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Disaster  作者: 惣菜さん
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第六話 接触

「この魔術回路とこの術式の組み方だと、どうしても無茶が出る。だからこの部分に一つ詠唱を挟んで……」


電子黒板に浮かんでは消えていく文字の羅列をひたすらノートに書き続ける。どんな大きな学校であろうと授業風景は変わらないものである。神嵜悠も他の生徒と同じようにノートに黒板の文字を写していく。だが……。


「(こんな簡単なことしかやらないんですか? 正直暇なんですけど……)」


既にこの学校で学ぶことの大半を中学校に通っていた時に組織で教わっていた。そしてそれ以外にも仕事を行う上でも必要な技術や知識は仕込まれていた。それは外国のVIPとの接待や礼儀作法であったり、戦闘技術であったり大学で習うレベルの魔術であった。学校で習うもので残っているのは小学校の道徳くらいのものだろう。そんなことを考えていると、時計の針が授業の終了時刻を指し、校内に電子音のようなチャイムの音が鳴り響いた。


「おっと、もうこんな時間か……今回習ったことを意識して、次の時間の魔術実習も頑張るように。以上!」


「起立。気をつけ。礼!」


「「「「ありがとうございました」」」」


さっきの教師が言っていた魔術実習とは、広大な敷地内での魔術の戦闘実習のことである。決闘フィールドと同じようにその空間内では魔術による殺傷は不可能になる。仮に事故が起きたとしても生徒達の制服に刻まれた魔術回路が即座に安全な空間へ生徒をテレポートさせる。安全でありながら実戦に近い訓練ができる。この学校の売りの一つでもあるこの魔術実習に悠は一つ気掛かりなことがある。……いや、抜け道が一つだけ存在していることに気が付いた。


「(魔術を使わない科学兵器などでの攻撃なんて受けたら……まぁ、死にますね。科学の攻撃はもう距離とか関係なく殺す手段がありますし)」


魔術を学ぶ学校が、魔術での事故への備えが完璧なのは当たり前だ。だが、もう一つの手段である科学による事故は防げるのだろうか。答えは否だ。この学校はあくまで魔術を学ぶ施設なのだ。魔術を学ぶ環境、魔術を使うのに適した環境。それらを追求したために、科学からのアプローチに対応することが難しくなっていた。


「(学校の外の塀にあったあの術式は人の出入りと魔術の出入りは防げますが、科学による力押しには相性は最悪でしょうね。……襲撃が来るとしたらこのタイミングでしょう)」


そんなことを考えながら悠の視線はこの学校に来た目的であり護衛対象の黄川 哀音へと向けていた。彼女は授業が終わるとすぐに教科書などを片付け教室から出ていった。特別親しい人間がいる訳ではないようだ。


「(ボスに連絡すれば狙撃地点の割り出しはできるでしょうが……今掛ければ時差の所為でボスを起こしちゃいますね、一人でやり切りましょうか……いや、大人しく頼りましょう。そのための仲間(ファミリー)ですし)」


頭の中でそう考え悠は足早に教室を出た…。いや、出ようとした。その背中に誰かが声を掛ける。


「あの、悠……? ちょっと話があるんだけど……」


下の名前で自分のことを呼ぶのはこのクラス……いや、この世界中を探してもごく少数しかいない。その声を聞いて悠は溜息交じりに振り返りながら


「はい、なんですか? 金崎さん? (変に振り切って注目されても面倒です。ささっと終わらせればいいんですから)」


その声に返事をした。あくまで仕事のために。目的のために……。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



side 燐


授業中、電子黒板の方を向くと自然と彼が視界に入る。席が自分の前なのだから仕方ないのだろうが、理由はそれだけではないだろう。過去彼と共に過ごしていた時間があるから、ここまで気になるのだ。自分でも理解している。だが、再会した彼は以前とは違っていた。いや、違わなければそれはそれでおかしいのだが……。


