水の王国 ――終末的静寂
国は、すべてを湿らせながら、ゆっくりと沈黙に沈んでいった。
街路は雨に溶け、屋根の上には常に霧が降り、
人々の声は短く、やがて言葉よりも音に近づいていった。
市場では会話が要らなくなった。
代わりに、水の滴り方で値段を示し、
笑い声は、まるで滝の微かな反響のように響いた。
子どもたちは文字を習わず、水の動きを読むようになり、
詩人たちは紙を捨て、瓶の中の音で詩を奏でた。
街全体が、まるでひとつの滝のように呼吸する世界となった。
その頃、クレアは最後の報告書を記していた。
机の上はうっすらと水に覆われ、紙は柔らかく波打っている。
彼女は丁寧にペンを動かしたが、
書かれた文字は、瞬く間にインクとともに滲み、形を失った。
それでも彼女は微笑んだ。
「……お嬢様、あなたの滝は……国家になりましたわ。」
外の空気は重く、湿っていて、
風が吹くたびに庁舎の窓辺から雫が落ちた。
その音が、まるで祈りのように静かに続く。
クレアが顔を上げると、
遠く、雲の切れ間に一本の白い線が見えた。
それはかつてアメリアが立っていた滝――白露の段。
もはや地図にも載らぬその滝が、
王国全体を包み込むように、淡く光っていた。
――滝庁の時代。
それは、王国史上もっとも静かで、
そして、もっとも濡れた黄金期であった。




