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わーるどいくじっと  作者: 以龍 渚
Episode of "Haiji Kirisaki"
5/31

GAME.2「Intelligence」その1

「これで、今回のゲームの参加者は全て揃いましたね。ではさっそく、ゲームの説明といきましょうか」

 いまここにいる人間は、俺を含めて五人。

 建築作業員――土方どかた風のイカツい男と、俺より少しだけ年上に見える俺と同じ高校生風の男。そして、俺の妹のミュウと、そのそばにいるのが、ミュウを巻き込んだというミュウの友人の子だろう。……少し残念そうな女の子だ。

「今回、みなさんに挑戦していただくゲームは『Intelligenceインテリジェンス』です。これは三人での対抗戦となっています」

 奴の言う、三人という言葉に土方風の男が反応する。

「三人? そこの嬢ちゃんらは一組ってのは分かるけど、それなら四人じゃないのかよ?」

「あ、すみません。彼についての説明がまだでしたね?」

 彼? ……ああ、俺のことか。

「彼は私がお呼びしたゲストです。といっても、傍観者としてのゲストではありませんよ? 今回、ゲーム経験者のお二人と、初体験のお嬢さん方ではゲームになりませんからね。彼はお嬢さん方の助っ人としてお呼びさせていただきました、そちらのお嬢さんの身内の方です」

 今度は学生風の男が口を挟む。

「それで、彼は『強い』のかい?」

 この場合の強いと言うのは、腕っぷしって意味ではないだろうな。

「それはそれは。『吉法師きっぽうし』さん。あなたと同じ、私のお気に入りですよ、彼は」

 学生は吉法師っていうのか。――いや、それより俺はいつの間に奴のお気に入りになったんだ?

「おいっ。くだらんことは言わんでいい。とっととゲームのルールを説明しろっ」 土方が苛立ちを見せる。

「やれやれ。あいかわらず短気ですね、『龍臣たつおみ』さんは。では、ゲームの説明といきましょうか」

 土方の方は龍臣っていうのか? ……ん? ちょっと待て。なんでこいつらはフルネームで呼ばれないんだ?

 俺がそのことを問いかけようとすると、すぐに奴が反応を示してきた。

「くだらない質問はなしだそうですよ、霧崎灰次さん」

 ――ちっ。あいかわらず俺はフルネームで呼ぶのかよ。

「さて。ルールはいたって単純です。互いに知的問題を出し合って、それに正解すればポイントを一つ与えます。そして、誰かが3ポイント獲得した地点でゲームは終了です」

 ……なんじゃ、そのルールは? つまり、早い話が――

「早い話が、クイズの出し合いっこってことでいいのかな?」 俺より先にその考えを吉法師が口にした。

「そういうことです、吉法師さん」

「でも、そのルールだと出題者にメリットがないように思えますね? それとも、問題を不正解にさせたら、出題者にもポイントが入るのですか?」 吉法師が言葉を続ける。

「うーん、まだ説明の途中なんですけどねぇ、吉法師さん。――出題者にポイントが入るケースは一つです。一人が正解し、もう一人が不正解だった場合のみとなります。こうしないと、誰でも答えられる簡単な問題や誰も答えられない理不尽な問題を出して出題する番を手抜きされかねませんからね」

「おい。つまり、要約すると出題者はどちらか片方しか答えられない問題を考え、回答者は出された問題を答えるだけってことなんだな?」 今度は龍臣の方が問いかける。

「簡単に言えばそうなりますね」

 龍臣がさらに言葉を続ける。

「わざと間違える行為はアリか?」

 ……それは俺も考えた。不正解にペナルティがない以上、二人がわざと不正解になれば、出題者はポイントを得ることが出来なくなる。――だが、それは意味のない行為だろうな。

「はい、アリですよ。ですが、それは多分意味のないことになりますよ」

「? どういうことだ?」 龍臣が奴に聞き返す。

 どうやら龍臣はわかっていないようだな。……やれやれ。

「取れるポイントは取れってことだよ。そんなことをしてゲームを引き延ばすより、正解取って早く3ポイント溜めた方がいいに決まっている。――俺からも質問をいいか?」

「どうぞ、霧崎灰次さん」

 本当、なんで俺だけフルネームで呼びやがるか聞きたい所だな。だが、今はこっちの確認が先だ。

「クイズを答えるのに、手持ちの道具を使うのはアリか?」

「と、申しますと?」

「たとえばだ、仮に俺がメモ帳を持っていたとして――いや、遠回しに言うのはやめよう。単刀直入で言おう。俺は今、ポケットの中に電卓のようなものを持っている。もし、計算問題を出されたとして、その電卓を使って答えるのはアリかってことだ」

「……なるほどね」 俺の言葉に、吉法師が笑みを浮かべた。――俺の質問の意図に気づいたのか?

