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わーるどいくじっと  作者: 以龍 渚
Episode of "Haiji Kirisaki"
13/31

REAL PART「News」

 ……なぜこんなことになった?

 第一話と同じ切り出しですまないが、いまはそういった状況だ。

 俺とミュウは、いま見知らぬ家の食卓の前に座っている。

「ごめんなさいね、ありあわせのものになっちゃうけど、よかったらどうぞ」

 にこやかな表情で食事を運んできてくれたのは、『神凪かんなぎ 瑞穂みずほ』さん。……ギコのお袋さんとのことだ。

 神凪が――ここでは名前で言ったほうがいいな。神凪明日穂が俺の向かいの椅子に座る。

「で、なんでアンタが近衛と一緒にいたわけよ?」 ま、当然の疑問だ。

「だめよ、あーちゃん。お食事の邪魔をしちゃ」 瑞穂さんが明日穂を止めた。

しかし、神凪の奴『あーちゃん』なんて呼ばれてやがるのか。

「なによ、なんか言いたそうね?」 俺の顔をみて、神凪がそういう。

……表情に出ていたか。

隣ではミュウとギコが話し込んでいた。

「でも、意外だったよ。まさかあんちゃんがうちの姉ちゃんと知り合いだったとはね」

「私だって驚いてるよ」

やれやれ。

「もともとクラスメイトだったが、話したのはついこないだだ。――しかも、原因はあのゲームだ」

「ん? どゆこと? 姉ちゃんもあのゲームに参加して、あんちゃんに助けてもらったってこと?」

ギコの言葉に、神凪の表情が変わる。

「ちょっと待って、近衛。なんでアンタがあのゲームを知ってんのよ?」 机を叩きつけて、立ち上がる。

当然、こうなるわな。ミュウがあのゲームに参加させられていることを知った時の俺と一緒だ。

だが、今その態度はまずいだろう。

「あーちゃん。一度言っただけじゃわからないの?」

ほら見ろ。瑞穂さんの逆鱗に触れた。


食事を終えた後、俺たちは神凪の家のリビングを間借りしていた。

「あんまり遅くまで引き留めちゃダメよ」との瑞穂さんの言葉がある以上、余計な長話はできない。

俺はリビングのテーブルに、あのゲームの報酬とも言える2枚のカードを広げた。

そして話すは、さっきミュウとギコに話した、吉法師から聞いたこのカードが意味することだった。

「願いを叶える? そんなことが信じられるとでも」 神凪は半信半疑のようだ。

だが、それでいい。その方が都合がいい。

「この件に関して俺が言いたいことはただひとつだ。『お前ら』はもうこのゲームに関わるな」

言ったあとに気づく。あきらかな失言だった。

俺のこの失言に、ミュウがすぐさま反応を示した。

「私たちはってどういうことですか、兄さんっ。その言い方だと、兄さんはまだあのゲームを続けるみたいな言い方じゃないですか? 今回は無事に戻ってこれたからいいものの、さっきのゲームだって、兄さんは――」

それ以上を口にされると、ちと面倒だ。だが、それを言わずに説得するのは難しいか。

「ミュウ。さっきのゲームで、俺がどうなったかを見ていたならわかるだろ? あのゲームに関わり続けていたらどうなるかを。あれはゲーム内での出来事だったから、無事に帰還したらなかったことになった。だが、あのゲームからの帰還に失敗したらどうなるか、想像がつくか?」 ……それに、対戦ゲームに負けたら受けるというペナルティも気になる。本当にあの程度の罰ゲームを怯えてあんな表情を見せたというのか、あの二人は?

「私が言いたいのは――」 なおもミュウは突っかかってくる。

そんなミュウと俺の間に、神凪が腕を割り込ませてミュウを制止する。

「そこまでにしときなよ、妹ちゃん」

「止めないでください、明日穂さん。これは私と兄さんの問題なんです」

「少し落ち着きなって。……霧崎。あんたがこのゲームから私らを遠ざけたい理由はわかった。たぶん、アンタの妹と近衛が参加したゲームでは、アンタは私と参加したゲームよりさらにひどい怪我を負ったってところでしょう。そして、ゲームに関わり続ければ私らもいずれ同じ目にあう。そう思って言ってることなんでしょ?」

「……ああ、そうだ」

「けど、妹ちゃんが言ってるのはそこじゃない。アンタもわかっててその話題に触れないでいるね?」

神凪にすらバレバレか。

「霧崎。アンタ、なにを隠しているの? なんで、妹ちゃんにはっきりと『自分ももう関わらない』って言わないの? それとも、言えないの?」

これ以上隠すのは無理か。だが――

「……できれば知られずにいたかったが、それはもう無理のようだな。わかった、話そう。だが、話す前に約束してもらう。お前たち三人はもうあのゲームには関わらないと」

「嫌です。なんで私たちだけが――」 ミュウがすぐさま拒否をする。

悪いが、ここは引けない。

「話はそれからだ。関わらないと誓え」

ギコがミュウに近づき、耳打ちを始める。

「なぁなぁ、みゅうちゃん。ここはとりあえず嘘でもわかったって言っときなよ。でないとあんちゃんなにも言ってくれないよ?」

……丸聞こえだ、バカタレ。

ミュウのことだ。嘘でつくろう真似なんて出来やしないだろう。

だが、話を聞いた後に『やっぱり聞けません』ってのはありえる。

ふと、俺が机に置いた二枚のカードが目に入った。

そうだな、ここは――

「お前たちにはゲームをおりる宣言として、お前らの持つこのカードを俺にわたしてもらおう」 机に置かれた二枚のカードの上に指を運び、カードの上から人差し指で机を軽く叩く。

