GAME.5「X word card kill」その2
新ルール。奴はなにを思いつきやがった?
「いえ、ね。実は吉法師さんと霧崎灰次さんとのWord card kill、いくつか直したいところがあったんですよ。特にゲームに使う漢字。戦うのに使い道がない漢字のほとんどは排除しちゃいましたからねぇ」
お前にとって『布』や『冠』は戦いに使える漢字だったのかよ?
「そこで、私が考えた新ルールです。このルールの適用で、漢字カードを完全にランダム配布しても予想外かつ無限のアイデアで有効利用できちゃうという、まさに夢のルールです」
だから、ルールを説明しやがれ。
「霧崎灰次さん。覚えていますか? 吉法師さんとのWord card killの時、あなたが『砒素』のカードを出したことを」
「? なんだ、いきなり?」 砒素を使ったのは勝負が決する前だったな。いったい、それがどうした?
「いえね。あまりにも当たり前の様にカードを組み合わせて出されましたので、コンボとして成立させてしまいましたけど、漢字を組み合わせてのコンボ、見事でしたよ?」
なにがいいたい? いまさら前のゲームを蒸し返しやがって。
「新ルールはそれをさらに進化させてみました。なんと今回のゲーム、漢字カードを分解できちゃうんです」
は? 漢字カードの分解? どういうことだ?
「では、霧崎灰次さんにもまつりさんにもわかるように、まずは前回のWord card killで霧崎灰次さんが使った『砒素』という文字について説明いたしましょう。まつりさん、砒素はご存じですよね?」
まつりが知らないとは思わんがなぁ。
「この場合は猛毒としての砒素と解釈していいんだよな、霧崎?」
俺に聞くな。
「そうですねぇ。霧崎灰次さんはそのつもりで使ったみたいですよ? たしかに、劇薬ではありますが、砒素は薬にも使われますからねぇ。けど、問題はそこではないので詳しい説明は飛ばしましょう。砒素って漢字の『砒』の部分。実はこの漢字は常用外の漢字で使い道が限定されるので前回のWord card killでは入れていなかったんですよ。それを霧崎灰次さんは『石』というカードと『比』というカードを合わせて作り出したというわけなんです。そこで思い付いたのが逆のパターンです」
逆パターン?
「たとえば『砒』のカードを引いたとしましょう。分解の新ルールを使えば、このカードを分解して『石』というカードと『比』というカードの二枚に変えることができるのです。『森』というカードなら、『木』というカード三つに変えることもできますよ」
ん? それだと手札が増えて五枚以上になることもあるぞ?
俺はすぐさまその疑問をぶつける。
「カードを分解して、手札が五枚以上になったらどうするんだ?」
「霧崎灰次さん。これから説明しようとしているのに横槍を入れないでくださいよぉ」
本当にイラっとくる奴だ。
「手札は各自攻撃ターンの始めに伏せカードを含めて計五枚にしてもらいます。手札が二枚しかなかったら三枚を加えて五枚に、七枚あった場合は二枚捨てて五枚にしてもらいます。当然、手札が何枚あろうと、場に伏せられるのは最大五枚です」
奴が手札の説明を終えた直後、まつりが質問の声をあげる。
「おい。分解が可能ってことは、分解した部首を使って新たに漢字を組み合わせることも出来るってことだよな? 分解した漢字の一部だけ使いたい場合はどうなる? たとえば、『逆』って漢字がきたが、使いたいのは『しんにょう』だけって場合、上の部分に使い道はねぇぞ?」
「そんなの、捨ててしまえばいいだけではありませんか、まつりさん? あ、ただし部首だけのカードは残すことはできませんよ? 組み合わせて別の漢字を作っていればいいのですが、漢字として成立しない部首が残ってしまった場合は、ターンの終了時に廃棄となります。次のターンに持ち越して新たな漢字を作ろうとしても、それはダメです。あと、聞かれる前に答えておきますが、部首でも本来の漢字と形が変わっているモノは漢字としては成立しませんよ? たとえば、『てへん』を余らせていても『手』としては認めません。ですが、『きへん』の場合は形が同じなので『木』として認めますよ」
長ったらしい説明だったが、新ルールを要約すると、手札に来た漢字カードの使いたい部分を切り取って、新しい漢字を作れるってルールか。
「あとはまたゲームの最中にでも声をかけてください。それでは始めましょうか。――あ、そうそう。また吉法師さんの時のようなトラブルは御免ですので、関係のない方には退場を願いましょうか」
奴がそういうと、京の姿がこの空間から消え去った。
「! なんで京を帰す!? このゲームはまつりに京に対して謝罪させるためにやるんだろうがっ」
「あれぇ? そうでしたっけ? でも、霧崎灰次さんがゲームを受けた地点で、私にとってはどうでもいいことです」
ふざけやがって。最初から俺を舞台に上げたら京を帰すつもりでいたのかよ。
俺は憤りを覚えながらも、まつりとの対戦に備え心を落ち着かせる。
「まつり。京への謝罪は必ずしてもらう。だか、その前にお前の腐った根性を叩き直してやる」
「それはアタシに勝ったらの話だろ? さぁ、カードをよこしな。てめぇを負かしてやんぜ」
上方からそれぞれに五枚のカードが降り注ぐ。
「あ。ちょっと待ってください。カードを確認する前に、どちらが先攻か決めておきましょう。ここは経験者である霧崎灰次さんには一歩退いていただいて、まつりさんに選択権を与えましょう。まつりさん、先攻と後攻、どちらを選びますか?」
「じゃあ、先攻をもらおうか。まずは霧崎に痛みを受けてもらわないとな」
まつりが自分の手札を確認する。
俺のカードは――『換』『珍』『自』『校』『乢』。――『乢』!? 『乢』ってなんだよっ。
スマホを取りだし検索。
[『乢』(読み『たわ』。意味「連なった山のくぼんだ場所」)]
「おい、霧崎。漢字の意味なんてどうでもいいだろ? ――いくぜ」
そういってまつりが手札の内の一枚を出そうとした時、奴からの『待った』がかかった。
「あ、ちょっと待ってください。ひとつ、カードの分解について言い忘れたことがありました。カードを分解するとき、分解に使うカードは相手に見せてくださいね。けど、再構築したカードは晒す必要はありませんよ? 分解に使ったカードから推理してください。……ゲームを止めてすみませんねぇ。では、まつりさん。どうぞ」
どうやら奴はまつりが手にしたカードを分解しようとしたのに気づいて声をかけたみたいだな。
「まぁ、霧崎が分解構築でいきなり理不尽なカードを出してきても、分解行程がわかれば対処できるようになるって考えれば、ありっちゃありだな。アタシはこいつを分解する」
まつりの出したカードは『海』。
どう分解したかは晒す必要はないみたいだな。まぁ、『海』の場合で考えられるのは、『さんずい』と『毎』しかないがな。
ん? まつりの手札の数が増えても減ってもいない。手持ちのカードにさんずいを組み合わせたか?
