多少のあざとさは正義です
「天真爛漫な笑顔が良い」
「自由奔放な表情が良い」
この国の第一王子、宰相の息子、騎士団長の息子が言う。
そう言われているのは、子爵令嬢のアリス。
そのアリスと同じクラスのエルルは思う。
でしたら我がクラスにどうぞ、珍しくもなんともありませんから。
この学園は、爵位別のクラスで構成され、領地経営、魔法、薬学、剣術、馬術、ダンス等、オールマイティな授業が行われている。
男子であっても女子であっても必修科目で、難しい試験に合格すれば自由科目になるという、なかなか厳しいカリキュラムだ。
特に、下位貴族は、入学するまでの教育に差があるため、紳士淑女教育はものすごく厳しい。
高位貴族が放課後を楽しむ中、図書室でガリガリと勉強する姿が見られるほどだ。
エルルのいる子爵クラスも放課後を楽しむなんて余裕はない。
各科目の補習を受け、分からないところは教師に聞いたり、仲間同士教え合ったりして、何とか授業についていく状態だ。
身体的疲労も精神的疲労も半端ない。
でもやるしかない。入学してから三年間は死ぬ思いで研鑽を重ねた。
そして最終学年の今、ほぼ完修し自分の苦手分野を再履修したり、得意分野を極めたりしている。
ただマナーと礼儀は、繰り返し学ぶよう言われているが……。
「馬術合格したわ〜!」
「エルルおめでとう!これで完修よね!」
友人のシェリーとエレノアが駆け寄る。
「長かったわ〜」
エルルは友人とキャッキャッとはしゃぐ。
教師がマナーを繰り返し学ぶように言うのも無理はない。
エルルは馬が苦手だった。幼い頃、父に連れられ牧場へ行ったことがあった。そこは軍馬専用の有名な牧場で、エルルの見たことのある馬より一回りも二回りも大きかった。
近くまで行けば、さらに大きく感じ、小さなエルルは食べられちゃう!とギャン泣きした。そうなれば馬も落ち着かない。フンフンと鼻息を荒くしてドシドシと脚を踏み鳴らす。エルルはあまりの怖さに気を失ったのだった。
それ以来、他の動物は大丈夫だが、馬だけは駄目で、馬術の最初の授業では、ニンジンを食べさせるだけで気絶した。
エルルは、厩舎に通い、鳥肌を立てながら馬とふれあい、触れるようになるまで一年、そこから乗れるようになるまで一年、努力を重ねること四年で、ようやく試験に合格したのだ。
エルルだけでなく、こうして苦手なことに真摯に取り組むのはエルルのクラスのほとんどで、教師たちに高評価されていた。
だが、時に群れから外れる者がいる。
今まで余裕のない学園生活で気づくことはなかったのだが、休憩時間になれば、教室を出ていき、昼食も食堂で見かけなかった。放課後も補習に出ていないし、図書室にも来ていなかった令嬢アリス。
「知らなかったわ」
「クラスの誰も気づいてなかったわよ」
「まさか殿下や高位貴族の子息と交流を持っていたなんてね」
食堂ではなく、中庭でランチをすることになったエルル達が見たのは、アリスと第一王子のブライアンと侯爵令息アルベールとレオン。
「あの方々、婚約者がいらっしゃるのに……」
ブライアンにはエリザベス公爵令嬢が、アルベールにはシャーロット侯爵令嬢、レオンにはミレニア侯爵令嬢が婚約者としている。
「アリス様ってあんな顔してらした?」
「いいえ、いつも何も話さないし、話しかけても答えないし、クラスの誰も交流がないはずよ」
「そうよね、あんなふうに笑うところなんて初めて見たわ」
エルル達はランチを食べながらアリス達を見ていた。
すると、アリス達は立ち上がり、エルル達の方へ向かってきた。
「君達」
ブライアンに話しかけられ、エルル達は直ぐ様席を立ち、礼を執った。
「こいつらか?」
アルベールがアリスに聞いた。
エルル達は頭を下げたまま横目を合わせる。
「……はい」
か細い声でアリスは答えた。
何事?と、ますますエルル達は分からない。
ブライアンの声が頭の上から響く。
「君達がアリスを虐めているのか?」
虐め!?話したことも無いのに!?エルル達は混乱する。
「で、殿下。発言の許可をいただけますか?」
「ああ、顔を上げるがよい」
エルル達は、顔を上げ、アリスを見た。
アリスはブライアンの腕に掴まり、エルル達から隠れるようにしていた。
「わ、私達はアリス様を虐めた覚えはありません」
するとレオンに、嘘をつくなと詰め寄られる。
「本当です!私達子爵クラスは、この学園に入学して直ぐから学園カリキュラムをこなすのに精一杯でした。余裕ができたのはごく最近で……」
「そうです!アリス様は休憩時間に教室にいることはなく、放課後も私達と関わることはありませんでした」
と、シェリーとエレノアは反論するが、
「アリスは入学した時からずっと、クラスで無視されていたそうだ。誰とも話さず、独りぼっちだったと!」
とレオンに言い返される。
独りぼっちだったのは確かだ。
けれど、こちらは図書室や補習に一緒に行こうと誘ったことはあるが、アリスがそれに応えたことはない。
徐々に誘うこともなくなったが、それはエルル達のせいではない。言うならば、アリスがこちらを無視していたからだ。
何故それがエルル達のせいに?
