再び流れる滝
その朝、王都を包んでいた乾きがふとゆるんだ。
夜明け前の空は曇りに沈み、遠くの塔の先から淡い霧が降りてくる。
それは、長く閉じていた記憶が、ゆっくりと息を吹き返すような気配だった。
城門の外れ――かつて白露の段と呼ばれた滝の源泉。
長らくひび割れた岩壁の隙間から、ひとしずくの水が生まれた。
それはためらうように、震えるように、岩を伝って落ち、細い糸のような流れとなる。
次の瞬間、空気が震えた。
乾いた土が、初めて自らを潤すように微かな音を立てる。
滝は――再び流れ出したのだ。
けれど、その場に歓声を上げる者はいなかった。
誰もが、ただ立ち尽くしたまま、その音に耳を傾ける。
あの断罪の時代を知る者は息を呑み、若者たちは理由もわからぬまま、
その音の中に何か懐かしいものを感じていた。
滝の音はもはや裁きの響きではなかった。
それは祈りでもなく、赦しでもなく――
ただ、生きていた。
誰のためでもない、誰のものでもない、
ひとつの生の音として、世界に溶けていた。
石畳の上で、ひとりの老人が小さく呟いた。
「滝が……笑っておる。」
その傍らで、手を引かれた少女が顔を上げる。
霧の光が彼女の瞳に反射し、まるで滝の欠片のように輝いた。
「いいえ、おじいさま。きっと、私たちが笑っているのです。」
老人はしばらくその言葉を噛みしめるように黙っていた。
やがて、微かに頷き、目を細める。
霧の中で滝の音が強まり、街の隅々まで染み込んでいく。
その音は、言葉を持たぬ詩。
誰もが心の奥でそれを聞きながら、
知らず知らず、笑みを浮かべていた。
――王都に、ようやく水の息が戻ってきたのだった。




