形式的断罪 ――王子と群衆の儀式
王太子レオン・ド・リュミエールは、
高壇の上でまっすぐ立っていた。
その姿は絵画のように整っており、
見目の端正ささえ、いっそ儀式の装飾の一部のようだった。
彼は、静かに、機械のように罪状を読み上げる。
「アメリア・セリーヌ・ロウフォード。
汝、王家への背信を行い、
偽りをもって忠臣を惑わせ、
その名誉を損なうに至った。
よってここに、婚約を破棄し、
すべての称号および権利を剥奪する」
言葉は整っていた。
まるで誰かが綿密に彫り上げた石碑を、
彼が口の中で転がしているようだった。
だが、その声の底には、
かすかな軋みがあった。
それは風に混じる、水の滴る音に似ていた。
冷たく、そしてかすかにやわらかい。
まるで、自分自身を裁いているような――
そんな錯覚を、群衆の誰もがうっすら感じ取った。
アメリア・セリーヌ・ロウフォードは、
その間ずっと、微笑んでいた。
だがそれは挑発でも、諦念でもない。
――赦しの笑み、だった。
断罪の壇の上で微笑む女など、見たことがない。
それなのに、その表情はどこまでも静かで、
王国の秩序そのものを、まるごと包み込んでしまうような柔らかさがあった。
「……まあ」
彼女は、それだけを言った。
まるで、紅茶がぬるくなったことを嘆くみたいに。
その声には、痛みも悔しさもなかった。
ただ一筋、頬を伝うものがあったが、
それを涙だと断定できる者は、誰もいなかった。
なぜなら、その滴は光っていたからだ。
光は滝の方角から射しており、
その一瞬、広場の空気がきらりと揺れた。
観衆は待っていた。
悲鳴を。抗議を。あるいは――崩れ落ちる劇的な姿を。
だが、彼女はどの物語にも応えなかった。
沈黙が、じわじわと広場を浸していく。
ざわめきの間を縫って、滝の音がかすかに届いた。
それは風のせいか、心の錯覚か。
群衆の何人かは、無意識に耳をふさいだ。
だが、それでも音は聞こえた。
さらさら、さらさら。
まるで、彼女の沈黙が音を立てているかのようだった。
レオンは、壇上でゆっくりと息を吐いた。
自分の喉が、砂を噛むように乾いている。
そのとき、彼の目に一瞬、彼女の頬を濡らす光が映った。
――ああ、滝のようだ、と彼は思った。
この国で、滝を見たことなど一度もないのに。
そして誰もが、はっきりとは言葉にできぬまま、
こう感じていた。
「これは、断罪の儀ではない。
ひとつの流れが、ゆっくりと始まったのだ」