「可哀想に、アリスは校舎の隅で泣いてたんだぞ!」
「私達は無視などしておりません!こちらから話しかけても返事をしなかったのはアリス様です」
「アリスは繊細なんだ!何故分かってやれない!」
何故と言われても……。繊細だから気遣ってやれという意味?友人でもない人にそんなに気を遣わなくてはならないものなの?と、エルルは反論する。
「何度も申し上げますが、子爵クラスは、高位貴族クラスに比べて、課題も多く、必死で授業についていかなければなりません。
休憩時間や放課後を共に学び訓練しながらクラス内で友人をつくりました。
アリス様はクラスメイトの誘いを断り、私達と過ごすことを自分から拒否されていました。
独りぼっちなのはアリス様自ら望んだことではないのですか」
「一人になりたい者などいるわけ無かろう!」
いくら否定しても、そんな訳がないと言われ、話が通じない。
「とにかく、私達は虐めなどしておりません。そろそろ授業が始まりますので、御前を失礼してもよろしいでしょうか」
「逃げるのか!!」
「逃げるのではありません。休憩時間が終わるのです。殿下方も同じでございましょう?」
「くっ……」
「それでは失礼いたします」
エルル達はカーテシーをし、踵を返した。
エルル達が教室に戻り、少ししてからアリスも戻ってきたのだが、エルル達と目を合わせることなく席についた。
一体何だったのか……。
中庭での事が気になり、エルルは授業にあまり集中できなかった。
一日の授業が終わり、エルル達は授業の復習をしようと図書室へ向かおうとした。
「アリス様、この後私達は図書室へ行くのですが、ご一緒にいかがですか?」
エルルはもしかしたら、殿下たちが言うように、もっと誘ってほしかったのかもしれないと思い、アリスに声をかけた。
だがアリスは口を開くこともなく、無言で教室から出ていった。
「何なの!あれ!」
エレノアが怒りの声を上げる。
「ね、アリス様はずっとあんな感じよね。なのに何故、私達が虐めていることになるのかしら」
シェリーも納得のいかない顔で頷く。
子爵クラスでのアリスの印象は、無口で無表情。
一人でいたいタイプなのだと皆が思っていた。
が、中庭でのアリスは違っていた。
明るく朗らかに笑い、表情豊かで、それなのにブライアンの腕に縋る様は儚く、見たことのないものだった。
「どちらか彼女の本当の姿なのかしら」
エルル達は困惑していた。
図書室に向かう途中、高位貴族の令嬢に呼び止められた。レオンの婚約者ミレニアだった。
ミレニアの案内で通されたのは、ブライアンの婚約者、エリザベス公爵令嬢のサロンだった。
そこに居たのは、もちろんエリザベスとシャーロット。
またアリス絡みなのかと、エルル達は嘆息したが、マナー教師に恐ろしく躾けられたカーテシーで礼をする。
「どうぞ、気軽にして。貴女方に聞きたいことがあるのよ」
座ってと言われ、エルル達は席につく。
「アリス様が貴女方に虐められていると、高位貴族クラスに訴えに来ているのだけど」
「いいえ、違います。私達はそんなことしていません」
やはりとうんざりしながら、エルル達は声を合わせて言う。そして、中庭での出来事を話した。
「そうなのね。アリス様と殿下の言い分だけを信じることはできないと、貴女方に聞いてみたけれど、これではどちらが正しいか分からないわ」
「私達も困惑しています。皆様の知っているアリス様と私達の知っているアリス様が違いすぎて、驚きました。ですが、その事を知ったのも今日でしたし。
先程も図書室にお誘いしましたが、返事さえもらえず……」
「もう、殿下方に昼間の事で文句を言われたと泣きついていましたわ」
「「「ええっ!?」」」
エルル達は愕然とする。ただ図書室に誘っただけで、何故そうなるのか。
「今までも、休憩時間の度に、アリス様は私達のクラスへ来ていたの。虐めを訴えにね。仲間に入れてもらえない、って。
下位貴族のクラスが大変な事は知っていたし、余裕がなくて、そう見えるだけだろうと思っていたのよ。
