバットにクラブハウスサンドが入っていた。

 そういえば、いつでも軽食が用意されていたことを思い出し、他にスコーンやプチケーキも見つけた。

 それらを冷蔵庫や食品庫から出す前に、扉に今の状態をそのまま保つ魔法陣を刻む。これでどれだけ食べても無くなることはないはずだ。

 ん? 電気必要なかったかも?






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