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異世界のお兄ちゃんと冒険者したりコタツでのんびりする生活  作者: 紫蘇ごま油


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1 お兄ちゃんと転生する

「ニコラ。今日は目ぼしい依頼がないから拠点に帰ろう」


冒険者ギルドに貼り出されている依頼書にひととおり目を通したルフェル兄ちゃんが、こっちを振り返って僕にそう告げた。


銀髪のショートヘアに青い目のルフェル兄ちゃんは、前世でいうと中学生か高校生くらい?芸能人みたいにカッコよくて『白銀のルフェル』と呼ばれているランクAの冒険者だ。


八歳の新人冒険者の僕は、そんな凄腕のルフェル兄ちゃんと二人でパーティーを組んでいる。『兄ちゃん』と呼んでいるけど血はつながってなくて、僕たちはそれぞれの都合で兄弟になったばかりだ。




冒険者ギルドから転移魔法で拠点に帰ると、兄ちゃんは玄関でブーツを脱いで全身に浄化の魔法をかけ、狭い部屋の大部分を占領しているコタツに入る。


前世の日本のアパート風の、小さなキッチンとコタツとテレビがあるこのワンルームが僕たちパーティーの拠点だ。


僕が空間魔法で作ったもっと広い部屋もあるし、冒険者の報酬でこの世界の広くて豪華な家に移ったりもできるけど、ルフェル兄ちゃんがコタツでミチミチのこの部屋を気に入っているから、拠点はずっとこのままなんだろうな。



◇◇◇◇



ルフェル兄ちゃんと兄弟になるずっと前から、僕には血のつながった実のお兄ちゃんがいる。どれくらいずっと前からかと言うと前世からだ。


自分とお兄ちゃんの名前は何故だか忘れてしまったけど、それ以外の前世の記憶はしっかりと覚えている。


日本のワンルームのアパートで、僕とお兄ちゃんはいつも二人きりだった。


僕が覚えている一番古い記憶は、四歳の僕のお世話を、八歳のお兄ちゃんがしていたことだ。


お母さんは子どもの面倒を見るより男の人と一緒にいるのが好きな人で、生活に必要なお金を封筒に入れてお兄ちゃんに渡しにくる時以外はアパートに寄りつかないからお兄ちゃんが僕の面倒を見るしかなかったことを、少し大きくなってから理解した。お父さんは誰だか知らない。


僕とお兄ちゃんはいつも二人で手をつないで、スーパーやコンビニにご飯を買いに行っていた。ティッシュやトイレットペーパーやシャンプーなんかは、スーパーよりも遠い大きな薬局に買いに行った。


それを見ていた近所の人が通報したのか、児童相談所の職員さんが何度かアパートを訪ねてきたこともある。だけどそういう時に限ってお母さんが偶然アパートに帰ってくるものだから、僕とお兄ちゃんは変わらず二人きりの生活のままだった。


お兄ちゃんはかっこよくて優しかった。買い物帰りの重い袋は自分で持って、僕には軽い物だけを持たせてくれた。四歳下の弟の面倒を押し付けられているのに、僕につらく当たったことなんか一度もない。


ただお兄ちゃんはスーパーの帰り道に、よく遠くを眺めていることがあった。お兄ちゃんの視線の先には公園があって、ベンチにはお兄ちゃんと同じ年頃の子どもたちが集まってゲームをしていた。


(おにいちゃんは、おともだちとあそびたいんだ)


お兄ちゃんが僕のお世話をしているせいで友達と遊べない事実に気づいてから、僕はお兄ちゃんの負担を少しでも減らすために、せめて家の事をもっとできるようになりたいと思うようになった。


お母さんは捨てるのが面倒なのか、スマートフォンやタブレットを買い替えると古いものをアパートに置いていった。充電器も壊れかけのが何個かあった。


古いタブレットの中でもなんとか動くものをお兄ちゃんがアパートのワイファイっていうやつにつないでくれたおかげで、僕たちはアパートの中ならインターネットが使えるようになったんだ。


インターネットで家事のやり方を検索して覚えた僕は、六歳になる頃には簡単な料理なら作り方を見なくても作れるようになったし、掃除も学校から帰ると毎日欠かさずしていたから、アパートはピカピカだった。


お兄ちゃんは『◯◯は小さいのにすごいな』と喜んでくれて、僕も嬉しかったのを覚えている。これからもっと頑張ろうと決意した矢先。


お兄ちゃんと夕方遅くにスーパーに行った帰り道だった。真冬の田舎の町だから、田んぼの中に外灯と家が点々とあるだけで、あたりはほとんど真っ暗で。 


「お前ら、あの女の息子だろ」 


人気のない路地で知らない男の人に声を掛けられた。男の人が僕たちを血走った目で睨みながらこっちに走ってきたから、お兄ちゃんが「逃げるぞ!」と叫んだ瞬間に僕たちは走り出した。だけど少し逃げたところで足を滑らせて、僕たちは深い用水路に二人で落ちてしまったんだ。




男の人はお母さんと付き合っていた人で、お母さんに振られた腹いせに僕たちを誘拐しようとしていたのだと女神さまが教えてくれた。


「貴方たちは冷たい水の中で命を落とす間際まで、お互いを思い悔やんでいました。兄は『僕が手を繋いだまま足を滑らせたせいで弟まで一緒に落ちてしまった』と己を責め、弟の貴方は『僕を置いて逃げたら足が速いお兄ちゃんは助かったかもしれないのに僕のせいで』とね。このままではあまりにも不憫で安眠できません。ですから私は、貴方がたを別の世界の兄弟として転生させることにいたしました」


白い空間には僕だけしかいなくて、女神さまの優しい声だけが頭の中に直接届く感じだった。


「貴方の兄は幼い頃から家族の愛を得られなかったばかりか、六歳になると二歳の弟の面倒を母親から丸投げにされ、最後に自らの手で育てた弟を冷たい水路へと道連れにしてしまったことで、元々擦り減っていた魂が深く傷つき粉々になる寸前なのです。転生させるにはこれまでの記憶を全て消し去り、私が癒しを与えて魂を回復させなければなりません」


「お兄ちゃんを、お兄ちゃんをよろしくお願いします!」


「それはどんとお任せなさい。兄の記憶は消しますが、弟の貴方には前世の記憶を残しておきます。赤子のうちは封印し、いずれ危機が訪れた時に記憶が蘇るようにしておきますから頑張るのですよ」


「えっ。危機って、どういうことですか?」


「転生先は裕福な貴族家で両親は揃って人格者ですが、親族に巣食うろくでなしの罠に嵌められ罪人に落とされてしまいます。それにより、貴方たち兄弟にも困難が訪れるでしょう」


「そ、そんなっ。他の生まれ変わり先はないんですか?」


「あいにくと、兄弟で転生できる枠はそこしか空きがないのです。ですが安心なさい。例え貴方たち兄弟が身一つで追い出されようと空間魔法で衣食住には困らないようにしておきますし、その他にもいわゆるチートと呼ばれる魔力量と魔法の数々を、これでもかと言うほど授けておきましょう。あちらは魔法が使える世界ですが多くの者が精々一般的な生活魔法を使いこなせる程度ですから、俺TUEEEし放題ですよ」  


「えっと、女神さま⋯?」


「今度こそ兄弟揃って幸せになるのですよ」



次に目を覚ました時には、僕は金髪に緑色の目をした、ニコラという名前の四歳児に生まれ変わっていた。




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