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わーるどいくじっと  作者: 以龍 渚
Episode of "Haiji Kirisaki"
6/31

GAME.2「Intelligence」その2

 ! 待て、夕食獲得、ゲーム!?

「ちょっと待て。ゲームってなんだ? それにミュウが参加ってどういうことだ?」

「そんなに血相を変えないでください、霧崎灰次さん。ゲームと言っても簡単なモノで、食材を選んでいただいて、それを調理していただくだけのモノなんですから。……クイズが始まると、お嬢さん方は傍観者になりますからね。このくらいのボーナスステージくらいはあってもいいでしょう?」

「ペナルティの設定は?」 これだけは確認しなくてはならない。簡単なゲームと言っても、ここでは安心が出来る材料とはならない。

「霧崎灰次さん? 食材選んで調理するだけのゲームに、どんなペナルティを想像しているのですか? ――あ、でも、ひとつだけ注意点がありますね。選んでいただいた食材は必ず全て調理していただいて皆さんで召し上がってもらいますよ」

「それだけ、なのか? ……本当に?」

「疑りぶかいですね、霧崎灰次さん。言っているでしょう? ボーナスステージだって。では、始めましょうか。まずは食材選びです。こちらは近衛さんにお願いしましょうか。――近衛さん、まずはあなただけ別室への移動をお願いします」

 そういうと、この空間に新しい扉が現れた。

「ちょ、ちょっと。食材選びってなんなのさ? まさか、狩りとか釣りとかしなきゃいけないわけ? そんなの、うちには無理だよ」

「安心してください。あなたがすることは、食材の名前が書かれた札を手に取っていただくだけのことですよ」

「あ、それならうちにも出来そう……」

「おい、嬢ちゃん。どうせなら肉を頼むぞ。ベジタリアンじゃねぇんだ、野菜だらけの夕飯は御免だ」 龍臣が近衛に食材のリクエストを告げる。

「はいはい、お肉ね。じゃあ、ミュウちゃん。ちょっと行ってくるね」

 近衛が扉の中に入っていく。すると、すぐに近衛が声を上げた。

「ねぇ。この札に書かれているのが食材の名前なんだよね?」

 俺たちに中の状況を知ることはできない。――しかし、嫌な予感がしてきやがった。

 わざわざ食材の名前か確認を取ったってことは、一目で食材の名前と判断できない札になっているってことだな。

 と、そんなことを考えている直後、その嫌な予感を確信に変えることの出来る言葉を近衛が口にした。

「肉がいいってことは、豚、牛、鳥のどれかでいいのかな? ギュウ……なんだろ、この文字は? 読めないからまあいいや。トリ……の後の文字もわかんないや。あ、豚なら読める。カワブタ、だよね? ……うーん、どれがいいんだろ?」

 待て待て待て。カワブタって、まさか――

「なぁ、妹さん? アンタはカワブダを調理できるのかい?」 吉法師がミュウに確認を取る。

 ……出来るわけがない。ミュウはただの学生。料理が出来るといっても、普通の家事レベルでの話だ。

「えーと、すみません。そのカワブタってのはなんなんですか?」

カワブタだなんて言われても、普通の人なら即座に気付くのは難しいだろうな。

「ミュウ。カワブタを漢字で書いてみろ。多分、あの子の入った部屋に置かれている食材札とやらは、漢字表記だ」

「カワブタ? 皮豚……川豚……河豚……! 無理無理無理、無理です。河豚ふぐの調理なんて、私出来ませんっ」

「でしょうね。妹さんじゃなくても、普通の人にはまず調理出来る食材ではありませんよ。相変わらず、えげつないルールを提示してくれますね。完食のルールがあるのは、こういう意味だったんですね」

吉法師が冷静に現状を口にする。

たしかにえげつねぇ。とりあえず、豚はダメだ。……いや、待て。だとすると、鳥もマズイ。

「おい、嬢ちゃん。豚はダメだとよ。こっちの嬢ちゃんが調理出来ねぇらしい。牛か鳥に――」

龍臣が食材を牛か鳥に変えるように指示を飛ばそうとしたが、俺はその言葉を遮った。

「鳥もダメだっ。鳥の後の文字に、もしかして、シロって漢字が入っていないか? 白色のシロだ」 俺の予想通りなら、鳥はアレの可能性がある。

「え? あ、うん。なんか、白に足が二本。その横にカッコみたいのが」

 最悪だ。まんまじゃねぇか。

「とにかく、それはダメだ。それは――」

 と、突然、近衛の入っていった扉が消え、近衛との会話が遮断されてしまった。

「はいはーい。ダメですよ、霧崎灰次さん。それ以上アドバイスをされては、食材確保役に近衛さんを指名した意味がなくなります」

「……おい。まさか全部が毒食材なんてことはないよな?」 ……俺が思いつく限りでは、牛の漢字が頭にくる食材で毒食材はないと思うが――

「兄さん。まさか、豚が河豚だったみたいに、鳥の方にも何か毒が入っているんですか?」

「ああ。まず間違いなく鳥兜トリカブトだろうな。鳥肉でもなんでもない、根に猛毒をもった毒草だ。――なにがボーナスステージだ。ゲームオーバーの可能性も秘めた、悪質な追加ステージじゃねぇか」