「(彼に何があったのか、何も分からない……)」


その変化は正に異常としか言いようのないものだった。自らの身体を傷付け、相手を殺し尽くすような戦い方。相手を心をズタズタにするような戦い方。そこに過去自分を救ったヒーローの面影はなかった。


「(いなくなってた間に何かがあったのは分かる。でも、それが一体なんなのか……)」


完全に分からないのだ。だが、これからは近くにいるのだ。決して遠くに行くことはない。知る機会ならこれから幾らでもある。だが、自分が知ろうと行動を起こさなければ、それは有り得ない。ずっと想い続けたヒーローの抱えている過去を知る必要がある。


そして自分の想いを告げたい。


いつの間にか授業は終わっていたようだ。次の時間は確か魔術実習だったはずだ。確かグループを作って行うと聞いている。


「(そうだ! これに誘って、話を聞くチャンスを……!)」


行動を起こすと決めたのだ。そのための第一歩だ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「なんですか、金崎さん?」


「つ、次の魔術実習でグループを組むんだけど……それで、悠と組もうと思って……」


その声を聞いて悠は呆れていた。まさかあれだけのことをした人間に向かってこんなことを頼むとは思わなかったからだ。そして悠はこう告げた。


「嫌です。それより、別の人と組んだ方がいいんじゃないですか? こんな犯罪者と組むより、あそこにいる正に好青年の彼に頼んでみては?」


そう言いながら悠は教室の真ん中で友人であろう人物と話している青年を指差した。だが、それを受け入れずに燐は続けて言った。


「でも、私は悠と組みたいから声を掛けたんだけど……」


「放っておけば人が集まるような小説や漫画の主人公のような人間なんですから、いいじゃないですか? 僕なんて、気味悪がられて一人も目を合わせようとしてくれませんよ?」


燐はそれでも諦めずに声を掛けようとするが、無機質な機械の鐘の音がそれを邪魔する。


『連絡します。1年A組の神嵜悠くん。職員室に来てください。繰り返します、1年A組の―――』


「おや? 犯罪者は普通の授業すら受けさせてくれないみたいですね?」


引き止めようとする燐を嘲笑うように悠は教室を出た。


「さて……ボスにとりあえず連絡しておきますか」


ドアを後ろ手で閉めながら懐から携帯を取り出す。既に番号は画面に表示されており、悠は通話ボタンを押すだけの状態だった。だが、人の往来のど真ん中でこんな話を聞かれる訳にはいかない、屋上へ出た。辺りを見回し、誰もいないことを確認すると、


「ボス。夜分遅くにすいません。一応、任務なので報告しておきます。今から早ければ十分後、遅くても一時間以内に護衛対象が襲撃されます」


「……そうか。なら此方から襲撃予測地点を割り出しておこう。五分後に携帯にデータを送る。それと、データの保護のためにパスワードをかける。コードは438だ。覚えてるな?」


このコードというのはパスワードの解読を防ぐために作られたものである。438であれば1と書かれた数字をアルファベットのKに変換して入力する、というようにパターンが決められている。秘密が漏れる、ということはマフィアの中では地雷原でタップダンスをするのと同義なのだ。悠たち銀狼(シルバーヴォルフ)はそれを異常なまでに強固なものにしている。


「はい。しかしボス……いくらなんでも一万種類超えてるのは不味いんじゃないですか?」


「俺もそれは思うんだがなぁ。でもそれを覚えるだけで仲間が守れると考えれば気が楽だろう?」


「まぁ、それを間違えて給料引かれたときは本当にキレそうになりましたけどね……では、これで失礼しますね」


電話を切りながら悠は廊下の窓から校庭を見下ろした。まばらだが生徒達の姿が窺える。次の魔術実習のウォーミングアップだろうか、お互いに魔術を使いながら声を掛け合っているのが遠目からでも分かる。それらの魔術を見て溜息を吐くように一言。


「魔力の密度も術式の機能性も三流以下ですね……確かこの学校の売りって「世界に誇れる魔術師の育成」でしたっけ?」


日本という国は誇大広告と不信政治が売りだったか、と下らないことを考えながらその足は職員室へと向かっていた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



