7 二人のお兄ちゃんとお城へ
急いでセドリック兄ちゃんのところに転移すると、兄ちゃんが寮の部屋の机に突っ伏して泣いていた。
「どうしたの!?一体何があったの!?」
「ニコラ⋯⋯?ううっ⋯⋯休み時間に寮に忘れ物を取りに来たら、叔父さんから手紙が届いていて⋯⋯僕の婚約者を決めたって⋯⋯」
セドリック兄ちゃんの足元には白い便箋が落ちていた。それをルフェル兄ちゃんが拾い上げて読み上げる。
「グランデ侯爵家当主の次女をセドリックの嫁に迎えると書いてあるな。⋯⋯あの家の当主は確か七十を過ぎていた筈だが。令嬢の年齢は⋯⋯手紙によると三十八歳か。確か昨年あたりに当主の次女が夫の愛人親子相手に毒殺未遂事件を起こし、離縁されて戻ってきたと噂になっていた。なるほどこれは、確かに危機が迫っているな」
「セドリック兄ちゃんはまだ十二歳だよ!?」
「うぅ⋯⋯僕を育てるのにお金がかかったせいでグランデ侯爵家の持参金が絶対に必要だからって、叔父さんが⋯⋯ところでニコラ。君の隣にいるその方は⋯⋯?」
机から顔を上げたセドリック兄ちゃんが、僕の隣に立っていたルフェル兄ちゃんを見て固まってしまった。
そう言えば、今日が二人の初対面だ。いくら弟の僕が一緒とはいえ知らない人を転移魔法でいきなり連れて来たせいで、セドリック兄ちゃんをびっくりさせちゃったな。
「セドリック兄ちゃん、この人が前に話してた、僕と冒険者パーティーを組んでくれているルフェル兄ちゃんだよ」
「そ、そうか。ハイランクの冒険者だと聞いていたから、もっと年上の方を想像していたよ。⋯⋯と言うか、入学式で新入生代表のスピーチをされていた、ヴェンティ公爵家のルフェーリオ様にものすごく似ていらっしゃる気がするのだけど⋯⋯」
「ああ。まあ本人だからな」
「え?ルフェル兄ちゃん、新入生ってことはセドリック兄ちゃんと同じ十二歳だったの!?僕はてっきり十五、六歳くらいだと思ってたよ」
僕が驚くとルフェル兄ちゃんはちょっとだけムスっとした。
「俺はそんなに老けてない」
十五、六歳は若いと思うけどな。
「でもルフェル兄ちゃん、昼間は僕と毎日のように一緒にいたよね?学校は⋯⋯?」
ルフェル兄ちゃんはふいっと視線を逸らして「たまには行っていた」と返事した。サボっていたんだな。
昼間は僕と冒険者の仕事等をしているか、そうじゃない日は拠点でまったりするかポッポロのお世話をして過ごしていたルフェル兄ちゃんは、セドリック兄ちゃんの学園が終わる時間になるといつも『そろそろ帰る』と言って帰っていた。
「そんなことより明日、俺とニコラは王城に呼び出されているのだが⋯⋯ニコラの実の兄の、セドリックだったか?ちょうどいいから、お前も弟と共に王城に来い。お前の婚約話は王城で白紙になるだろうからな。学園に外出届けを出しておけよ」
「え⋯?は、はい」
ルフェル兄ちゃんは学園の話をされたくないのか、強引に話を変えた。明日、僕がルフェル兄ちゃんと王城に呼び出されていたことは初耳だった。でもそれがマイペースなルフェル兄ちゃんなのだ。
◇◇◇◇
「ニコラは俺が実は貴族だったと知っても、ちっとも驚かなかったな」
「うん。なんとなくそうかな?って思ってたからね」
ルフェル兄ちゃんは僕のお父さんたちの事件を調べてくれると約束してすぐ、執事さんみたいな格好をしたシュッとした若いお兄さんと、誰が見ても騎士だと分かる格好の逞しいお兄さんを僕に紹介してくれていた。
『こいつらは俺の侍従と護え⋯⋯じゃなくて、俺が信頼している子分たちだ。横領事件の捜査ならこの二人に任せておけば間違いない』