こいつらのカードは俺にとって何の価値もない。なぜなら同じカードを持っているのだから。

だが、今この場にて誓約書の代わりにはなるだろう。

……神凪とギコは素直にカードを俺に差し出してきた。問題はやはりミュウか。……一押しするか。

「ミュウ。お前がカードを差し出す差し出さないは関係ない。俺はお前がどう出ようとも、ゲームをおりることはできないからな」 今、はっきりとミュウに言った。ゲームを『おりられない』と。

そして、ミュウが反論する間を与えないように俺は言葉を続ける。

「お前がカードを出すことで変わるのは、俺から話を聞けるか聞けないかだ」

「妹ちゃんもうすうすは気づいていたんじゃない? 霧崎がゲームをおりられないってはっきりと言ったのは意外だったとしても、ゲームからおりる気はないってことくらいは。……霧崎、アンタがゲームをおりられないっていうのは、まさか――」

神凪が言いかけている言葉は予想ができる。おそらく、俺がミュウを人質にとられていると思っているんだろう。あながち、間違いではないが、それを言われるわけにはいかない。

「俺がゲームをおりられない理由を話すのは、ミュウの宣言が終わってからだ」

俺がそういった直後、ギコがミュウの背中を軽く押した。

観念したのか、ミュウは自分が持つカードを差し出してきた。

「あんちゃん。これで話してあげるんでしょ、みゅうちゃんに」

「霧崎、アンタもしかして妹ちゃんを人質にとられているんじゃないでしょうね?」 神凪がさっき言いかけたことを口にする。

ミュウの表情が曇っていくのがわかる。だが、もう言わないわけにはいかないだろうな。

「正確には少し違う。人質にとられたんじゃなくて、……人質にとられていたんだ」 同じように聞こえるが、進行形と過去形の違いがある。

ギコが首を傾げる。……まぁ、ギコには難しいか。

俺は懐から自分のスマートフォンを取り出し、アプリを立ち上げる。

立ち上げたのは、WORLD EXITのアプリだ。

アプリの画面には『現在げーむは開催されていません』と表示されている。

この画面を映した状態で、俺はスマートフォンを机の上に置いた。

三人が覗き込むようにスマートフォンを見下ろす。

すぐに神凪が口を開いた。

「ゲームが開催されてない? 霧崎、このアプリはなんなの?」

俺は深く息をつく。そして、神凪の問いに答える。

「これは、あのゲーム――ワールドイクジットに参加するためのアプリだ」

「「「!!!」」」 三人が一斉に表情を変えた。

「なんでそんなモノ持ってんのさ、あんちゃん?」 ギコの疑問はもっともだ。

「さっきのゲーム――ミュウとお前の参加したゲームに助っ人として俺が参加する条件が、このアプリをインストールすることだったんだ」

「じゃあ、アンタのいう妹ちゃんが人質にとられていたっていうのは――」

「もう、終わったことだったってわけだ。俺はこれからこのアプリを通してゲームに誘われることになるだろうな」

「そんな……」ミュウが『自分のせいで――』とも言わんばかりの表情を浮かべた。

こうなるとわかっていたから、言えなかったんだ。

「だから、最後にもう一度言う。お前らはもう、このゲームには関わるな」


あのゲームに関わってから一週間が経過した。

アプリからの呼び出しは、今のところはない。

……ゲームのことは夢だったのではないかと思い始めたそのとき、それは起こった。

それは、学校から帰ってきて俺が自分の部屋でくつろいでいる時のことだった。

「に、兄さんっ。来てください、い、いまテレビで――」

これまでに聞いたこともないような声を上げて、ミュウが俺を呼ぶ。

俺は急いで階段を駆けおり、テレビの置いてあるリビングへ。

テレビには、夕方の時間に放映されているニュース番組が流れている。

「――死亡したのは、藤吉 龍臣さんと見られています――」

龍臣が、死んだ? ――これは、なんのニュースだ?

「おい、ミュウ。ニュースはどんな内容だった?」

「そ、それが、建設中のビルから人が転落したってニュースで――」

ポケットが震えだす。ポケットに入れてある俺のスマートフォンが鳴っていやがる。

スマホを取り出し、着信画面を確認する。こんなタイミングでかけてくる奴の心当たりは一人しかいない。――吉法師だ。

「ニュースは見られましたか?」 電話にでてすぐに吉法師が問いかけてきた。

「妹が見てて、いま少し聞いたところだ。――龍臣になにがあった?」

「ニュースがいうには、ビルでの作業に入る前の命綱を取り付けるときに『なんらか』でバランスを崩し転落したそうです」

「……くしゃみか?」 思い当たる原因はそれだ。

「でしょうね。詳細は言ってなかったんで、必ずしもとは言いきれませんがね」

「これがお前の言っていた『八割で罰ゲームの内容を知ることができる』って言っていた意味なのか?」

「そういうことです」

これはマズイな。考えが甘かった。

ゲームが終わればなにごともなかったかのように現実に戻ってこられると思っていた。

だが、ペナルティが現実をおびやかすモノとなると、このままでは俺はいずれ――

「吉法師。頼みがある」

「はい、わかってます。情報が欲しいのでしょう?」

「ああ。あのゲームについて、どんな些細なことでもいい。お前の知るかぎりのことを、教えてくれ」



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