第10話 大鷲一家と鮫島一家
「やれやれ金が入った巾着を落とすなんて今日はついてねぇや」
一方その頃、別行動をとっていた立川健は頭の上にまるで被り物のように龍の子どもの大五郎を乗せながら途方に暮れていた。宿場町から少し離れた一本道、後ろから男の声が聴こえてきた。
「お〜いそこの旅人の兄ちゃん待ってくれ」
健が後ろを振り向くと「狸」が巾着袋を片手に持ちながら走ってきた。その狸の背丈は健より少し小柄な体格で気だるげな目と狸にしてはいかにも紳士的な不思議な風貌をしていた。
「これ兄ちゃんのだろ。大事な物はちゃんと自分で管理しないといかんぞ」
「こりゃすまない、金が無いもんだからどうしようかと思ってたんだ」
健は不思議そうな表情でその狸の顔を見ていた。
「兄ちゃん、妖魔獣とやらを見るのが初めてって顔だな、私の名前は助八。色んな所の美味い物を食べるために旅をしている者だ」
「俺の名前は立川健。特に目的も無くフラフラと旅をしている浪人ってところだ。俺の頭の上にいるのは大五郎。世にも珍しい龍の妖魔獣さ」
「ハハァ、確かにこれは珍しいですな。龍なんぞとっくの昔にいなくなっていたとばかり思ってたけどね」
「あと、やかましい鳥の妖魔獣も知ってるぞ」
二人が談笑していると「待ちやがれこの野郎」という怒鳴り声が聴こえてきた。いかにも気弱そうな男が血気盛んな短刀を持った三人組に追いかけ回されていた。そして道の横にある大きな木の前まで追い詰めた。
「テメェ鮫島んとこの野郎だな、テメェんとこの親分が勝手に決めた法のせいでこっちは商売上がったりなんだよ。鮫島の誰でも痛めつけなきゃこの怒りは収まんねぇ。テメェには死んでもらうぜ」
「おい、今時そんな卑怯なやり方は流行ないぞ」
「だ、誰だテメェは」
「通りすがりの正義の味方だ」
「何を訳の分からねぇ事を抜かしやがる。テメェから殺ってやる」
健は相手を挑発するような事を言うと表情を一切変えず冷静に木刀で相手の急所を攻撃した。あっという間に三人はうめき声をあげながら倒れこみ気絶した。健は木の前で震えながら立っていた男に話しかけた。
「安心しろ気絶しているだけだ。俺は殺し屋でも処刑人でもないからな」
「あ、ありがとうございます。この御恩は一生忘れません」
「勘違いするな、助けたわけじゃない。俺はああいう連中が気に食わないから突っかかったまでだ」
「よぉ兄ちゃん、なかなか良い腕をしているようだな」
「いや、単に運が良かっただけさ」
「ところでお前さん何で生命を狙われてたんだ。こんな道のど真ん中で生命のやり取りとはどう考えも穏やかじゃないな」
「はぁ私の名前は勘兵衛、鮫島一家の子分の者です。絹の町の宿屋で人に会う約束をしていたのですが道中で運悪く大鷲の連中に見つかって追われていたというわけなのであります」
立川健と助八は助けてもらったお礼にと勘兵衛から近くの宿場町、絹の町とはどういった町なのかを教えてもらった。
絹の町とはその名の通り絹取引きで成り立っている宿場町である。今から二十年前ほど前に町の治安や全ての産業を大鷲一家が仕切っていた、いや独占していたというのが正しいのかもしれない。しかし一部が富を独占する組織の体面と跡目争いにより不満を持った一部の者たちが鮫島一家と名乗り独立し抗争が勃発。抗争といってもお互いがただ睨みあっているだけで話し合いの目途も無くただ徒らに時が過ぎてゆき今に至るという訳なのであった。町の住民たちも張り詰めた緊張感は感じつつもなるべく見て見ぬふりをしていた。これといって皆の生活が困窮しているわけでもなく、町の治安もある程度保証されている状況に不満を感じていなかったからである。住民にとって唯一の気がかりは町の外れに住んでいる狼の妖魔獣たちの群れのみであった。
「とにかくその宿に行こう。お前さんも人に会うという約束があるし私もちょうど泊まる宿を探していたところだからね」
「俺も一緒に行くか。こんな殺風景な道を散歩しても面白くないしな」
三人は一致団結するように首を縦に振ると目的地である絹の町に歩みを進めた。