「おい。ワイルドカードは変換しても晒す必要はないんだったな?」 まつりがルールの確認をする。
「はい、大丈夫ですよ。さらに言えばワイルドカードの場合、使う直前までワイルドカードのまま維持してもいいので、いま変換しなくてもいいんですよ?」
「必要ない。まずはこいつを変換して伏せておく。あと、こいつも分解だ」
そういってまつりが出したカードは『姿』だった。
変換後、まつりはもう一枚カードを伏せる。
「霧崎、ひとついいことを教えてやろう。アタシが伏せたカードはお前の負けが確定するカードだ。カードが揃った時、お前は負けるんだよ」
伏せたカードは即死コンボへの伏線か。
「けど霧崎。お前も黙って死を待つんじゃ退屈だろ? だから、こいつはアタシからのプレゼントさ」
まつりが一枚のカードを場に投げた。カードは『油』。だが、『油』文字の『さんずい』部分と『由』の部分の文字の色が違っていた。
『さんずい』部分は青色、『由』の字部分は黒になっている。
「霧崎。文字の色が気になるのか? そいつはどうやら、分解したカードから使った文字は青で、もともと手札にあったカードは黒で表示されるみたいだぞ?」
まつりが俺の疑問を察して説明をする。
「まぁ、文字の色なんてどうでもいいだろ? 霧崎。まずは油にまみれてもらおうかっ」
バケツをひっくりかえしたように、俺の頭上から大量の油が降り注ぐ。……ちぃ。これでまつりが『火』に関するカードを持っていやがったら最悪だな。
「安心しな、霧崎。今の手札に火を起こすようなカードはねぇよ。ま、これでお得意のスマホは封じたんだ、よしとしてやる。残りの手札は全て廃棄だ。――ターンエンド」
俺の番だな。手札は『換』『珍』『自』『校』『乢』。
ん? ちょっと待て。この組み合わせ……
一気にカードを分解するのはまずいな。それに、まだ一枚カードが足りない。――よし。
「俺はまず、こいつを分解する」
出したカードは『校』。カードは『木』と『交』に分かれる。
そして、『交』のカードと『換』のカードを場に出した。
「この二枚のカードを新たなカードに『交換』したい。いけるか?」 ゲームマスターである奴に問いかける。
これがOKなら、あのコンボの出来るってことだが、どうだ?
「いいでしょう。ターン中に手札の交換とは想定していませんでしたが、『交換』という文字を作ったからには、無下にはできませんね」
俺のもとに新たなカードが二枚降り注ぐ。
カードは『牢』『*(ワイルドカード)数字にまつわる漢字一文字』。
よし、ワイルドカードを引いた。あとは確認だ。
「もうひとついいか? ワイルドカードを変換せずに使用するのはありか?」
「ワイルドカードを変換なしに、ですか?」
珍しく奴が動揺したな?
「そうだ、変換なしにそのまま使う。いいのか? ダメなのか?」
「……いいですね、霧崎灰次さん。私が想定している範囲を軽く越えてきますねぇ。いいでしょう、コンボとして成立していれば認めましょう」
「ありがとよ。じゃあ、まずはこの変なカードを分解だ」
分解するは『乢』。こいつを『山』と部首に分解して、新たにさっき分解して出来た『木』を加えて再構築。『山』と『札』のカードが出来る。
「さらにこいつも分解だ」
次に出したカードは『珍』。こいつは三つの部首に分解。その内の二つを使って『全』のカードを作り出す。
「いくぜ。これで俺の勝ちが決まったようなもんだ」
俺は五枚のカードを場に出した。
『自』『山』『札』『全』『*(ワイルドカード)』
これで俺の山札全てがワイルドカードに変わる。次のターンからは、俺の引くカード全てがワイルドカードになるのだ。
後はまつりが降参するのを待つだけだ。……早めに降参をすることだな、まつり。死なないうちに、な。