第94話 魔女王アリスの戴冠
リンデン王国民はアリスの戴冠を知り、声を上げて興奮した。
国旗を物置から取りだして道々で狂ったように振り始め、リンデン王国万歳を声を枯れんばかりに絶叫した。
狂乱は禅譲の発表から三日三晩続いたという。
『星』の魔女のアリスがリンデン王となるという事は、魔女の道々との和解が成るという事で、王都に魔導工業が戻ってくる事を意味していた。
事実、魔女の道々の公式発表での破門解消を発表された時、王都の地価が値上がりを始め、王国全体が凄まじい好景気に沸いた。
三ヶ月後、アリスは戴冠式を経て、正式にリンデンの若き国王、のちに魔女王アリスと呼ばれる治世が始まったのだ。
リンデン王国全土がお祭り気分となり、踊り狂い、アリスの戴冠を言祝いだ。
国民は新しい明日が来る事を実感した。
クーニッツ連合国はその支配をリンデン王国に渡し、サンディ女王はその任を解かれた。
彼女はせいせいとした表情でディアナの漁船に乗って王国各地へ豊作の祈念の旅に出て、寿命が尽きるまで、旅の空だったと言う。
リンデン王国は魔女王アリスの戴冠後三年で旧来の領地を回復し、さらに二割の領地を拡大させた。
リンデンの高名に支配権の譲渡を他国の貴族が競って行った結果である。
なにしろリンデンの好景気は終わる事を知らぬように続き、さらに王国領となればサンディ前王妃が豊作の祈念をしにきてくれるのだ。
中央深樹海のほとりにある、魔導学園都市群はメリル共和国から魔女王アリスの戴冠のお祝いに割譲されて、リンデン王国の飛び地となった。
現在でも大陸一の文教都市として繁栄をしている。
ランドランドに行っていた、『ガンドール』ガラス工房はリンデン王都に帰って来た。
元の工場に戻ると、奇跡的に大型魔導炉は無傷で残っていて、魔力を入れると高温を発して軽々と回った。
ランドランドにはトーマスの息子の経営する支店を置き、リンデンではトーマス経営の本店を再開した。
魔女学校から卒業した『火』魔法使い、『風』魔法使いを大量に雇い、大陸の一流ガラス生産工場としての名をほしいままにした。
ディアナはサンディと一緒に豊作の祈念の旅をすると同時に、魔導具開発者と組んで魔導飛空艇を開発、その航路をさだめ、航空法規を制定した。
リンデン王国が飛空艇大国になったのはディアナのお陰と言われている。
騎士ヨリックは新生リンデン王国のペガサス騎士団の団長としてアリス王を支えた。
後年は魔女キキーラを嫁に迎えて楽しく人生を送ったという。
農夫ダンカンは宮廷の庭師として仕えた後、褒美として故郷の村を領地として貰い、男爵家を立ち上げた。
村から強制徴用で掠われて死んだと思った長男が帰ってきて、領主になったのを、両親は激しく驚いたという。
ナナは宮廷警備を長年つとめた後、ダンカンの村に一緒に行き、ダンカンの一族に仕えた。
ナナはオニキスほど恋愛に目覚めてはおらず、ダンカンとは兄妹のように暮らしたという。
ダンカンの結婚後は、子供に仕え、孫を導き、そして現在、居場所を博物館に移し、アリスの居た時代の生き証人として展示の説明の仕事をしている。
ペトロネラは魔女王アリスの相談役だったが、後年王府の女宰相として辣腕を振るい、現代の超大国リンデンの基盤を築いた。
彼女の行政手腕の恐ろしさは同時代の各国の名宰相たちが口々に著作で「あの属性は卑劣である」「『道』は卑怯である」と嘆く事からも証明できよう。
魔女王アリスはその利発さ、人品の公正さで、よく国を動かし、リンデン王国を発展させた。
時々は王都を抜け出し、ナナとペトロネラの三人で身分を偽り、リンデン各地で世直しの旅をした、とも伝わっている。
各国貴族から配偶者にと縁談が山のように来たのだが、誰一人としてお眼鏡にかなわず、アリスは一生独身であった。
アリスは、その一生で『メテオストライク』を公式に一度しか撃っていない。
デシデリア首都を破壊した時が只一度である。
そのデシデリアとの国交もしばらくしてから再会され、ディアナ主導の飛空艇事業がリンデン王国との共同で発足された。
リシャール失領王は禅譲後王都の離宮で隠居生活を死ぬまで続けた。
離宮のメイドに手を付けて、アリスの弟が生まれたが、これが後のリンデン王家の血脈となった。
アリスの生きていた時代のリンデン王国は光輝く栄光に包まれ、民も王族も幸せの中に暮らしていたという。
アリスは八十六歳まで生きて、心不全で世を去った。
国民は魔女王の死を悲しみ、三年間、喪に服したと伝わっている。
そして、それから百年。
現在でも魔女の道々は途切れずに伝わっている。
きっと、これから千年先の未来でも脈々と伝わっていることだろう。
(魔女の道々、了)
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