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わーるどいくじっと  作者: 以龍 渚
Episode of "Haiji Kirisaki"
8/31

GAME.2「Intelligence」その4

「それでは、Intelligence本編開始といきましょうか」

 まるで仕切り直すかのように、奴が皆そうに告げる。……山葵の辛さにのたうちまわるギコをスルーして。

「もしルールとか忘れていたなら、少し前を読み返してくださいね? もう一度同じことを言うのは面倒ですから」

 お前がそれを言うな。読み返せってなんだよ? だったら、変な追加ステージなんか挿入するなよ。

「あ、ちなみに、ボーナスステージを追加するからこうなるんだとかのクレームは受け付けませんからね」

 はいはい、わかっていますよ。

「それでは、出題順序を決めましょうか?」

 すると、いままで沈黙を保っていた龍臣が動き出す。

「俺からやらせろ」

 よっぽど、俺の言葉に腹を立てていやがるな? 一刻も早くゲームで俺に辛酸をなめさせたいのだろうな。

「すみませんが龍臣さん。ここは公平に決めましょう。――今から三枚のカードをお渡しします。そこに書かれている番号が出題順序です」

 そういうと、上方から三枚のカードが落ちてきた。

 それぞれがカードを手に取る。――ん? 俺が1番か。

「では、カードを見せてください」

 奴の指示従い、互いにカードを見せる。

 順番は、俺、龍臣、吉法師の順番だ。

 さて、クイズか。どんな問題でいこうかな。……ん? 待てよ?

「なぁ。一つ確認していいか?」

「はい、なんですか霧崎灰次さん?」

「お前、最初に知的問題を出し合えって言ってたけど、出す問題はなぞなぞとかのたぐいでも問題はないよな? 要はどちらか一人にしか答えられない問題を出せばいいんだろ?」

「なぞなぞ、ですか……。少しこのゲームの趣旨とは外れてしまいますが、まぁ、アリでしょう」

「じゃあ、俺からの問題だ。――ランキングネームって知ってるか? 要はゲームでハイスコアを記録したときに使う、三文字の英数字だ。数時間前にこれでちょっとしたトラブルに巻き込まれることになってな。……なぁ?」 会話を奴に振る。

「そういえばそうでしたね。たしかそれで霧崎灰次さんはこのゲームに初参戦することになったのでしたっけ?」

 よく言う。しらじらしい。

「で、このランキングネーム。ゲームによっては三文字までだったり、七文字以上使えたりするケースがあるんだが、ここで俺からの問題だ。――っと、その前に。俺の名前は奴が連呼してるからもう充分に伝わっていると思うけど、ミュウ。俺の名前を漢字で書いて見せてくれ」

「え? で、でも兄さん。私、書くものなんて――」

 ミュウがそう言いかけると、ミュウの掌の上にメモ帳と鉛筆が落ちてくる。

 丁寧に奴が気を利かせて用意してくれたか。

「――気が利くな? てっきり請求しないと出さないと思ったんだがな?」

 ミュウがメモ帳に『霧崎 灰次』と書いて、龍臣と吉法師に見せる。

「じゃあ、俺からの問題だ。俺がランキングネームとして使用している三文字の英数字と、文字制限が七文字以上の時に、三文字のランキングネームに四文字を足して使っている七文字のランキングネーム、そのネームに使っている七つのアルファベットを答えてくれ」

 俺が問題を出すと、龍臣と吉法師の前にフリップが現れ、色違いのフリップが俺の前に現れる。各自、それに答えを書けということだろう。

「ちょ、ちょっとあんちゃん? こんなのクイズでも何でもないじゃんか。第一、そんなのわかりっこないよ」

 ギコのいうことももっともだ。が、ヒントは問題の中に充分含まれているんだよ。

 歯ぎしりが聞こえてきそうな表情で龍臣が俺を睨みつけている。――吉法師は、もう書き終えているみたいだな。

 ……さて。ひとつ試しておくか。

 俺はフリップに回答を書き、その場に裏返して伏せると、龍臣に声をかけた。

「おい、龍臣。これが理不尽な問題だというなら、結局はその程度の男だってことだぞ? どうなんだ?」

 ……挑発に乗ってこいよ?

