第2話 謎の青年
「ふぅ何事もなく無事に出られたね」
二人は満足げな笑顔でお互いを見つめた。さっきまで二人がいた洞窟は何事も無かったかのように変わらぬ佇まいを見せていた。二人は下山するために洞窟を後にした。鈴は卵を抱きかかえながら割れないよう慎重に歩いた。
しばらく二人は黙々と山道を歩いていた。早く下山したいという気持ちから二人とも早歩きで歩き続けた。すると突然ウブメがその沈黙を破るかのように口を開いた。
「待って鈴」
ウブメは殺気のような気配を感じ、鈴の前を追い越すように飛び出した。すると狼の群れがグルルという鳴き声を上げながら草むらから現れた。突然現れた刺客に二人が戸惑っているとあっという間に逃げ場が無くなっていた。ウブメは口から火を吹き相手を威嚇するが狼達も負けじと威嚇の雄叫びを上げた。
すると当然、「トォッ」という声と共に木刀を持った謎の青年が狼に向かって飛び蹴りをした。狼たちは突然の出来事に怯むと青年は「こっちだ」と森の方を指さし走った。二人は後を追うように走った。ひたすら走り続けるといつの間にか薄暗い森の真ん中に三人は立っていた。
「お嬢さん方、怪我はないか」
青年が二人に声を掛けた。彼が持っていた木刀には恐らく川で釣ったであろう沢山の魚が吊り下げられていた。彼は鈴と同い年ぐらいで目つきは少々悪いが少年のあどけなさが残る顔立ちの青年であった。突然現れたこの青年にウブメは疑念の感情を抱いた。
「アンタは誰なの。ここは腕利きの猟師ですら滅多に近づかないような山なのに人がいるなんておかしいよ。何処からどう見ても怪しいよ」
「それはお互い様だろう」
ウブメが苛立ちの表情を見せながら青年に話しかけるとすかさず鈴が丁寧な口調で青年の素性について尋ねた。
「ハァ、私達は一緒に旅をしている者です。この龍ヶ岳には今持ってる卵を持ち帰る為にやって来ました。あなたは何の目的でこの山に来たのですか。それとももしかしてこの山に住んでいるんですか」
「まさか、お前さんたちと同じ旅の者さ。まぁ自由気ままな一匹狼の流れ者ってとこかな」
「何か嫌に気障で信用ならないね、この男が例の人食い男なんじゃないの」
「コラ止めなさいウブメ」
ウブメが毒づくような事を言うと鈴はそれを諌めるように注意した。
「ねぇ鈴、早くしないと日が暮れちゃうよ」
ウブメは彼女の腕を強く引っ張った。この山は夜になると血に飢えた猛獣達が跋扈する危険地帯になるのだ。鈴は「とりあえずお名前だけでも」と彼に名前を聞いた。青年は考え事をするかのような仕草をしたかと思うとすぐに口を開いた。
「俺の名前は健、立川健だ」
「健さんですね。私たちは今、この山を降りようとしていた所なんです。もしよろしければ私たちと一緒に同行しませんか」
「ちょっと鈴」
ウブメは強い力で鈴の服を引っ張った。素性がある程度分かってもこの青年をどうしても信用出来なかったからである。
「もう、誰でもすぐ信用して仲良くなろうとするんだから」
「でもこの山の事を分かっているだろうし、それに一人でも多くいた方が心強いじゃない」
「私じゃ用心棒として頼りにならないって事なの」
「そう言う意味じゃないけど、でも」
鈴は健の方を見た。そしてウブメの目を見ながら肩を叩いた。
「とりあえず、あの男と一緒に行動しましょう。それでもし、何か危険な事が起こったらその時はよろしくね」
ウブメは溜息をつきながら首を縦に振った。
「決まりね」
鈴はウブメを説得すると健に話しかけた。
「健さん。それじゃあ一緒に同行しましょう」
「ああ。それとそんなに堅苦しくなくても良い、健と呼び捨てにしても良いからお互い気楽にいこう」
三人はこの険しい山を降りるという同じ目的の為に一緒に行動した。




