01 門
“門をくぐり抜けたら、そこは知らない街だった”
その門をくぐり抜ける瞬間、ふと頭の中に浮かんだフレーズがそれだ。
何故そんなことが思い浮かんだのだろうかと訝しみながらも、そのままその門をくぐり抜けてしまった。
そのフレーズの裏にある、“もう戻れない”ということも解っていたはずなのに。
実際その瞬間まで目の前には門などなく、でも確かに門をくぐり抜けたと感じ、その門から一歩踏み出したそこは、知らない場所だと解った。
思わず振り向いたその瞬間、その門はほわりと空気に溶けるように消えてしまう。
門をくぐってから門が消えるまでの瞬くほどの一瞬の出来事は、目の錯覚かと思うほどに現実味がない。
でも──確かに門をくぐり抜け、知らない場所にいると解っている自分がいる。
何とも言えない不思議な気持ちになりながら再び前を向いて驚いた。
何もない。
正しくは見渡す限りの草原とでも言うべきか。
さっきまであったはずの見慣れた景色はなくなっていた。
慌てて振り返るも見渡す限りの草原。
雲ひとつない真っ青なだけの空と、ただ一面緑の草原の二色だけ。雲ひとつ、花ひとつ見えない。
思わず目を瞑る。
なに? どうした? どうなってるの? スーパーじゃないのここ? さっきまでスーパーの入り口にいたよね? なにこれ? どういうこと?
たくさんの疑問が頭の中に浮かぶ。
その一方で、待て待て、落ち着け、落ち着け私、と自分に言い聞かせてもいた。
もう一度まわりを確認してみようと目を開ければ、目の前に再び門がある。
なんだ。ここには一瞬迷い込んだだけか。なんだぁ。びっくりしちゃった。やだなもう。焦っちゃった。
そんなことを思いつつ、再び目の前の門をくぐった。
思い起こせば、更なるおかしな事態に足を踏み出そうとしているだけなのに、なぜ“一瞬迷い込んだだけ”などと思ったのだろうか。
確かに“ここには”一瞬迷い込んだだけだと、解っていたとしても。
何故その一歩を踏み出してしまったのか。
何故再び門をくぐり抜けてしまったのか。