表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
滝の王国の悪役令嬢 ――ある修行僧の再来  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/41

幻視 ――水の記録

洞窟の奥に沈む静寂が、ふいに震えた。

空気が波打つように揺れ、壁面の岩肌が微かに光を帯びる。


アメリアがゆっくりと目を開けると、

そこには――かつて滝があった日の光景が、光の水となって甦っていた。


岩壁を伝う銀色の線がひとつ、またひとつと増え、

やがて洞窟全体が透き通る滝霧のように満たされていく。

それは記憶であり、祈りであり、世界の呼吸そのものだった。


霧の中から、人の姿が現れる。


リュカ――湿度の書を抱き、哲学的な微笑を浮かべる。

セシル――筆を握り、詩の断片を宙に描こうとしている。

クレア――濡れた制服の裾を整え、真っ直ぐにアメリアを見つめる。

レオン――滝の下で目を閉じ、赦しを祈る姿のまま。


彼らは言葉を発さず、ただ微笑んだ。

霧のような眼差しの中で、

アメリアの胸に淡い光がともる。


しかし、次の瞬間――

その像たちは、まるで波に溶けるように形を失った。

人の形は流れに戻り、

名前も、顔も、すべてがひとつの巨大な水流の幻影となって洞窟を満たす。


声:「すべては、流れであり、名である。

 名は滝に刻まれ、滝は名を忘れる。」


その声は、もはや内にも外にもない。

世界そのものが語っているようだった。


アメリアは立ち尽くし、

その幻の滝を瞳に映す。


そこには、落ちることも止まることもない流れがあった。

形を持たず、だが確かに脈打つ“永遠の水”。


それは外の滝ではない。

アメリア自身の意識――

彼女の思考、記憶、祈り、そのすべてがいま、

静かに流れへと変わりつつあった。


彼女は息を吸い、

その流れの音を、胸の奥で聴いた。


アメリア(囁く):「……これが、私の滝。」


光が滲み、空気が透きとおり、

洞窟のすべてが“水の記録”となって震えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