「それはお褒めの言葉と取って置きますよ、霧崎灰次さん。――さて、妹さん。あなたも移動をお願いします。そちらに調理場を用意しましたよ」

 そういうと、新たな扉を空間に作り出した。

「……頼むぞ、ミュウ。もう、お前だけが頼りだ」

「プレッシャーをかけないでください、兄さん。……出来る限りはやってみます。問題は、このちゃんが何の食材を持ってくるかです」

 ミュウが扉の中に入っていく。ミュウが扉を閉めると、空間に現れた扉が消えていく。

 すると龍臣が苛立ちを見せながら声を上げた。

「――おい。まさか俺たちは黙って毒食材が調理されるのを待つしかないのかよ?」

 もはや龍臣もこのゲームがボーナスステージとは思っていないようだ。

「おやおや。まだ毒食材が調理されるとは決まったわけではありませんよ、龍臣さん。――では、近衛さんの選んだ食材を見てみましょうか。……おやおや、おやおや?」

 少しわざとらしい、アイツの声が耳に障りやがる。

「おいっ、なんだ、その意味深な笑いはっ」 龍臣も同じようで、さらに苛立ちを悪化させているようだ。

「残念ながら、近衛さんは一つだけ有毒食材を選んでしまっているようですねぇ」

 それを聞いて、吉法師がすぐに声を上げる。

「彼女が選んだ食材札を全て公開してくれ」

「それは出来ませんよ、吉法師さん。そんなことをすれば、ゲームの面白味が激減してしまいます。――たしかに近衛さんが選んだ食材の中に一つだけ有毒食材がありますが、選ばれたその有毒食材は、調理次第で毒抜きが可能な食材です。……もっとも、霧崎灰次さんの妹さんがその方法をご存知であればの話ですがね」

 ……なにを選びやがった、あのポンコツ娘は。

 待つこと数分。空間に再び扉が現れた。

「調理が終わったようですね。さてさて。どんなご馳走が出てきますかな?」

 ご馳走なんて言葉は、嫌みにしか聞こえやしない。

 扉からミュウとポンコツ娘が五つの盆を乗せた台車を引いて姿を見せる。

 盆には銀色のドーム状のフタがかぶせてあり、出来上がった料理を確認することは出来ない。

「妹さん。食材の毒抜きはうまくできたのかい?」 吉法師がミュウに核心をついた質問を飛ばす。

 これでミュウが成功、あるいは努力はしたが失敗したと答えれば、まだ望みはあったのかもしれない。

 だが、ミュウの答えは――

「え? 毒の入った食材なんてありませんでしたよ?」

 最悪の答えだった。……ミュウは、なにが毒食材なのかわからずに調理しているということになる。

「おいっ。有毒食材があるってのはてめぇのデタラメか!」 龍臣が上方に向けて怒鳴り散らす。

「まぁ、そういう考えに至りますよねぇ。ですが、いくらボーナスゲームとはいえ、私がゲームで嘘をつくことはありませんよ」

 食事用にこの空間に作り出されたと思われる、大きな食卓の上にミュウとポンコツ娘が次々と盆を並べていく。

 吉法師が、その盆の一つが置かれた席の前に立つ。

「御託を述べるより、現物モノを確認した方が早いですね」

 そういって吉法師が、盆の蓋を開けた。

 熱せられた鉄板皿が食材の油を弾きながら、激しく音を立てる。

 だが、そこに肉はなかった。鉄板皿に乗せられていたのは、添え付けのフライドポテトと、――ごぼうの唐揚げと見えるメインディッシュだった。

「……そういうことですか」 吉法師はこれだけの情報で全てを理解したように呟いた。

 そして、言葉を続ける。

「有毒食材は、『悪魔の植物』のことを言っているんですね?」

 悪魔の植物? ……いや、待て。悪魔の植物ってのはたしか――

「さすがは吉法師さんです。しかし、ずいぶんと古い呼び名をご存じなのですねぇ。――ですが、手をつけるのはまだ待ってもらえませんか? ……近衛さんは、まだ一つ食材札を隠し持っています。それを提出していただかないと完成とはいえませんよ?」

ポンコツ娘がまた何かしでかしやがったのかよ。



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