第4話 人食い鬼と子どもたち
三人は深い森をようやく抜け険しい山道に戻ってきた。
「ここまで来たならもうひと踏ん張りかな」
三人は山道を歩こうとした瞬間、銃声が聴こえた。幸い的を大幅に外していた為、三人とも怪我は無かった。咄嗟に三人は近くの大きな岩の陰に隠れた。
「姿が見えないけど近くに居るのは確かのようね」
恐る恐る岩陰から顔を出すとまた銃声がした。銃弾は岩に当たった。
「しかしどうする。これじゃ先に進む事が出来ないぞ」
健と鈴はこの状況をどうすべきか考えこんだ。するとウブメは「私が行くよ」と自信満々に答えた。
「大丈夫、ウブメ。あなた相当疲れてるんじゃない」
「大丈夫だよ鈴。私の身体はこう見えても頑丈に出来ているんだ」
妖魔獣の身体は頑丈である。例えば人間であれば絶対安静の怪我であっても一日休めば完治する程、自己再生能力が凄まじいのである。
「分かった。でも無茶はしないでね」
「ああ、今晩の食事にならないようにな」
ウブメは無言で頷くと勇敢に岩陰から身体を出した。
「さて、もう一仕事しますか」
ウブメは自分の両頬を手で叩くと狙撃手のいる方へ歩みを進めた。
ウブメは目と耳で弾道を計算し銃弾を上手く躱した。そしてようやく木の陰に隠れている狙撃手を見つけ、相手目掛けて突進した。そして「もう大丈夫だよ」という声が聴こえたので二人はウブメの声が聴こえた方に走った。すると頭にねじり鉢巻をした無精ひげを蓄えた男の腹をウブメは足で抑えつけていた。男は苦しそうに踠いていた。
「あんたら私を殺しに来た役人だろう。いいさ、どうせ殺るなら一思いにやってくれ」
「何か勘違いしているようですが私達は旅の者です。決してあなたに危害を加えにきたわけじゃありません」
鈴はウブメに「足をどけなさい」と命令した。
「だって私達を殺そうとしたんだよ。そう安々と信用出来ないよ」
鈴は「大丈夫だから」と言うとウブメは渋々、足の力を弱めて足をどけた。
「いい。変な事をしたら承知しないからね」
男は自分の腹を抑えながら自分の身体を起こした。
「ありがとう、そしてすまない。君たちを私達の住処を荒らす役人だと早とちりしてしまった。もうすぐ日が暮れる。君たちは悪い人じゃなさそうだから特別に私の住処に案内しよう」
四人は男が住んでいるという住処に足を運んだ。そこには五人の幼い子ども達がいた。
「おかえり、おじさん。あれ知らない人達だね」
「何、お客さんだよ。今晩だけ特別に泊まっていくんだ」
男は指をさしながら三人の名前を答えた。
「可愛い鳥さんだぁ」
子どもたちはウブメを見るや身体を触ったりつねったりした。鈴は「皆、あんまりいじめないでね」と子どもたちに注意した。
皆、楽しそうに食事をしていた。森で採れた木の実と健が川で採ってきた魚を分けあいながら楽しいひとときを過ごした。そしてあっという間に時間が過ぎ去り、子ども達がみんな寝静まった後、この男は自分の身の上話を三人に話した。
「私の名前は重蔵。かつてこの山奥の炭鉱で事故があった事は分かるな。その生き残りだ。私は人がただの物と化す瞬間を私は喉の渇きと空腹でまともな理性を失っていた。仲間の切れた腕から滴り落ちる血と綺麗な色をした肉を見て何かが壊れたような感覚に陥った。その肉を食らったのだ。そして肉の美味しさに私はその虜となった。気付いた時には自分自身が恐ろしくなったよ。肉を食らっている時の私はまるで別の人格が憑依したかのようだった。私は気が付くと無我夢中で山の中を走っていた」
重蔵は悲しそうな表情で話していた。
「そんな時だ。ふと赤ん坊の鳴き声がしたので声のした方へ行った。すると山奥に赤ん坊が捨てられていたんだ。私は不憫に思いその子を抱いた。私はその瞬間まだ人間としての良心が残っていると思ったんだ」
「私はもう人間社会に戻る事は出来ないと思っている。それにこんな場所でも長く住むと愛着が湧くもんだ」
これが人間に怪物として倒される事をおそれた人食い鬼と呼ばれた男の真実の姿であった。しかし重蔵と名乗るこの男にとっても子どもたちにとっても誰も近寄らない山というのは好都合であったのかもしれない。
かなりの時間が経ち、外は完全なる真っ暗闇。草木も眠る丑三つ時、皆はいつの間にかぐっすりと眠っていた。そんな時異音を感知したウブメが目を覚ました。
「ねぇ鈴起きて、あの卵が動いているよ」
卵の異変に気付いたウブメは小さな声で眠っていた二人に声をかけた。二人が目を覚ますと卵は激しくにい動きを見せていた。すると卵が少しずつ割れてきた。そして卵が完全に割れると卵の中から何かが勢いよく姿を現した。生まれたのは龍の子どもだった。緑色の身体と頭に生えた二本の角と立派な牙と尻尾を持ちながらも愛嬌のある顔立ちをしていた。
龍の子どもは辺りを見回しながらよちよちとぎこちない動きで三人の方に歩み寄って来た。鈴とウブメは歩み寄って来た龍の子どもを見るとまるで息を合わせたかのように「かわいい」と言った。
「しかし龍というのは実在したんだな。もうとっくの昔に絶滅したと聞いた事はあるが」
「あの洞窟の壁に書かれていた不屈で勇敢な戦士ってこの子の事なのかな」
「もう少し詳しく調べないと分からないけど」
三人は眠い目を擦りながら生まれたばかりの龍の子どもの事について話しあった。
いつの間にか夜が明けていた。三人は自分の持ち物を確認すると外に出た。
「もう行ってしまうのか、久しぶりに人間と話が出来たもんだから寂しくなるな。ま、良い旅を」
「またね、お兄さん、お姉さん、鳥さん」
重蔵とその子どもたちは手を振りながら旅人たちを見送った。三人と生まれたばかりの龍の子どもは未知の世界を見る為に旅立った。