職員室へと辿り着いた。ドアをノックしようとしたが、突然そのドアが開き悠へと向かってきた。


「(僕は何か不意打ちされなきゃいけないようなことしましたかね?)」


頭の中で意味のない問答をしながらもドアを顔面に受けて痛がっておく。


「痛いですね、本当に……」


「あら、貴方うちのクラスの犯罪者じゃない。何しに来たの?」


職員室のドアを開けこちらを見ていたのは護衛対象の黄川 哀音だった。


「あ、黄川さん。どうしたんですか? どうして職員室なんかに?」


「それは貴方には関係ないでしょう?」


「そうですね。やはりお嬢様は違いますね。お友達がいなくても学校はとても楽しそうだ」


お友達がいなくても、を強調していうと眉の端を上げ怒りの感情を露にしている。


「どうしました? 怖い顔してますよ?」


「そんなの貴方に関係ないでしょ!? そこどいて! 出られないじゃない!」


そう言うと悠のことを突き飛ばして哀音はどこかへ行ってしまった。


「全く、荒っぽいお嬢様だこと」


冗談めいた口調で彼女の消えていった方向に声を掛ける。だが、返答どころかそちらには人は全くいなかった。


「で、職員室に呼び出した理由をお聞かせ願いたいのですが?」


開き放たれたドアから職員室に入り、そこにいた担任教師 守屋 翡翠に声を掛けた。教員用に支給されている椅子に腰掛けながら守屋は淡々と告げた。


「昨日のことは悪かった。その場で謝れなかったのでこの場を借りて謝罪しよう。……それと昨日のことを見て考えたのだが、お願いがある」


「……そのお願い当ててみましょうか?」


その言葉に一拍置いて返された言葉に守屋は一瞬「は?」という表情を浮かべたが、そのまま言葉を続けた。


「ずいぶん舐められたものだな。我々がどのような行動を起こすかなんて君に分かるはずが……」


その声を聞き、口元を歪めた悠は遮るような形で声を発した。


「今回の試験での魔術の使用制限。ペアでの参加自粛。一定以上の成績の保障。どうですか?」


思わず声が出そうになったのであろう守屋は口元を手で押さえるような仕草を見せたが、すぐに自然な状態へと戻る。だが、守屋の精神は未だ揺れたままだった。


「(昨日のことだとは告げたがここまで考えられるか?)」


今守屋が告げようとしたのは、試験での魔術に使用制限を掛ける、ペアではなく一人で試験に望む、一定以上の成績は保障する。この三つだった。


「まぁ、二つ目と三つ目は相談ですね。でも、一つ目に限ってはそんなことしなくても大丈夫ですよ?」


そんなことをしなくても大丈夫、という発言に守屋は引っかかりを覚えた。


「どうしてそんなことを言う?」


「それはですね……まぁ、ここでは話し辛いですから生徒会室の方で良いですか?」


悠は不敵な笑みを浮かべながら、守屋は数々の疑問に顔を歪ませながら職員室を後にした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


生徒会室


生徒会室に入り、手近にあったパイプ椅子に腰掛ける。生徒会室の鍵は職員室のマスターキーで開けた。


「で? さっき言っていた一つ目に関してなんだが、どういうことだ?」


「実を言いますと、僕、闇属性なんかじゃありませーん。固有属性持ってまーす」


ふざけたような口調で告げた悠に対して守屋は頭を抱えるばかりだった。


「……では、なぜあのようなことをした?」


「あー、闇って言ったあれですか? まぁ、そのまま言っても良かったんですが、見た目は闇とあんまり違いがありませんし、固有属性ってことで変な誤解受けたくありませんでしたってのが理由ですよ」


