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わーるどいくじっと  作者: 以龍 渚
Episode of "Haiji Kirisaki"
12/31

REAL PART「Sisters」

 電話を切ると同時に、俺の部屋の扉が叩かれる。

「ミュウか? 勝手に入っていいぞ」

 部屋の扉が開くと、ミュウがものすごい勢いで俺に向かって駆け寄ってきた。そしてミュウは、俺を強く抱きしめる。

「お、おいっ、ミュウ」 俺はなにが起きたのかわからなかった。

「……よかった。兄さんが無事で。でも、兄さんの足が――」 ミュウは俺に抱きつきながら泣いている。

 足? ……そうか。ミュウはまだあのゲームでのダメージはゲーム終了時に無効になるってことを知らないのか。

「ちょっと待って、ミュウちゃん。あんちゃんの左足、あるよ?」 部屋の扉の方からギコの声。

 ん? ギコ? なんでギコがここにいる?

「え? でも、兄さんはさっきのゲームで――」

「ゲーム内で受けたダメージは、無事にゲームから脱出出来ればなかったことになるんだよ。……それより、なんでここにギコがいる?」

「ミュウちゃんが心配だったんだよ。あんちゃんがあのゲームで足を吹っ飛ばされて、ミュウちゃん、気が気でなかったみたいでさ」

 そうか。電話口でミュウの様子が少しおかしかったのはそういうことだったのか。

「あれ? あんちゃん、今電話中だった?」

 ギコが俺のスマホを見てそう口にした。スマホの画面はスリープモードになっておらず、吉法師との通話が終了した時の画面のままになっている。

「もしかして、電話の相手はあんちゃんの彼女さんとか?」

 その言葉に、ミュウがギコを睨みつける。

「ちょ、ちょっとミュウちゃん。冗談だよ、冗談。そんな怖い顔しないでよぉ」

 やれやれ。ミュウには困ったものだな。

「で、兄さん。電話の相手は誰なんですか?」 ……ミュウさん、ちょっと目が怖いですよ?

「……相手は吉法師だよ」

「え? 吉法師、さん? なんで、兄さんの電話の相手が吉法師さんなの?」

「あのゲームの終了間際に、吉法師が俺に連絡先をよこしてきやがった。それで、あのゲームについての情報を聞いていた」

「それで、あんちゃんはどんな情報を聞けたの?」

 ……さて。ギコの質問に、どこまでを話すべきか。――よしっ。

「その前に、お前たち。お前たちの服のどこかに、これと同じものが入っていなかったか?」

 そういって見せたのは、Intelligenceのクリア報酬のカードだ。

「! このちゃん、あのカードって」

「うん。いつの間にかポッケに入ってたやつと同じカードだよ、ミュウちゃん」

「見せてくれ」

 そういうと、ミュウが俺にそのカードを手渡す。

 星は一つ。Routeの時もそうだったが、やはり同じゲームでも立場によって難易度表示が変わるのか。

「兄さん。そのカードはなんなんですか?」

「……吉法師の話だと、こいつはゲームクリアの報酬らしい」

「こんなカード一枚が報酬ぅ?」 ギコが明らかに不服そうな表情を見せる。

 さて。もう一つの確証のない情報を話すかどうか……

 そう考えていると、ミュウが先に口を開いた。

「兄さん、なにか隠していますね? ……なにか、話すべきかどうか迷っているような顔をしています」

 やれやれ。顔に出ちまったか。

「いや、な。こいつは噂程度の話らしいんで言うかどうか迷っていたんだよ。……そいつを頭文字違いで九枚集めると、なんでも願いが叶うとかなんとかな」

「なんでも願いが叶うっ。ちょ、それってマジ、あんちゃん?」

「噂でしかないっていってるだろ? きっと吉法師もまだカードが集まってないんだろうな」

「ちなみにあんちゃんは何枚カードをもってんの?」

「俺はさっきのゲームで二回目だからな。二枚ある」

「じゃあうちら、もう四枚集まってるってこと?」

「頭文字違いって言ってるだろ? 俺の持っているカードは『R』と『I』。お前等は二人とも『I』のカードしか持っていないだろう?」

 そういって、俺の二枚のカードを見せる。

「あれ? 兄さんの『I』のカード、私たちのカードと星の数が違いませんか? カードの名前は同じなのに」

「あ、ああ。その星はゲームの難易度を表示しているらしい。当然、俺とお前等じゃゲームに参加した度合いが違うからな。……そういえば、吉法師から難易度について警告があったな?」

「警告、ですか? 兄さん、それはどういう――」

「なんでも、難易度の星が六以上のゲームには注意しろって話だ。……星六つ以上のゲームを攻略するには、自分が壊れるか、何か大切なものを失わない限り攻略できないってな」


 現在、午後八時五十分。俺とミュウはギコの案内でギコの家へと向かって歩いていた。

 時間が時間のために、ギコとはいえ一人で帰すわけにはいかない。

 かといって、あんなことがあった直後に家にミュウを一人にするわけのもいかない。

 その答えが、俺とミュウの二人でギコを家に送るってことになったわけだ。

「しかし、お前が同じ町内に住んでいるとは知らなかったな」

「町内っていっても、あんちゃんたちとは学区が違うからね。会う機会なんてないんじゃない?」

「たしかにそうかもな。もし会っていても気づかないってのが当たり前か」

「でも兄さん。もし昔にこのちゃんと会っていたら、絶対に忘れないと思うんだけど? このちゃん、きっと昔もなにかしらのトラブルを――じゃなくて、えーと……」

「なに、ミュウちゃん? うちをトラブルメーカーとでも言いたいわけ?」

「えーと、そうじゃなくて……」 ミュウは必死になって言い訳を考えているようだ。

「もういいよ、ミュウちゃん。悲しくなってきた。――着いたよ。ここがうちの家」

 着いたのはごく普通の住宅の一軒家だ。表札には『神凪』と書かれてある。

「じゃあ、ここでいいなギコ。俺たちはこれで戻らせてもらうぞ」

「あ、待ってよあんちゃん。せっかくだからお茶ぐらい飲んでいってよ」

「アホかっ。今何時だと思っている? こんな時間に人様の家にお邪魔できるわけがないだろう」

「で、でも兄さん。このちゃんもああ言ってることだし――」

「おいおい。……あのなぁ、ミュウ。うちとは違って、ギコんところは家族が揃っているかもしれないんだぞ? もうすぐ九時を回ろうって時に、邪魔なんて出来るわけないだろ」

「そっか。じゃあ、仕方ないよね。このちゃん。じゃあ、明日学校で」

「うん。じゃあ、ミュウちゃんもあんちゃんも気をつけて帰ってね」

 別れのあいさつを終え、帰路につこうとした時だった。

 突如、ギコの家の玄関が開き、ギコを呼ぶ怒鳴り声が聞こえてきた。

「近衛っ。あんたいつまで出歩いてんのよっ」

 俺たちの話し声を聞いて、ギコが帰ってきたことを察したのだろう。ギコの姉らしき人物が玄関から出てくる。

 ……そんな予感はしていた。『神凪』なんて名字、そんなにある名字ではない。だから、ギコの名字を耳にしたとき、あいつの顔が真っ先に浮かんでいたんだ。

 玄関から出てきた、ギコの姉らしき人物は、神凪 明日穂だった。



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