第7話 声の主に導かれて
ウブメは龍神様目掛けて勢いよく飛び跳ねたが、尻尾に弾き飛ばされその勢いで湖に落っこちた。
「水イヤ、水キライ。鈴、助けて」
ウブメは溺れないように必死に羽根をバタつかせた。「火の鳥」たるウブメにとって水は最大の弱点なのだ。鈴は近くにあった太い木の棒を持ち、溺れているウブメに近づけた。ウブメが棒に捕まると岸の方まで引っ張り誘導した。何とか湖から脱出したウブメは陸地に上がれて安心したのか、うつ伏せの状態でぐったりしていた。
一方、健の方も岩陰に隠れながら攻撃の機会を伺っていた。
「なるほど、ただ単に図体がデカいというわけではなさそうだな」
健が様子見をしていると龍の子どもが龍神様の前に立ちはだかった。
「一体何を考えているんだ」
健は「危ないから早く戻って来い」と龍の子どもに手招きをしながら注意した。健の忠告を無視した龍の子どもは二本の角から微力の電気を放出した。上手く力を制御出来ないそれでも相手の身体を痺れさせ怯ませるには十分だった。
「なんて力なんだ。あれが生まれたばかりの子どもの強さなのか」
健は龍の子どもの潜在的な力に驚いていた。鈴の方もウブメを介抱しながらこの状況を打破する方法を考えていた。すると何処からか少年のような声が聴こえた。
「待ってお姉さんたち、彼は怪我の痛みで暴れているだけなんだ。彼を助けて」
鈴は見えない声の主の言葉を信じ一か八かで自分たちは敵では無い事を身振り手振りで必死に伝えた。そして尻尾が当たるか当たらないかのぎりぎりで彼女の真意を悟ったのかぴたりと暴走は止まった。鈴は恐怖のあまり後ろの方に倒れた。龍神様は彼女に頬ずりした。彼女の無事を確かめる為に健と龍の子どもは岩陰から、ウブメは這って鈴のもとにやって来た。
「無事で良かった」
「あなた怪我をしてるみたいだね。ちょっと私に見せてくれない」
龍神様は怪我をしているという尻尾を鈴の目の前に置いた。見てみると木の枝が突き刺さり真っ白い鱗が鮮血で染まっていたのだった。鈴は液体の入った薬瓶と包帯を風呂敷の中から取り出した。
「ちょっと痛いけど我慢してね」
鈴は龍神様の尻尾の木の枝が刺さった部分をさすりながら少しずつ枝を引っこ抜いた。幸い傷口が浅かった為にすぐに引っこ抜く事が出来た。鈴は血の出ている部分を包帯で巻いた。
「これで大丈夫、しばらく安静にすれば傷も痛みもすぐ無くなるよ」
「しかし、えらいことをやってしまったな。暴れてるもんだからてっきり危害を加えて来ると思ったんだ。悪気は無かったんだから勘弁してくれよ龍神様」
「私からもお願いします。許してください」
健とウブメは手を合わせながら懇願した。
「それにしてもあの声は何だったんだろう。単なる気の所為だったのかな」
「気の所為じゃないよ。僕はここにいるよ」
あの声がまた聴こえたかと思うと三人の目の前に火の玉の様な丸い球体が現れた。
「僕は信じていたんだ。お姉さんたちが心優しい人たちだって事を」
そう言うと火の玉は突然形を変え、少年の姿になった。
「僕は大五郎。この子と友達なんだ。ずっと遊び相手がいなくて退屈してたんだよ。そうだ、この子の背中に乗って僕と一緒に空の上を旅しに行こうよ。ね、君もお姉さんたちと一緒に空を飛びたいだろう」
少年は龍神様に尋ねた。龍神様は頷くように首を縦に振った。
「なるほど空の旅か、悪くないな。そう言えば鳥なのに空を飛べないと嘆いていたな、この機会に空を飛ぶというのを体験してみたらどうだいウブメちゃん」
ウブメは険しい表情で健の顔を見つめた。一方、少年は無邪気に飛び跳ねながら一緒に空の旅を楽しめる事を心から喜んでいた。




