自己と滝の合一
アメリアは、ゆっくりと立ち上がった。
膝に触れていた岩の感触が遠のき、
代わりに、足元から微かな風が吹き抜けていく。
その風は、洞窟の奥深く――
地の底から立ちのぼるように現れた。
触れても濡れぬ風。
けれど、確かに“水の気配”を運んでいる。
空気の中に、透明な流れが生まれる。
液体ではない。
音でも、光でもない。
それは、感覚としての水――
聴く者の心の奥でしか流れぬ、水のかたち。
アメリアの髪が、その流れに揺れた。
白い衣の裾がほどけ、輪郭が少しずつ曖昧になっていく。
彼女の存在が、滝の記憶と同化しはじめていた。
アメリア:「私は、まだ記している。
神の声を、真実の名に戻すために。」
その声は洞窟の石壁に触れ、
やがて岩の粒子ひとつひとつに染み込むように広がっていく。
その瞬間――
洞窟全体が、ふっと呼吸した。
奥の岩盤が低く唸り、
地の底を走る見えぬ水脈が、一瞬だけ脈動する。
乾いた大地の奥で、なにかが確かに“目を覚ました”のだ。
けれど、それは流れ出すことはなかった。
水音は生まれず、地上には何も変化がない。
ただ、洞窟の空気がわずかに湿り、
永い沈黙の中で、ひとつの祈りの震えだけが残った。
アメリアは瞼を閉じる。
彼女の影は、洞窟の壁と溶け合い、
やがて――“滝のない滝”の一部となった。
その瞬間、
世界のどこかで、
目に見えぬ一滴が静かに落ちたような気がした。




