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氷葬  作者: 澄氏 新
1/12

プロローグ

 彼女の頬に触れてみた。

 とても冷たかった。

 右手に伝わる、氷の様な冷たさ。

 

 安らかな彼女の顔。

 まるで眠っているみたいに見えた。

 でも、彼女の顔は真っ白で。

 

 今にも、いつもみたいに、眠い目を擦りながら、むっくりと体を起こしそうで。

 

 でも、彼女は、もう目を開けることは無い。

 

 

 彼女……俺の妹は、死んだ。

 俺が高校に入って直ぐの出来事だった。

 

 医者からは、心不全と診断された。

 

 桐の棺の中に寝かされて、白い花を添えられて。

 もう二度と会えない。話すことも、もう、出来ない。

 

 

 信じられない。信じたくない。

 でも俺は、この手で妹の頬に触れ、彼女が「死」んだことを知ってしまった。

 

 「死」の冷たさが、手にへばり付いて離れない。

 涙が出た。

 自分で妹の「死」を確認し、思い知り、そして、二度と帰ってこないことを改めて悟り、ただただ泣いた。

 見っとも無い、とも思わなかった。

 親父も母さんも、泣き崩れていた。

 参席してくれた妹の友達も涙を流していた。

 

 

 

 妹の葬儀はしめやかに行われ、そして静かに終わった。

 

 

 それから妹は火葬場に運ばれた。

 火葬炉にゆっくりと運ばれる妹を見ながら、呆然と立ち尽くした。

 涙も消え、何の感情も沸いて来ず、呆然と、炉に入れられる妹の姿を見送った。

 

 休憩室に移動したときも、ずっと呆然としていた。

 色々な思いが頭を過ぎったが、今ではその時何を考えていたのか思い出せない。

 

 窓から見えた煙突の先から黒煙が上がるのを見て、何とも言えない気分になった。

 ただ、妹の冥福を祈りながら、その煙を見送った。

 空の果てに消えるまで……

 

 

 

 其れから五年の歳月が流れ、俺は高校を卒業し、大学へと進学した。

 しかし、それだけの時間が流れても、俺の手から、あの冷たさが消えることは無かった。

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