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妖世記  作者: ジャック
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第5話 龍神様と老夫婦

険しい山道を下り、山の麓まで降りてきた。


「久しぶりに甘い物が食べたいもんだな。ここしばらく草木と魚しか口にしてなかったからな」

「そうだね、私たちもお腹が空いたし何か食べようよ」


旅の一行は町の方までやって来た。そして良さそうな茶店に入ると三人共、茶とあんみつを頼んだ。険しい山道を歩いたからなのか、三人共あんみつを味わう暇も無いぐらい早食いした。健が無我夢中にあんみつを食べているとふと視線を感じた方に目を向けた。すると龍の子どもは目を輝かせながらじっと健のあんみつを見つめていた。


「何だ。お前さんもあんみつを食べたいのか」

健は龍の子どもにあんみつを一口食べさせた。龍の子どもは生まれて初めて食べるあんみつの味に驚きながらも美味しそうに食べていた。

健は二人の方をふと見た。まるで恋人みたいな仲睦まじい鈴とウブメの様子に健は嫉妬の様な感情を抱いた。

「やれやれ女同士の友情ってのはよく分からんものだな。まるで俺だけが仲間外れにされてる気分だぜ」


鈴が勘定を済まして外に出るとウブメが辺りを見回していた。健がどこにもいなかったからである。


「あれ、あの人はどこに」

「おかしいな、さっきまでいたはずなのにどこ行ったんだか」

「全くもう。自由すぎるんだからあの人は」


ウブメは健に対する怒りと呆れの両方の感情を見せながら


「困ったな迷子って年齢でもないし、でもまぁあの人ならそこらの泥水とか雑草を食べてでも生きていけそうだから行き倒れの心配はないでしょ」


鈴は健の事を心配したがウブメが急かすように言うので仕方なく健の行方の事は後回しにした。


二人は田んぼが広がる農道を歩いていた。すると大量の野菜が積んである荷車を茫然と見つめているお婆さんを見かけた。


「あの大丈夫ですか、お婆さん」

「おお、旅のお嬢さん方ちょうど良い所に。野菜が大量にあってどう運ぼうか困ってたとこなんだ」

「私たちが家まで運んであげますよ。ウブメ手伝って」

「任せて力仕事なら私の得意分野なんだから」 

「すまないねぇ」


鈴とウブメは荷車を押した。幸いな事にお婆さんの住む家はすぐ近くにあった。家の前にはお爺さんが薪を割っていた。 


「お婆さんや、この方たちは」

「通りすがりの旅の者だそうですよお爺さん」

「どうも私は桃園鈴と申します。こちらは相棒のウブメです」

「どうもこんにちは」


老夫婦に言われるがままに二人は家の中に入った。老夫婦は生まれたばかりの龍の子どもに興味津々だった。


「龍の子なんて珍しいもんだね」

「はあ、まだ生まれたばかりで名前も決めてないんですよ」

「その子を見ていると昔いた私たちの子どもを思い出すんだよ。名前は大五郎って言うんだけどね」 


老夫婦は少し悲しげな表情で語った。好奇心旺盛だったという大五郎少年は家の近くにある迷いの森の奥にあると言われる龍神様の眠る湖を探す為に森に行ったきり行方知れずになったという。まるで神隠しに遭ったかのように痕跡一つ無かったのである。それ以来老夫婦はいつか帰ってくるかもしれないという一抹の希望を持ちながら今日まで生活してきたのである。


鈴は迷っていた。いくら龍と呼ばれてもまだ生まれたばかりの子どもである。旅というのは楽しい事ばかりでは無い。これからは危険な場所や出来事が沢山あるだろう。いくらウブメという頼もしい相棒がいても生まれたばかりの子どもを危険に晒す事は酷な事である。それにこの優しそうな老夫婦の方がこの子の為にもなるのではないか。鈴はそう思った。


「あのもし宜しければこの子をしばらくの間預かってもらえませんか」

「おや良いのかい」

「ええ、別れるのは辛いですが旅をさせるにはこの子はまだ早すぎますしお願い出来ますか」

「構わないさ、この子は私たちが責任を持って育ててあげるよ」

「お願いします」


二人はしばらく休むと玄関の方に向かった。


「もう行くのかい、一晩ぐらいゆっくりすればいいのに」

「いえ、私たちは先を急ぎたいんです。今までありがとうございました。それとその子をよろしくお願いします」


二人は老夫婦と龍の子どもにお辞儀をしながら別れの言葉を言うと外に出た。


「さて迷いの森と呼ばれるらしいけどお手並み拝見ってとこかな」  


ウブメは余裕そうな表情を見せていた。鈴は沢山の白い紐を取り出すとその中の一本を木の幹にくくりつけた。


「あ、そっか目印」

「こうすれば何があってもすぐに戻れるし、どちらかが助けを呼ぶ事が出来るしね」


二人は勇み足で迷いの森に入っていった。道中で鈴は紐を木の幹に吊るしながらひたすら森を歩いていった。


それからしばらくして二人は焦っていた。何しろ霧が少しずつ濃くなってきて視界が狭まってくるのである。おまけに同じような景色ばかりが続くのである。二人が無事にこの迷いの森を抜けられるという保証はどこにも無かった。


「霧が濃くなってきたね。ねぇ鈴、手を繋ぎながら歩こうよ。このままじゃ遭難しそうだよ」


そうこうしているうちいつの間にか白い紐が垂れた木まで戻ってきていた。しかし同じ場所だったであろうこの場所はさっきまでとは様子が違っていた。老夫婦が住んでいたであろう家は何処を探しても無かったからである。


「これが迷いの森と呼ばれる所以なのかな」

「やっぱり遠慮せずにあの家に一晩泊めて貰えば良かったかな。ごめんウブメ、私がせっかちだったばっかりに」

「鈴は悪くないよ、でもどうすればこの厄介な森から脱出できるか見当もつかないな」


どれだけ考えてもこの森から脱出する方法が思いつかなかった。二人はただ途方に暮れていた。

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