断罪の日、滝は鳴る 一 静かなざわめき ――王都の朝
その朝、王都セレーヌは、よく晴れていた。
空は絹のように薄く、冷たい水をひとしずく垂らしたような淡い青だった。
通りには露がまだ残り、石畳の隙間から立ちのぼる蒸気が、
まるで眠そうに欠伸をしている。
断罪式の旗が、一定のリズムで風に打たれては、
ぱたん、ぱたんと音を立てていた。
それは乾いた音で、王都の空気をさらに締めつける。
群衆の息は熱い。
だが、その熱気の底には、なぜか湿り気があった。
汗や緊張のせいではない。
空気のどこかに、冷たい水の流れが潜んでいるような――そんな奇妙な感覚。
「滝の音が聞こえるな」
誰かが、ぽつりと言った。
「いや、まさかこの距離で」
「……あれは風の音だろう」
その声は、朝の湯気のように立ちのぼっては、すぐ消えた。
だが、確かに、何かが鳴っていた。
それは鐘のようでも、拍手のようでもない。
もっと柔らかく、もっと遠くから響く音。
季節外れの滝が、今朝だけは不意に勢いを増している。
それを知る者は滝の麓の村にもほとんどいないはずなのに、
なぜか王都の人々の鼓膜に、
「水音の錯覚」がじわりと忍び寄っていた。
断罪の日の朝としては、
あまりにも不釣り合いな静けさだった。
衛兵たちは鎧の留め金を整え、役人は羊皮紙を手に緊張して立ち尽くす。
誰もが決まった台詞を胸の奥で反芻している。
この式典が、いつも通り淡々と終わるはずだと信じて。
だが、風はどこか湿っていて、
旗の布はわずかに重たく垂れている。
まるで――空そのものが滝の飛沫を吸い込んでいるようだった。
「滝の音を聞いたことがあるか?」
「いや、都の者は皆、知らぬさ」
「では、あれは何の音だ?」
「……罪の音、かもしれんな」
そんなやり取りが、
まるで誰かが夢の中で呟いたように、
あちこちの群衆の間でこだました。
だが、そのざわめきは不吉ではなかった。
むしろ奇妙に心を落ち着かせる、不思議なノイズだった。
音は耳で聞こえるものではなく、
風景のほうから静かに「染み出してくる」もの――
この朝、王都の人々は初めてそのことを知った。