「そうですねぇ。まぁ、アリとしましょう。でも、いいのですか? 手の内を晒した以上、誰も計算問題なんて出さないと思いますよ?」

 俺の確認が終わった直後、吉法師が口を開いた。

「俺からもいいかい? 彼の電卓を認めるってことは、もし仮に俺が辞書を持っていたとしたら、その辞書を引きながらクイズに回答しても問題ないってことになるけど、いいのかい?」

「まぁ、そうなりますねぇ。もっとも、そんなモノはここには持ち込めないと思いますけどねぇ。霧崎灰次さんのように、偶然服のポケットに入っていたというのなら分かりますが、辞書は無理でしょう」

 ……やはり、吉法師は気づいていやがる。その上で確認を取りやがった。

「さて、質問はそれくらいでよろしいですかね? ……まぁ、ただのクイズの出し合いっこに、そんなに聞く必要のあるルールなんてありませんでしょうしね。それより、まずはお互いの親睦を深めてみませんか? お嬢さん二人が蚊帳の外になっていますし、それに皆さんはほとんど初対面になるわけなんですから」

 たしかにあいつの言う通りか。正直俺はミュウ以外面識はない。

「おいおい。これから戦おうっていうのに、馴れ合いなんか必要なのかよ?」

「まぁまぁ、龍臣さん。少しは敵キャラの背景を掘り下げた方が、より感情移入しやすいと思いませんか?」

 ……この場合に感情移入は必要か?

「ちっ。じゃあ、まず名乗ればいいのか? ――俺は『藤吉ふじよし 龍臣たつおみ』。職は高層建築物の建築作業員だ。これでいいか?」

 土方じゃなくて、とびだったか。

「はい。では、吉法師さん」

「『吉法師きっぽうし 信市しんいち』。ただの高校生ってことでよろしく」

 本当にただの高校生なのかよ?

「――俺は名乗るまでもないと思うが、一応。『霧崎 灰次』。そいつに何度もフルネームを連呼されているからもう聞きあきた名前だろう? ……そいつとおなじ高校生だ。で、こっちが妹の――」

霧崎きりさき 美優みゆです。……すみません、兄さん。なんだが巻き込んでしまったみたいです」

「いや、お前のせいではないってのはわかってる。元凶は、あっちだろ?」

 ミュウの連れと見える、もう一人の女の子に視線を向ける。

「ちょ、ちょっとミュウちゃん。なんか、あんちゃんが凄い目でこっちを睨んでくるんだけど?」

 ……よくもまぁ、そんなことが言えるなぁ。

「あは、あははは」 ミュウの愛想笑いだ。

 板挟みになって、笑うしかなくなったってとこか。

「で、うちの妹にこんな悪い遊びを教えてくれた、お前の名前は?」

「おやおや。霧崎灰次さん、悪い遊びとは私のゲームのことですか?」

 ……お前は黙ってろ。

「うちは『神凪かんなぎ 近衛このえ』。よろしくね、あんちゃん」

 ん? 神凪? ……まさか、な。

「さて。これで皆さんのお名前は分かりましたね? では――」

「おう。さっそく始めるってか?」

 ――龍臣はずいぶんと乗り気のようだな?

「いえ。まずは皆さん、お食事と行きませんか? 今はちょうど夕食時ですし、私がご馳走いたしますよ?」

 夕食時? ……時間は現実と同じってことか。

「おいおい。飯ってなんだよ? 第一、ゲームん中で飯食って、腹なんか膨れんのかよ?」

 ゲームの中? ……そういえば、考えていなかったな。

 龍臣の言葉に、俺の頭に一つの疑問が浮かび上がった。

「一つ確認したい」

「はい。何ですか、霧崎灰次さん?」

 だから、何故俺をフルネームで呼ぶ。……もういい。

「――俺たちはゲームの中に身体ごと取り込まれているのか? それとも、意識だけ取り込まれているのか?」

「え? どういうことですか、兄さん?」

「考えてみろ、ミュウ。俺は自分ん家であいつに呼ばれたんだ。だが、お前は違うだろ? ――いや、きっとお前とその子は同じ場所にいたんだろうが、そこの二人は別の場所にいたはずだ。それがこのゲームの中に一同に集まっている。これが、身体ごとゲームの中に取り込まれたモノだとしたら――」

「もしかしてあんちゃん、うちら神隠しにあっているとでも言いたいわけ?」

「ご安心してください。皆さんは神隠しになんてなっておりませんよ」

「もっとも、脱出に失敗したら本当に神隠しにあわされるんでしょうね」 吉法師がさらりと恐ろしいことを口にした。

「吉法師さんまで人聞きの悪いことを言わないでください。――さて、霧崎灰次さんの質問の答えですが、ご想像の通り、ここに来ているのは皆さんの意識だけです。はたからみれば、今の皆さんはゲームに熱中しているようにしか見えないでしょうね」

「おいおい。それじゃあ本当にここで飯食う意味ねぇじゃねえか。だったらとっととゲームを始めろっ」

「まあまあ、龍臣さん。意味がないことはありませんよ? こういう話は知っています? 人間、脳が信号を送れば、実際にはなにもしていなくても実体に反映されるって現象があることを」

「『Plaseboプラセボ』、ですね」 吉法師がそう口にした。

「え? なに? ぷらせぼ? ――ミュウちゃん、なんのことかわかる?」

 ……近衛には難しいか?

「え、えーと……、兄さん?」

ミュウは俺に質問を丸投げしてきやがった。やれやれ。

「プラセボ――一般的には『プラシーボ』と呼ばれることが多い、医学用語の事だ。意味は偽物の薬。つまり、偽物の薬を本物の薬と思いこんで飲んで、病気が治ったって話のことさ」

「まぁ、つまりはそういうことです。少し違いますが、言いたいことはだいたい合っています。早い話が、脳が食事をしたと思い込めば、実際に食べていなくてもお腹が膨れるってことですよ。――では、これから夕食獲得ゲームを始めましょうか。この夕食獲得のゲームには、お嬢さん二人に参加していただきましょう」



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