滝税と滝補助金 ――湿度経済の誕生
滝庁の勢いは、ついに経済の領域へと及んだ。
庁長リュカ・ド・フォルマンの新たな声明は、まるで詩のようであり、同時に法令のようでもあった。
「流れはただであってはならぬ。
水の恩寵には、等価の対価が要る。」
こうして、“滝税”が制定された。
内容は奇妙に具体的だった。
「滝に打たれた日数に応じて減税」
「乾燥地帯には“加湿支援金”」
「市民の湿度指数を年度ごとに算定」
各家庭には「個人湿度票」が配布され、居間の壁に湿度計が取り付けられる。
役人が巡回し、濡れ具合を目視で確認していく。
“湿りすぎ”の世帯は注意を受け、“乾きすぎ”の世帯は講習会に呼び出された。
やがて商人たちが動いた。
市場では“打たれ放題チケット”が飛ぶように売れ、
家屋の屋根には“人工滝”が設置されはじめる。
子どもたちはポケットサイズの「簡易滝携帯版」をぶら下げ、
通学路で小さな霧を噴かせながら歩いた。
滝が税制の中心に組み込まれたことで、王国の通貨は安定し、
物価は潤いとともに上昇した。
“湿度経済”と呼ばれる新たな繁栄の時代の到来である。
だが、クレアの目にはそれがどこか異様に映った。
ある日、庶民の家を視察した際、老婆が笑って言った。
「もうねえ、なぜ滝に入ってるのか忘れちまったよ。
でも、入らないと税が高くてねえ。」
クレアは返す言葉を見つけられなかった。
滝の祈りがいつしか義務となり、
信仰が制度に溶け、制度が湿気を増やしていく。
それでも、王都の空気は穏やかだった。
街路樹は青々と葉を茂らせ、子どもたちの頬はしっとりと潤っている。
人々は濡れながら働き、濡れながら眠り、濡れながら笑った。
国は潤いを誇った。
そして、誰もが濡れている限り、平和だったのだ。




