少女との出会い
穏やかな気候に包まれ、俺の目の前には広大な草原が広がっている。そして真っ正面にはモンスター。
『ガフッ!!ギャウン』
噛み付いてきた狼型モンスター、ライトウルフの群れを剣を一振りして一気になぎ倒す。HPがじりじりと減少していく様に目もくれず次々と敵モンスターを打ち破っていく。
あれから一週間が経ち、WOFに日々打ち込んだ結果、俺のレベルも5ほど上がった。
雪の量も日に日に増えクリスマスイブに発売以来はじめての特別イベント発生するとの情報が各地広まる中、俺もイブに備えていた。
どうやらNPCによるとサンタが街にやってくるらしい。だがもちろんただの優しい白ひげのおじいさんではないだろう。倒せば大量のアイテムがドロップされるのは間違いないだろうがレベルはこのようなフィールドで戦う相手とはおそらく比べもの にならないだろう。きっと今の俺じゃ厳しい戦いになるだろう。
「シエル! 出たよライトウルフの群れのボス!!」
今俺の隣にいるのは数日前にWOFで出会った少女、ルシアである。ピンク色に染まったミディアムの髪でかわいらしい小動物を思わせる。だが俺は彼女と見た瞬間何か不思議なものを感じた。他のプレイヤーにはないような……何か特別な雰囲気を。彼女も俺に何かを感じたらしく今まですべての誘いを断ってきた俺ははじめて誰かとともに冒険に出ることになったのだ。しかし、本当のこと、そう……俺が男だということを打ち明けてはいない。なぜなら……
「あの……すみません!」
かわいらしい女の子の声に振り向くとそこには顔を真っ赤にして恥じる少女がいた。
これが彼女との出会いだった。
「えっと……何か予備の服とか持ってませんか?」
見ると彼女の戦闘服はすでにボロボロで中からパステルピンクのブラジャーが見え隠れしていた。先程のモンスターとの戦闘で噛みちぎられてしまったらしい。俺はそれを堂々と見てしまった以上後から「実は男でした」なんて言えるはずもない。
「ほーらシエル! やっつけるよ!!」
そう言って俺の手をぐっと引っ張るルシアに目で了解の意志を伝えると俺は背中から剣を抜き取り勢いをつけて思いっきりジャンプする。
「隙あり!!!」
ボス狼の頭上から空中攻撃炸裂。俺の剣は真っ直ぐ振り下ろされ見事にヒット。ライトエフェクトが飛び散った。
剣を振り払い、ルシアとハイタッチを交わす。
「さっすがシエルだね。あたしの見込んだ通りだよ」
ルシアはそう言って俺の肩にぽんっと手を置く。まだ女の子同士のスキンシップに慣れない俺は少しだけ顔をそむける。
そんな俺の顔を覗き込むようにしてルシアは言った。
「そうだっ! ちょっと付き合ってよ」
そう言うが早いか俺の手を取り主街区のほうへ歩き出した。
「なーにシエル顔真っ赤だよ!?」
ルシアが下着姿のまま俺のほうに近づいてくる。
俺らは先程ルシアが購入した新品の戦闘服に着替えるべく一時的に宿屋を借りることになった。
「いいじゃない。女の子同士なんだから」
いや……俺、男です……。
なんて言えるはずもなく俺は自分でも分かるくらい顔が赤いのを必死隠していた。
「どう?似合ってる?」
ルシアはくるりとまわり俺ににっこり微笑む。
「う、うん……」
正直その華麗さに圧倒された。新しい戦闘服に身を包み一層増して少女らしさを感じる。
彼女が身にまとっているのはピンクのラインが入ったエプロン調のいかにもメルヘンチックな女の子が着るような戦闘服である。見た目はかわいらしいが機能にも優れておりルシアは目に止まったかと思えば即購入という店員のNPCもビックリの早業を披露してくれた。
「もしかして……あんまり似合ってない?」
俺の曖昧な返事に不安を感じたのか心配そうな顔で俺に問いかける。
「そんなことない! すっごく似合ってる!!」
--そりゃ不安にもなるよな。女の子だもんな。
などと思いつつ必死に訂正する俺をルシアは疑いのこもった目でしばらく俺を見ていた。