でも、話しかけても無視されると泣きながら訴えるから……。
そのうち、殿下方が親身になって慰め始めてね。アリス様も笑顔を見せるようになってきたから良かったものの、今度は、殿下方とちょっと距離感が近くなってきて……。
貴女方に虐めをやめて欲しいと思って、今日はお呼び出ししたのよ」
「私達、本当に何もしていません!」
「無視されているのは私達の方です!」
シェリーとエレノアは泣き叫ぶ。あれだけ厳しく人前で感情を顕にしないよう教え込まれてきたのに、涙が止まらない。
「……悔しいです」
エルルはスカートを両手で握りしめ俯く。
「私達子爵クラスは、本当に努力してきました。国のために働けるよう、下位貴族なりの矜持を持って……。時間を惜しまず、努力して努力して、やっと最近、友人と語り合う時間ができたのです。
それなのに、たった一人の嘘に振り回されるなんて、悔しいです。……本当に悔しくてたまらない……」
何があって、こうなったのか、まるでわからないのです。とエルルは涙を零した。
エリザベス達はエルル達にハンカチを渡す。そして、
「……貴女方を信じるわ」と言ってくれた。
「さっきも言った通り、下位貴族クラスの大変さは知っているわ。
その上、貴女方学年の子爵クラスは優秀だと教師の間でも話題になるくらいだと。
だから最初は信じられなかったのよ。でもあまりにもアリス様の訴える頻度が高くてね……。
そして自分の婚約者がアリス様に入れ込む様が嫌だったの」
ごめんなさいね、とエリザベス達は謝った。
「……ありがとうございます。
でもどうしてアリス様はこんな嘘をつくのでしょうか」
「そうね、私にもわからないわ。でも最近、殿下はこう仰るのよ。アリス様は天真爛漫で自由に表情が動くのが癒されると……。公爵令嬢である私がそんなことできるわけ無いのに」
エリザベスは嘆息する。
「私も言われました。アリス様の様に表情で感情を語れと」
シャーロットは自分の胸を押さえた。
「私もアリス様を見習えと」
以前はそんな方ではなかったのに……と。ミレニアは涙ぐむ。
「天真爛漫、表情が豊かって、そんなにいいことでしょうか。社交界では腹の探り合い。感情を表情に出すなんてダメ、絶対と、マナーの先生から一番最初に学びましたが」
「そうね、対立する家門と会話することもあるわ。隙を見せてはいけない。ある程度、扇子で口元は隠せるけれどね」
ですよね。と、エルル達も頷く。
「残念だけど、友人にさえ貴族らしい微笑みは見せても、声を出して笑うまではなかなか無いわ。泣き顔もね。本来の姿は……。そうね、私室の鏡にしか見せたことがないわ。もちろん家族にもそう教育されてきたから……」
「殿下には……?」
「まだ学びの浅い幼い頃なら笑っていたわ。今は……無理ね」
「……そうですか。私達子爵家は、社交の場で恥を掻かず、高位貴族を不快にさせないようであれば、
家族や友人に気遣いなく本当の自分を出すことが許されています。というか、そこまで厳しくありません」
「それは羨ましいわ」と、エリザベス達は目を合わせ苦笑する。
高位貴族には高位貴族なりの悩みがあるのだ。
「せめて友人や婚約者には気を許して笑い合いたいと思うけれど、長年の教育で色々な表情を忘れてしまったようなの」
「そうね、喜怒哀楽。子供の頃は当たり前のように表せていたけれど、今は出来ないわね」
と、シャーロットもミレニアも続く。
「自分の婚約者が、アリス様のそういう所に惹かれているのなら、私達は太刀打ちできないわ……」
エリザベス達は音を立てず紅茶を飲み、カップを置く。エルルがその仕草を習得するには時間がかかった。今でもたまに音を鳴らす時がある。高位貴族令嬢の凛とした姿に憧れを持っていたエルルに一つの案が浮かぶ。
「……あの、宜しければ……」
三ヶ月後の放課後、エルル達はブライアンに、無礼を承知で声をかけた。
幸い無下にされることはなく、「良いだろう」と許可を貰い、我が子爵クラスへと案内した。
「殿下!」と、喜びの笑顔で近づくのは、エリザベス。