 歯ぎしりに加え、拳を握る音までもが聞こえてくるようだ。

「てめぇっ」

 龍臣が俺との距離を一瞬で詰めて、拳を振りあげる。

「兄さんっ」

 ミュウの叫びを耳にしても、俺はその場を動かない。

 龍臣の拳が、勢いよく俺の頬に命中する。

 だが痛みはない。それどころか、俺の身体はその場から微動たりともしなかった。

「――おい。俺の時は何もない空間に弾き飛ばされたのに、龍臣は弾かれないのかよ?」

 試したかったこと。それは、ルール外の行動がどう認識されるかだった。

 『Route』の時では、俺は神凪の入ったルートに入ろうとした時、何もない空間に弾き返されることになった。

 今回も指定されたルールに反する行為は抑制されると思ったが、思った通りだったな。

「わかったか、龍臣? 今回のルールじゃ、お前がいくら腕っ節が強かろうと、意味はないんだ。黙って俺の問題に答えてみろ」

「けっ。やってられるか。どうせそっちも答えられるわけがねぇ」 龍臣はペンを捨て、回答を放棄する。

「よろしいのですか? 龍臣さん」

「知ったことかっ」

「そうですか。では、答え合わせといきましょうか」

 吉法師がフリップを反転させる。

「この問題、いくつか答えに候補があったんですよ。そして、彼はそのヒントも提示していた。まず、彼が妹さんに名前を漢字で書かせて見せたこと。これは、答えの単語が名前の漢字から来ているって言いたかったってことでしょうね。つまり、三文字の英単語は霧のFogか灰のAsh。メインの三文字に名字から持ってくるとは考えにくいし、霧はMistの四文字として使用もできるから三文字の方はAsh以外は考えられないだろうと判断しました。それを踏まえて、残りの四文字の候補を考えると、霧がMist、崎という字は岬という意味があるから四文字の単語はCape。そして次という字からNextの単語が候補に上がります。そこで、もうひとつ彼のいった言葉、七つのアルファベット。つまり、同じ文字は使用していないということのヒントです。そうすると、MistではAshとSがかぶり、CapeではAがかぶる。だから答えは――」

 吉法師のフリップに書かれている単語は、『ASH・NEXT』だった。

「どうやら、吉法師さんは正解のようですね。それでは、吉法師さんと霧崎灰次さんに1ptが入ります。……さて。次は龍臣さんの番です」

 ……さぁ、どうでるか、龍臣は。

「そういえば、てめぇは電卓を持っているとかどうとか言ってたな? ――決めたぜ。俺からの問題は、あえて数字の問題だ。ただし、電卓程度じゃ答えを出せないような問題にしてやる。――円周率を小数点以下、そうだな……400桁くらいまで出してもらおうか」

 龍臣がそういうと、その場に投げ捨てたペンを取り、新しく作り出された自分のフリップに数字を書き始める。

 知識としてそれだけの数字を暗記しているのか、それとも計算方法が頭に入っているのか。龍臣は迷うことなくペンを進めていく。

 ……だが、勘違いをしているぞ、龍臣。俺は電卓を持っているとは言っていない。電卓のようなものを持っていると言ったんだ。

 俺は服の内ポケットからその問題の品を取り出すと、それを操作し始めた。

 ん? よく見ると、吉法師も何かを操作しながら書いているな。

「どうやら三人とも書き終えたようですね? では、答え合わせといきたいのですが……、そのフリップの内容をそのまま記載するわけにはいかないのですよ。いえ、ね。私としては数字の羅列だけで原稿用紙一枚分埋まるのはありがたい展開なんですが、本当にそんなことをすれば、読者が離れていってしまいますからねぇ」

 だから何の話をしているんだ、お前は。

「そういうわけで、各自のフリップの内容はお見せ出来ませんが、霧崎灰次さん、吉法師さん。ともに正解です。よって、またしても霧崎灰次さんと吉法師さんに1ptが入ります」

 ……おいおい。そんなんで龍臣が納得できると思っているのか?

