滝に打たれる王子
滝は、ただ在った。
世界のどの祈りにも似ず、どの断罪にも従わず、
冷ややかな永遠として、そこに降っていた。
レオンはその前に立ち尽くした。
靴の中は泥で満たされ、衣はもはや重く垂れ下がっている。
風は滝の吐息のように肌を打ち、
その冷たさの中で、彼は初めて“何も語らぬ”という行為を学ぶ。
彼は一歩、また一歩と滝の中へ踏み出した。
轟々とした水の壁が、王の形を容赦なく削ぎ落としていく。
冷たさは刃のようだったが、
その痛みの中に、奇妙な温もりがあった。
「滝は、罪を流す音ではない……
自分の声を、流す音なのかもしれない。」
その声は、すぐに水にほどけた。
だが、滝は確かにそれを聞いたように見えた。
光の粒がひととき踊り、
彼の頬を撫でて消える。
髪は滝の糸に絡まり、
衣は泥と霧の境に染まっていく。
それでも、彼の姿には崩壊ではなく、
奇妙な整いがあった。
剥がれ落ちる威厳の下から、
ようやく“ひとりの人間”の形が現れていた。
滝は赦しではなく、還りだった。
すべてが水に帰る――
その静かな輪の中で、彼もまた輪の一部になった。
やがて、霧の帳の向こうに
ほのかな光が立ちのぼった。
それは幻だったのか、祈りの残響だったのか。
滝の奥に、アメリアの微笑のようなものが見えた。
水と光のあわいに浮かび、
まるで彼の頬を撫でるように口を動かした。
「あなたも、ようやく濡れましたのね。」
その声が本当に届いたのか、
滝が代わりに囁いたのか、誰も知らない。
ただ、滝の下に立つ王子は微笑んでいた。
その姿を後の人々は「滝修行王子」と呼び、
彼が滝の中で見つけた“沈黙の答え”を、
いまもなお語り継いでいるという。




