第8話 夢か幻か現実か
大五郎少年を先頭に鈴、ウブメ、龍の子どもを抱いた健の順に龍神様の背中に乗っていた。
「それじゃあ出発」
少年の元気な声に応えるかのように龍神様も大きな鳴き声を発した。龍神様は少しずつ空を舞っていった。さっきまでいた森と湖があっという間に見えなくなった。
「下が怖くて目を開けらんないや」
「やれやれ鳥が高い所を怖がってどうすんだ」
「鈴姉ちゃん、後ろのバカ健がか弱い私を虐めるんですぅ」
「突然カワイ子ぶんな、後バカは余計だ」
健は高所恐怖症で身体を震わせていたウブメを茶化した。そんな健をウブメは猫なで声で皮肉を言った。鈴はそんな二人の会話を聞きながら口に手を当て笑っていた。大五郎少年は前を向いたまま三人の会話を楽しそうに聞いていた。
「でもさ鈴、龍神様の背中に乗ってれば歩かないで楽できるよ」
「ダメダメ、自分の足で旅する事に意味があるんだから」
「もう真面目なんだから鈴は」
楽しい時間というのはあっという間に過ぎ去ってしまう。もといた湖まで龍神様は降りると背中に乗っていた皆も飛び降りるように降りた。もうすぐ日が昇ろうとしている時間だった。
「とっても楽しかったよ。僕は遊び相手が欲しくてね僕とこの子だけじゃ寂しくて仕方がなかったんだ。僕のわがままに付き合ってくれてありがとう。僕は今夜の事を絶対に忘れない。だから皆も僕たちの事をずっと忘れないでいてね」
そう言うと少年は何処かに消えてしまった。三人は意識が朦朧としたかのように目を閉じ、そして目を開けた。するといつの間にか森の入り口に立っていた。
「ここは森の入り口、それに迷うほどの深い森でもないしあんなに大きかった湖も無くなっているじゃないか」
「私たちはずっと同じ場所を歩いていたって事なのかな」
美しい湖と龍神様、そして純粋無垢な少年。彼らの正体を知る者は誰もいない。昨晩の不可思議な出来事について誰も正しい説明をする事は出来ない。
「お〜い、旅のお嬢さん方大丈夫だったかい」
三人が不思議そうに顔を見合っていると老夫婦が心配そうに鈴たちに声をかけてきた。
「あ、すみません。この子が勝手についてきてしまって心配したでしょう」
「いやいやそんな、それに私たちにはもう子どもを育てられる時間も気力も無い。やはりあなた方が育てられた方がこの子にとっても幸せだと思いますよ」
鈴は自分の腕の中で不思議そうに見つめる龍の子どもを見て自然と笑みがこぼれた。ウブメは何かを思い出したかのように鈴に話しかけた。
「そうだ、この子にも名前をつけてあげようよ鈴。いつまでも名前が無いのは可哀想だし」
「そうだね、なんて名前にしよう」
鈴は昨晩出会った少年の事を思い出し
「大五郎、この子の名前は大五郎でどうかな」
「うんうん、この子にぴったりの名前だね」
「そうだな、良い名前じゃないか」
龍の子どもは昨晩出会った少年にちなみ大五郎と名付けられた。旅の一行は老夫婦たちに別れの挨拶を交わし新たなる旅の一歩を踏み出した。




