内声との対話 ――「滝はお前であった」
アメリアは洞窟の奥――わずかに光る水脈の前に腰を下ろした。
岩の冷たさが、衣の布を通して静かに身体へ染みていく。
彼女は目を閉じ、両の手を膝に置いた。
息を吸う。
息を吐く。
音はない。
風もない。
ただ、沈黙が生き物のように洞窟を満たしていた。
……だが、その沈黙の奥から、やがてひとつの声が立ち上がる。
声:「お前は滝を求めたが、滝はお前であった。」
アメリアの睫毛が、わずかに震える。
それでも彼女は目を開けない。
微笑を浮かべたまま、その声を受け止める。
アメリア(静かに):「ええ……知っています。」
その声は、誰かの声ではなかった。
男でも女でもない。
遠くの山のざわめきのようであり、
また、胸の奥の記憶が音になったようでもあった。
「滝の声」と呼ぶことはできない。
それは、水の心であり、同時にアメリア自身の最深の思考の響きだった。
やがて、彼女の心の中に光の断片が流れ込むように、
過去の景がひとつずつ浮かび上がる。
――断罪の壇上、揺れる王冠と群衆の視線。
――滝庵での静かな微笑、レオン王子の濡れた肩。
――クレアの忠告、「言葉を減らせば湿度が保てます」。
――詩人たちの歌、濡れた筆と流れる文字。
――そして、滝の下で震えていた若き日の自分。
それらはすべてひとつの流れとなり、
時を超えて、アメリアの胸の中心へと還ってくる。
まるで、世界のすべてが“滝”という一本の糸で繋がっていたかのようだった。
アメリア(囁くように):「滝は……落ちることを恐れぬ心。
そして、消えることを恐れぬ記憶。」
洞窟の空気がふっと揺らぎ、
銀の水脈が微かに脈打つ。
その瞬間、
アメリアの頬を、一筋の“透明な雫”が伝って落ちた。
それは涙なのか、それとも――
地の底で息づく最初の一滴の水だったのかもしれない。




