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滝の王国の悪役令嬢 ――ある修行僧の再来  作者: 南蛇井


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33/41

内声との対話 ――「滝はお前であった」

アメリアは洞窟の奥――わずかに光る水脈の前に腰を下ろした。

岩の冷たさが、衣の布を通して静かに身体へ染みていく。

彼女は目を閉じ、両の手を膝に置いた。


息を吸う。

息を吐く。


音はない。

風もない。

ただ、沈黙が生き物のように洞窟を満たしていた。


……だが、その沈黙の奥から、やがてひとつの声が立ち上がる。


声:「お前は滝を求めたが、滝はお前であった。」


アメリアの睫毛が、わずかに震える。

それでも彼女は目を開けない。

微笑を浮かべたまま、その声を受け止める。


アメリア(静かに):「ええ……知っています。」


その声は、誰かの声ではなかった。

男でも女でもない。

遠くの山のざわめきのようであり、

また、胸の奥の記憶が音になったようでもあった。


「滝の声」と呼ぶことはできない。

それは、水の心であり、同時にアメリア自身の最深の思考の響きだった。


やがて、彼女の心の中に光の断片が流れ込むように、

過去の景がひとつずつ浮かび上がる。


――断罪の壇上、揺れる王冠と群衆の視線。

――滝庵での静かな微笑、レオン王子の濡れた肩。

――クレアの忠告、「言葉を減らせば湿度が保てます」。

――詩人たちの歌、濡れた筆と流れる文字。

――そして、滝の下で震えていた若き日の自分。


それらはすべてひとつの流れとなり、

時を超えて、アメリアの胸の中心へと還ってくる。


まるで、世界のすべてが“滝”という一本の糸で繋がっていたかのようだった。


アメリア(囁くように):「滝は……落ちることを恐れぬ心。

 そして、消えることを恐れぬ記憶。」


洞窟の空気がふっと揺らぎ、

銀の水脈が微かに脈打つ。


その瞬間、

アメリアの頬を、一筋の“透明な雫”が伝って落ちた。

それは涙なのか、それとも――

地の底で息づく最初の一滴の水だったのかもしれない。

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