滝議会の崩壊 ――言葉の終焉
滝の理念は、ついに議会へと流れ込んだ。
議事堂の天井は防滴仕様に改築され、壁面には「流れの象徴」として小さな滝がいくつも設けられた。
議員たちは会期の始まりに「沈黙の祈り」を捧げ、
その後、発言の代わりに小瓶の水を壇上に注ぐ――それが新しい討論様式だった。
「言葉より水を」
それが滝議会の標語である。
発言の代償は水滴で、意見の重みはその量で測られた。
ある議員は勢い余って瓶をまき散らし、別の議員は涙と区別がつかなくなるほどに静かに注いだ。
やがて、議事録の紙面にはほとんど何も残らなくなった。
防水紙に滲んだのは、ただ誰かの指の跡と、水の輪。
議長はその空白を見つめながら、静かに言う。
「沈黙は承認と見なす」
以降、全ての法案は無言のまま可決された。
国家は滝のように流れ続け、誰も止める者はいなかった。
リュカ・ド・フォルマン庁長も、議場の片隅に座っていた。
かつて哲学を語った男の唇は、今やほとんど閉ざされている。
彼の前の机には、書きかけの原稿用紙があった。
『行政とは、滝の高さを計る詩である――』
そこまで書かれた文字の先は、インクが流れて読めなかった。
ただ、水滴の跡が円を描き、静かに乾いてゆく。
その夜、庁舎の天井からわずかに水が滴り落ち、
議場の中央に小さな水たまりができた。
翌朝には、それが“滝議会の記念碑”として登録されることになる。
――こうして、言葉は終わり、
王国は、沈黙の中でゆっくりと呼吸を続けていた。