「来てくださったのですね!嬉しいです!」
とはしゃぐ姿に、ブライアンは驚く。
「これは一体……」
「私、寂しかったのですよ!殿下がアリス様との時間を多く過ごすようになって!」
と、頬をプクッと膨らませて怒る。
「もしかしたら、お別れすることになるかもしれないと思うと、つらくてつらくて眠れませんでした……」
と、涙をハラリと零す。
「でもまだ私にもできることがあるかもしれない、と友人達と努力したのです」
と、楽しそうに笑う。
「殿下……。私は貴方の前でだけ、本当の私を見せたいと思います。私では駄目ですか……?」
トドメにうるっとした瞳で見つめる。
顔を真っ赤に染めたブライアンは、「良い!!」と叫ぶ。
「私は君が王子妃教育を受け、完璧な淑女になっていく様を誇りに思いながらも、寂しく思っていた。
私の好きだった君は変わってしまったのだと……。
でもそうではなかったんだね」
「でも私、この教室を出たら、いつもの淑女の私に戻るわ」
とエリザベスは目を伏せる。
「ああ。でも、私の前でだけは、その笑顔を見せてくれるのだろう?ベス」
「ええ!ええ!もちろん!!」
と、エリザベスはブライアンにエスコートされ、見つめ合いながら教室から去っていった。と、同じように他二組も……。
チョロい……。
教室にいた誰もが思った。
エルルはエリザベス達に、感情を表情に出す練習を提案した。
「私達は完璧な淑女になる必要はありません。その場の状況に相応しい礼儀がとれたらそれで良いのです。
ですが、高位貴族令嬢はそうではなく、常日頃から完璧を求められますよね。
誰しも息抜きは必要です。淑女の仮面を外す時間を作りませんか?」
そしてエリザベス達を説得し、マナー教師にも話を通す。日頃から身につけないとボロを出す時が来ると反対されたが、
「下位貴族の天真爛漫に高位貴族が惹かれるのは、もの珍しさからです。側にそういう方が居れば、珍しくも何ともないでしょう。これは殿方の気持ちをしっかり掴んでおくために必要なことなのです!」
と、エルルは力説し、ものは試しということで、何とか許可を得た。
子爵令嬢講座の始まりである。
最初、エリザベス達は、頬を赤らめ、そんなことできないと言っていた。
確かに怒った時に頬を膨らますなんて恥ずかしいだろう。
「幼い頃にしませんでした?」と聞くと、「……してましたわね」と頷く。
子爵クラスの友人同士の他愛も無い話を聞かせているうちに、エリザベス達の緊張も解けてきて、笑い声が出るようになってきた。目元も柔らかくなり、口も開くようになってきた。
「楽しいわ」
「それでいいのです」
色々と話していると、幼い頃は木登りが好きだった、兄と釣りへ行き、虫のエサも平気でつけていた等、お転婆な話も出てきた。
「まるで子供に戻ったみたい」と言い、皆で笑う。
怒ったり、悲しんだり。楽しかったり、嬉しかったり。たくさんの感情を取り戻していた。
そのうち、「ねえ、こんな事言ったらどうかしら」と意見が出始める。
「なかなかあざといですね」
「あら。我が家には兄も弟もいるのよ。中間子で、しかも女の私が家族から注目されるには必要なのよ」
「べ、勉強になります」
いつの間にか、エルル主宰の子爵令嬢講座が、エリザベス主宰のあざと講座になっていたのはご愛嬌ということで……。
三組のカップルが去った後、アリスは呆然としていたが、小さな声で「ごめんなさい」とエルル達に頭を下げた。
そして、カバンの中から紙とペンを出し、書いていく。
『私は魅了持ちです』
「えっ!?」
『それは瞳を見つめることでなく、声を聴かせると魅了にかかるという珍しいものです。
ずっと隠して、母以外と会話せず生きてきました。
私は子爵家の後妻の連れ子で、義父にこの力を知られると、この学園に入れられ、王族や高位貴族を誘惑するように言われました。
殿下方の同情を買うために虐められていると嘘をつきました。
母を人質に取られています。
母は没落している男爵家出身です。逆らうことはできませんでした』
アリスは涙を拭い、また書き綴る。