「じゃあ一つ目の指示に対してなんだが……」


「あ、その前に見てもらったほうが早いですから、少し待ってください」


そう言うと悠は魔術の詠唱するために右手を絨毯にできていたテーブルの影に触れさせた。そして詠唱を始める。


「影よ。何者も喰らい尽くす影よ。影よ、全てを無へ帰せ」


そう告げると影がどんどん悠の方へ動いているのが確認できた。


「それが……お前の魔術か?」


「えぇ。僕もコイツの底が知れないんですけどね。まぁ、見た目的に影って呼んでますけどね。で、一つ目の指示についてですが、分かるでしょう?今はお天道様が出て俺みたいな奴のことも照らしてくれちゃってます。影なんてものをそんな中で使えるわけないでしょう?」


「で、その影の特徴を教えろ」


「……いいですよ。こいつはどういう訳か闇属性の魔術でも動きます。威力はまるで別物ですが……」


「だから決闘フィールドでも……」


「そういうことです。で、こいつを使うとなんというか……倦怠感があるんですよ。魔力も使いますが、こいつはもっと別のものを喰って動いてるんだと思います」


そこまで言うと悠は纏わせていた影を消した。影から伸びていたそれは元の影に吸い込まれるように消滅していった。


「でも、先生。さっきの指示だと僕は試験に魔術を使用せずに参加しろってことになりますよ?」


守屋は忘れていた、と呟いてから説明を始めた。


「いや、固有属性の方は使うな、ということだ。時間改竄だったか? あれはこの学校でも教材、先生共に不足していてな。使ってくれて構わない。むしろデータが欲しかったところだ」


「そうですか……あ、成績のほうも、よろしくお願いしますね?」


「分かっている。……ところでだ。お前、戦闘はどうするつもりだ?」


その質問に大して悠は少しにやけながら返事をした。


「んー……まぁ、見てのお楽しみってところですかね?」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「協会からだ。どうやら、あの標的(ターゲット)は次の授業で行われる校外での魔術実習に参加するようだ」


「了解です。ボス。予想できる狙撃可能ポイントをお願いします」


国立魔法研究第一高等学校から北東へ2,8km地点。広大な土地を必要とするこの学校のために「消し飛ばされた」場所以外は青々と葉が茂る山となっている。その山々の中の一つの八合目の地点。高さで言えば大体2600m辺りの地点にいた。草むらの中へ身を潜めながら狙撃銃を構えている。いや、その銃を狙撃銃と呼ぶには些か過小な表現であっただろう。


全長1870mmの異常なほど長い銃身。地面とその銃身を結びつけるバイポットはさながら地に突き立てられた牙のようだった。弾倉は既存のものと比べようのないほど大きい。銃身の先に付けられたマズルブレーキも普通の狙撃銃に付けられるものとは比較のしようがないほど歪なものだった。その外見は対物ライフルであるPGMヘカートⅡであった。外見だけは、だが。ただでさえ暴力的な力を持った対物ライフルを更に強化したそれはPGMヘカートⅢ 通称「巨人の(トールハンマー)」と呼ばれている。


「狙撃できる直前になったら、お前の端末に情報を送る。相手には護衛がいるだろうが、巻き込んで構わん。とにかく、しくじるなよ」


その声を聞いて安心したかのように溜息を吐きながらスコープを覗く男。


「こいつが終われば人生三回遊んで暮らせる金がもらえて、これをミスれば人生三回棒に振るような違約金と魔術協会全員を相手に世界中をダンスし続けなきゃいけないんだっけか?」


「あぁ、そうだ。こいつが終われば旨い酒奢ってやる。フランスのコニャックだ」


「期待してるよ。それじゃあ……」


「お互いの成功を祈って十字架でも切らせてもらうかね?」


「おいおい、お前の実家はキリシタンじゃあないだろう?」


「馬鹿言え。お前の家はキリシタンだろう? 君のために祈るんだ。神はいつでも誰にでも寛大であられるはずさ」


「そうだといいんだけどな……上手くやれよ」


「お互いに、な?」


そこで通話は切れた。彼等は確実に脅威としてすぐそこまで迫ってきている。


まるで、毒のように。

投稿が遅くなって申し訳ありません。体調を崩し、テストがあり……。

これからはもっと頑張って更新していきますので応援よろしくおねがいします。

感想のほうもお待ちしております!

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