雨の王都、沈黙の王子
王都は、もはや季節の境を失っていた。
朝も夜も、淡い霧雨が絶え間なく降り、
塔の尖端も、石畳の路地も、ゆっくりと湿り続けていた。
宮殿の天窓から差し込む光は、
まるで水底を漂う金糸のように揺らめき、
王太子レオンはその光を仰ぎ見て、静かに息をついた。
「あの断罪の日……私は、何を裁いたのか。」
その声は、水音に溶けて誰の耳にも届かない。
机の上では報告書が波打ち、
インクの線は滲み、意味を失っていく。
それはまるで、言葉そのものが世界から解け出していくようだった。
廷臣たちは沈黙を美徳とした。
「沈黙こそ王にふさわしい」
そう囁く声が、湿った廊下にいつも漂っていた。
けれどレオンの胸には、あの日の記憶がまだ流れていた。
断罪の広場、鳩の羽音、そして彼女――
滝の音を聞きに行くと告げて去った、
アメリア・セリーヌ・ロウフォードの背中。
その姿が、今もなお、水面の残像のように瞼の裏を離れない。
「断罪とは、誰のための儀式だったのだろう。」
その問いは、誰にも向けられず、
ただ彼自身の胸の奥で、静かに波紋を描いた。
窓の外では、雨が少し強くなった。
宮廷の塔々が、その雨をまるで祈りのように受け止める。
そして夜。
濡れた石床を踏みしめながら、レオンは執務室を後にした。
彼の足取りは、迷いではなく、ようやく訪れた決意のように静かだった。
――滝の音を、聞きに行こう。
その言葉は、誰にも告げられぬまま、
水に溶け、夜の宮殿をしずかに満たしていった。




