表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わーるどいくじっと  作者: 以龍 渚
Episode of "Haiji Kirisaki"
3/31

GAME.1「Route」その3

 相手は骸骨。物理的に考えても、この鞘で奴の剣を持つ手の部分を砕くことは可能なはずだ。

 ただ問題は、奴の剣の腕がどのくらいのものなのかだな。

 ――考えている時間はない。もたもたしていると、あの翼の化け物がこっちに着いちまう。

 骸骨剣士が大剣を身構えた。――どうやら奴の警戒範囲内に入ったようだな。

 さすがに剣を身構えた相手に、こんな鞘で正面から突撃するのは自殺行為だ。……この武器では鍔迫り合い(つばぜりあい)も危ういからな。

 ならば、手は一つ。突進して、奴の目の前で直角に方向転換。奴に剣を空振らせて、横から奴の手を叩き落とす。

 俺は鞘の先端を握りしめ、覚悟を決める。

 意を決し――ダッシュっ。

 奴の剣の間合いギリギリの位置。――ここだっ、ここで直角移動。

 俺は地面を強く蹴り、奴の目の前で直進から水平移動に切り替える。

 すぐに反復し、鞘を振り上げ、奴の右側から殴りかかった。

 奴は剣を空振りし、今は無防備になっているはずだ。

 ――そう、無防備になっているはずだった。

 だが、実際は奴は剣を振っていなかった。囮動作と見抜かれた? ――いや、違う。奴に与えられているのは思考ロジックじゃない。機械ロジックだ。――完全に奴の攻撃間合いに入り込まないと剣を振らないってロジックになってやがる。

 だとしたら、まずいっ。このまま殴りに行けば――

 骸骨剣士の大剣が俺の頬をかすめた。――頬が熱い。血が垂れる感覚が伝わってくる。

 だが、こんなかすり傷で躊躇ちゅうちょなんかしてたら、せっかく見えたLoopholeを見失っちまう。

 俺はすぐさまに奴の攻撃範囲から脱出して、間合いを取る。

 仕切直しだ。――思考を切り替えろ。かすり傷で済んだのは、機械ロジックに気付いたからだ。

 そして、奴が機械ロジックで動いているのなら、奴の攻略は――たやすい。

 思考ロジックというのは、俺が右に動けば敵もそれに合わせて動くように、何パターンかの答えが用意してある。だが、機械ロジックとなれば、俺が右に動けば敵も右に動くといった決まった答えしか用意していない。

 つまり、奴は奴の攻撃範囲に何かが入ると必ず剣を振る。……俺自身でなくてもだ。

 俺は鞘に付いていた皮のベルト部分を引きちぎる。――かなり痛んでいたらしく、簡単に手で引きちぎることが出来た。

 そして、ゆっくり弧を描くように、ちぎった皮ベルトを奴に向かって放り投げた。

 山なりに投げられた皮ベルトが奴の攻撃範囲に入ると、奴はその大剣を振りかぶり、剣を振り下ろした。

 その瞬間をねらって、俺は横から奴に回り込む。

 奴の、振り下ろしたその腕にめがけて、俺は全力で鞘を叩きつける。

 これで奴の骨が尋常じゃない強度に設定されていたら終わりだろう。――だが、確信はなかったが、奴の腕を砕ける気はしていた。……しっかりと、奴の腕を砕くイメージが頭の中に描かれているのだから。

 鞘が奴の腕に命中する。――鞘が折れ、その半分が宙に舞ったが、それと同時に奴の剣を持つ腕が胴体から離れ地面に転がった。

 奴の大剣は金属音を響かせて、地面を跳ねながらその場に落ちた。

 ここからは一瞬だった。――俺は奴の顔面に向けて、半分の長さになった鞘を投げつける。

 すぐさまに転がった大剣に手を伸ばし、大剣を奪い取った。

 ……奴の指らしき骨片が握り手に残っていて、不快な感覚が俺の手に伝わってきたが、いちいち気にしている余裕はない。

 拾い上げた大剣を勢いよく振り上げ、奴の頭部を砕いた。

 奴の身体が、その場に崩れ落ちる。

 だが、勝利の余韻に浸る暇などない。もう、すぐそばにあの翼を持った化け物が迫って来ているのだから。

 俺は大剣の握り手の骨片を払い、翼持ちに対して剣を構えた。

 多分、勝負は一瞬だろう。俺が奴を瞬殺するか、奴に瞬殺されるかの。

 こうやって、遠距離から俺に向かって飛んできている以上、骸骨剣士のように機械ロジックで動いていないということはたしかだな。

 ……見るべきは、奴の鎌の刃先。見誤れば、俺の敗北――イコール、死が決定する。

 鎌を切断するイメージは? ……ちぃ、鎌どころか、柄の部分を切り裂くイメージすら浮かばねぇ。

 考えろ、考えろ。もうすぐ、奴が鎌の攻撃間合いに入っちまう。

 ! ――鎌の、攻撃間合い!? ……まてよ、奴の武器は、あの大鎌のみだ。

 だとしたら、縦に振るにしろ、横に振るにしろ、殺傷力の高い攻撃が成立するのは、鎌の刃が描く曲線範囲のみ。

 奴には思考ロジックが組み込まれていると仮定して、絶妙な間合いに入った瞬間に鎌を振り下ろすものだと考えたら――、見えた、Loophole。攻略の糸口が。

 翼持ちが動きを止める。――俺との距離は約三メートル。互いに武器をのばせば届く範囲だ。

 奴はそこで滞空しながら、俺の出方をうかがっているように思える。

 ……ゆっくりだ。俺はなるべく奴が気づくのに遅れるように、少しずつ――それこそ数センチ、数ミリ単位で奴との距離を縮めていく。

 こんなことをしても、多分意味はないだろう。刃の間合いに俺が踏み入れた瞬間に奴は鎌を振る。機械ロジックでなくても、ロジックが組み込まれている以上は当然のことだろう。――だが、それが俺の見たLoophole。