『このクラスは良い人ばかりで、たくさん話しかけてくれて嬉しかった。でも答えることができなくて、ごめんなさい。
だけどこの力を知られたくなくて、教室から逃げ出すことしか出来ませんでした』
「そうだったのね」
「こちらこそ、ごめんなさい。知らなくて、私達を見下しているんじゃないかって思っていたわ」
アリスはブンブンと頭を横に振る。
『態度が悪かったのは私の方です。すみませんでした。
義父はこの力を使って、私を高位貴族に嫁がせ、甘い汁を吸うつもりだったようですが、そんなに上手くいくわけがないと思っていました。でも母が……』
「お母様はどうしているの?」
『部屋に監禁されていて会うことができません。ドア越しに会話するだけです』
「まあ!それは酷いわ!」
「何故それを殿下方に言わなかったの!」
シェリーとエレノアが詰め寄ると、
「…………あっ」
アリスは思わず声が出た。
「……思い付かなかったのね」
エルルは少し呆れてそう言った。
アリスは筆記で「目一杯だったので」と顔を赤くし、紙で顔を隠した。
そうと決まれば、直ぐに殿下達を呼び止め、アリスの子爵家へ騎士を向かわせ、アリスの母親を救出することができた。
アリスの両親は離縁し、子爵は国家転覆罪と監禁罪で貴族籍を没収され、アリスの母は男爵家に戻ることなく、娘と共に平民になることを決めた。
アリスは神殿から魅了を封じる魔封じのブレスレットを与えられ、学園は退学することになった。
「残念だわ。卒業まで在籍すれば良かったのに」
「いいえ。平民ですし、学園に通う資格もありません。働かないと母を養えませんから」
「……そう。また会えるかしら」
「はい!そう言っていだけて嬉しいです!
あの……お手紙送ってもいいですか?」
「ええ!もちろんよ!私達はクラスメイトだもの!」
アリスの泣き笑いながら学園を去る姿を、子爵クラス全員で手を振って見送った。
ブライアンとエリザベス達は、エルルの子爵令嬢講座と、エリザベスのあざと講座のおかげで仲の良いままだ。
この国の未来も明るいだろう。
さて、エルル達はというと、
「はあ、もう卒業ね〜」
「エルルは神殿に行くのでしょう」
「そうね、国中を回ることになるわ。聖女として」
「聖女が学園に入るなんて珍しいことだったんでしょ?」
「そうみたいね。でも、魔法も剣も鍛錬できるし、薬学も治療に活かせるし、何しろ移動で馬に乗れるようになったから、馬車の通れない場所まで行けるようになるわ!
この学園は貪欲に学べる良いところよ」
「で、彼も帰ってくるしね」
シェリーとエレノアはニヤニヤとエルルを見る。
「〜〜っ!」とエルルは頭を抱える。
婚約者のエネアが隣国への留学から帰ってくるのだ。
「彼のことは好きよ。好きだけど……」
エネアは、エルルが聖女なら、俺は聖騎士になる!という溺愛だ。
とにかくエルルの後をついて回る。まるで背後霊のように。何時でも、何処にでも。
一緒に居られることは嬉しい。だが、それも行き過ぎると息が詰まる。
二年前、さすがに限界がきたエルルは言った。
「隣国には聖騎士専用の訓練学校があるのよ」
「この国で敵なしの貴方には、そこで鍛えて欲しいわ」
「離れるのは寂しいけれど、貴方がかっこいい聖騎士になって帰ってくるのを待ってるわ」
「ね、私の聖騎士様♡」
次の日には荷物を纏めて旅立ったエネア。
……チョロい……。
とにかくエルル達はもうすぐ卒業する。
子爵クラスの就職率は高い。
この学園で学んだことを充分に活かせる場所を見つけ、思う存分、自分の力を発揮するだろう。
もちろんエルルも聖女として国内を駆け巡る。
エルルが望んで選んだ道だ。
土地を浄化し、患者を治療する。他にもきっとできることがあるだろう。
大好きな彼と共に。
お読みいただき、ありがとうございました。
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代表作 悪役令嬢になる暇なんてありませんでした(完結済) もお楽しみください。




