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滝の王国の悪役令嬢 ――ある修行僧の再来  作者: 南蛇井


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35/41

自己と滝の合一

アメリアは、ゆっくりと立ち上がった。

膝に触れていた岩の感触が遠のき、

代わりに、足元から微かな風が吹き抜けていく。


その風は、洞窟の奥深く――

地の底から立ちのぼるように現れた。

触れても濡れぬ風。

けれど、確かに“水の気配”を運んでいる。


空気の中に、透明な流れが生まれる。

液体ではない。

音でも、光でもない。

それは、感覚としての水――

聴く者の心の奥でしか流れぬ、水のかたち。


アメリアの髪が、その流れに揺れた。

白い衣の裾がほどけ、輪郭が少しずつ曖昧になっていく。

彼女の存在が、滝の記憶と同化しはじめていた。


アメリア:「私は、まだ記している。

 神の声を、真実の名に戻すために。」


その声は洞窟の石壁に触れ、

やがて岩の粒子ひとつひとつに染み込むように広がっていく。

その瞬間――

洞窟全体が、ふっと呼吸した。


奥の岩盤が低く唸り、

地の底を走る見えぬ水脈が、一瞬だけ脈動する。

乾いた大地の奥で、なにかが確かに“目を覚ました”のだ。


けれど、それは流れ出すことはなかった。

水音は生まれず、地上には何も変化がない。

ただ、洞窟の空気がわずかに湿り、

永い沈黙の中で、ひとつの祈りの震えだけが残った。


アメリアは瞼を閉じる。

彼女の影は、洞窟の壁と溶け合い、

やがて――“滝のない滝”の一部となった。


その瞬間、

世界のどこかで、

目に見えぬ一滴が静かに落ちたような気がした。

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