侍従さんと護衛の騎士さん。ルフェル兄ちゃんが貴族だと分かったのはその時だ。
『坊ちゃ⋯⋯ではなく、ルフェル様。そろそろ家にお戻りになりませんか?奥様が心配しておられますよ』
『俺はまだ帰らないぞ。常宿の場所を母上にはくれぐれも教えるなよ』
って言う、侍従さんとルフェル兄ちゃんのやり取りもあったから、ルフェル兄ちゃんが家出中なことも知っていた。
「俺もセドリックと同じで親に婚約者を決められそうになり家を出たんだ。それで身分を隠して冒険者をしていた。学園に行けば婚約者志望の連中に一日中付きまとわれるしで辟易してしまってな。そっちも少しばかり休んでいた」
「そっか。ルフェル兄ちゃんも大変だったんだね」
「まあな」
僕たちは王城に来ている。今日は国中のほとんどの貴族の当主の人たちが招待されている、大きなパーティーの日だそうだ。
「ルフェル兄ちゃん⋯⋯って、ここで呼んだらダメだよね?あっ、違った。ダメですよね?ルフェーリオさま」
「やめろやめろ。普段どおりでいい。なにしろ今日のパーティーの主賓は俺とニコラだからな。言葉遣いくらいで誰も文句など言わないだろう」
「ん?それってどういうこと?」
「俺とニコラでテイムしたポッポロは、大昔から生きているエンシェントドラゴンだ。二千年に一度目覚めて百年ほど暴れるとまた眠るのを繰り返していた厄介なやつで、ポッポロが暴れると国が二つ三つめちゃくちゃに荒らされていたんだ、前回まではな」
「え?あの甘えん坊のポッポロが?」
「嘘じゃないぞ。歴史の教科書にも載せられているからな。で、今年がポッポロが目覚める二千年に一度の年だったんだが、今回は俺たち二人で飼いならしているから暴れてないだろ。それを冒険者ギルドに報告したところ国王に報告が行って、俺達は国を救った英雄という扱いになった。派手にパーティーを開いて勲章をやるから式典には絶対に来いと国王に釘を差されてしまってな。面倒だが、さすがの俺も断われなかった」
「そうなんだ。なんだかすごいことになっちゃったね」
「ニコラには黙っていたが、ポッポロには俺たちがいつか年寄りになりいなくなった後も、今回の百年間は大人しくしておくよう言い含めてある。だが次の百年はどうだろうな」
「なるべくずっと暴れないでいてくれるように、おやつで機嫌を取りながらお願いするしかないね」
「そうだな」
今日は朝早くからセドリック兄ちゃんと一緒にヴェンティ公爵家に連れて行かれて何人ものメイドさんたちの手で服や髪型をお洒落にされていたのは、式典のためだったのか。
僕の服はルフェル兄ちゃんとお揃いの、七五三の日に着るような立派なスーツだ。前世ではお母さんの気まぐれで、僕もお兄ちゃんも一度だけスーツを着て写真を撮った記憶がある。
セドリック兄ちゃんのスーツは僕たちとはお揃いじゃなかったけど、優しげなイケメンのセドリック兄ちゃんにぴったりのお洒落なデザインですごく似合っていた。もちろんルフェル兄ちゃんも、いつもよりカッコよさが増し増しになっている。
パーティーが始まると僕とルフェル兄ちゃんの名前が呼ばれて、王座の前に立っていた王様の隣に並んだ。
その時「ギャーー!!」という、野太い男の人の悲鳴がホールにこだました。ホールを見渡すと、叫び声をあげたていたのは叔父さんだった。どこかで聞いたことある声だな?と思ったら⋯⋯
「へ、陛下!そやつはっ⋯私の甥のニコラは英雄などではございませんぞ!生者に化けたレイスもしくはアンデッドでございます!今すぐに討伐なさるべきです!」
そう言えば叔父さんは、僕が幽霊になったと思っているんだった。