 見逃すな、奴が鎌を振る一瞬を。……覚悟を決めろ、これから受ける激痛の覚悟を。

 奴の鎌を持つ手が反応する。――来る。ここだっ!

 俺は地面を強く蹴りだし、奴に向かって突進した。

 骸骨剣士の時のように攻撃を空振らせようとは考えていない。あの鎌は、空振らせても大きく隙を作ることは出来ない。……なら、どうやって隙を作る? 簡単だ。一発食らえばいい。

 ただ、馬鹿正直に食らえば、俺の首か身体の部位のどこかが飛ぶだろうな。だから、攻撃を受けるのは、奴の懐に潜り込んで――

 奴の鎌の柄の部分が、俺の左上腕部分を強打する。

 腕がもげそうなほどの激痛が左腕を走る。

 当然だ。刃ほど殺傷力はなくとも、堅い棒状のモノが強打してるんだからな。

 だが、ここで怯むわけにはいかない。俺は右手だけで大剣を持ち、それを奴の顔面に向けて振り上げる。

 奴の血液らしき液体が、俺の身体に降り注ぐ。

 さすがの大剣だ。――クリーンヒット。トラウマものの描写を残し、奴が地面へと落下した。


 一筋の射し込む光が地面に描く、光の円の中に足を踏み入れると、あいつの声が聞こえてきた。

「はーい。霧崎灰次さん、ゴールです。タイムは――おお、十七分二十三秒。いやぁ、なかなかの好タイムで」

 ……あれがたった二十分足らずの出来事なのかよ。

「おや? どうされました、霧崎灰次さん? ゴールしたっていうのに、浮かない顔をされて?」

「ゴールしただと? ――じゃあなんで、俺はまだこの変な世界の中にいる?」

 今の現状。俺はこの世界に新しく出来た光の円の中に立ってだけで、なんら変化は見られない。……それどころか、この光の円の中が安全地帯なのかさえわかっていない。

「すみませんねぇ。まだ、神凪明日穂さんがまだゴールされていないのです」

 なん、だと? まさか、神凪の奴――

「あ、安心されていいですよ? 神凪明日穂さんは別に怪我を負って動けなくなったとか、そういう訳ではありませんから。……さて。霧崎灰次さんにまた怒鳴られる前に、こうしておきませんとね」

 一瞬で俺の周りの光景が切り替わる。――暗闇に浮かぶ扉。どうやらここは、最初のルート選択をした場所だな。

「神凪明日穂さんがゴールするまでは、ここでお待ちしていただきますよ。……あ、一応言っておきますけど、ゴールしなくても、脱出に失敗と判断した場合でも、霧崎灰次さんはここから出られますのでご安心ください」

 つまりは、神凪の生死が確定しないとまだ終わりじゃないってことかよ。

 俺は神凪の入ったAの扉に近づいていく。

 ……すでに扉の小窓から見える範囲には神凪の姿はないと思うが、俺はAの扉の中を確認せずにはいられなかった。

 小窓から中を覗く。――ただっぴろい草原の光景の中に、ぬいぐるみのような丸っこい毛むくじゃらの生物が草原の一カ所に集まっていた。

 そして、その中心にいたのは、ニヤケ顔でその謎の生物とたわむれる神凪だった。

「……」 俺は言葉を失っていた。

 すぐに我に返り、俺はAの扉を蹴破けやぶり、中でニヤケている神凪に向かって声を荒げた。

「てめぇはなにやっとんじゃぁっ」

 そのまま蹴破った扉をくぐろうとした時、見えないなにかが俺をはじき飛ばした。

「霧崎灰次さん。言いましたよね? 一つの扉には一人しか入れないって」

「俺はもうクリアしたんだから、関係ねぇだろ?」

「そうはいきませんよ。ルールはルールなんですから」

「ちっ。――こらぁっ、神凪。とっととゴールしやがれっ」

「そ、そんなこと言われたって。だって、この子たちが離してくれないんだもん」 そういう神凪の顔は、とても困っているようには見えない。

「蹴散らせ」

「ちょ、アンタ、なに言ってるの? 何の罪もないこの子たちにそんなこと出来るわけないじゃない」

 ……俺はAルートの入り口からすこし後ろに下がる。そして、勢いをつけて、扉のなくなった入り口を全力で蹴りつけた。

 なにもない空間と俺の足が激しくぶつかり空気を振動させる。

 その衝撃に恐れをなしてか、神凪のまわりに集まっていた毛むくじゃら生物たちは脱兎のごとく散り散りになって去っていった。

「……さっさとゴールしろ、神凪」


[*『Attach』 意味『くっつける、所属させる、――懐かれる』等]



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