 歯ぎしりが聞こえてくるようだ。

「龍臣さん、押さえて押さえて。どうやら龍臣さんは納得がいっていないようなので、説明をいたしましょう。――霧崎灰次さんと吉法師さんがなにかを使って問題を解いているのは気づいていますよね?」

「ああ、電卓だろ? それはわかってるんだよ。だがな、円周率を弾き出すのに、8桁だろうが、13桁だろうが、電卓程度で出来るわけがねぇんだよっ」

 だから、そこが間違えているんだよ。

「……龍臣さん。俺も彼も電卓を使っているわけじゃないんですよ?」 吉法師が龍臣に語りかける。

 そして、そう言いながら自分が使っていた物を龍臣の前に差し出した。

 吉法師が出したのは、折りたたみ式のゲーム機のような、掌より少し大きな端末機器だった。

「! モバイルPCかっ」 龍臣がそれを手にしてようやく気づく。

「きっと、彼も似たような物を持っているんだと思いますよ?」

 その言葉に、俺が手持ちの物を龍臣に見せる。

 俺が使っていたのは、吉法師のような端末機器ではない。――俺のポケットに入っていたのは、ここに呼び出されるきっかけとなったスマートフォンだ。

「円周率なんて、こいつで検索したらすぐに引っかかったぜ?」

「しかし、霧崎灰次さん。よく、ここに電波が入っていることに気がつきましたね?」

「何を言ってる? お前がこいつで俺をここに呼び込んだんだろうがっ」

「そういえばそうでしたね。――さて、龍臣さん。彼らがどうやって問題を解いたかは理解できましたよね? あ、言っておきますけど、カンニングとかそういったクレームは受け付けられませんよ? 吉法師さんが確認していますからね? 辞書を引きながらでもいいかって」

 さすがにこれで納得しないわけにはいかないだろう。

 あとは吉法師の出題か。これを俺が答えて龍臣が答えられなければ、龍臣の一人負けが確定する。

 さて、どんな問題で来る?

「では、次は吉法師さんの出題ですね?」

「その前に、一ついいかい?」

「あ、はい。どうぞ?」

「二人のフリップに、解答用の枠とかを追加することって出来るかい?」

 ん? 解答用の枠? 何を出題するつもりだ?

「そうですね……。では、こうしましょう。吉法師さん、そちらのフリップに問題文とその追加したいという枠を記載してください。それと同じ内容のフリップを二人に渡しましょう。その後、吉法師さんのフリップに問題の解答を記入してください。それでいいですか?」

「OK。それで問題ない」

 吉法師が自分のフリップに問題を記入し始める。問題を書き終えると、俺と龍臣の目の前にフリップが現れる。

 フリップに書かれている問題はこうだ。

[π=3.14とし、1~9の数字で、円周率の中で使用されているモノを、下記の枠内に英数字にて記入せよ]

 フリップの下部には、四角い枠が三つ書かれている。

「龍臣さんが円周率の問題を出していたんで、俺も円周率問題にさせてもらいましたよ。答えはいくつかあるんで、正解だったらどの答えでも問題なしです」

 ……単純に考えれば、『314』なんだろうが、これはあからさまな引っかけだ。

 これは考えるまでもない問題だ。『英数字で』ってのは、記載するべき文章じゃなかったな。

 俺は枠内に三文字の英数字を記入する。――が、龍臣がまだペンを進めていない。あいつはここまで無能なのか?

「よろしいのですか、龍臣さん? ここで霧崎灰次さんが正解してしまいますと、あなたの敗北が確定しますよ?」

 まだ答えを書いていない龍臣を、奴が急かしている。

 龍臣がフリップに答えを書き始める。

「龍臣さんも答えを書き終わったようですので、答え合わせといきましょうか。それでは、フリップを吉法師さんに見せてください」

 先に龍臣がフリップを反転させて答えを見せた。龍臣の答えは――



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