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魔女の道々  作者: 川獺右端
三章 バンバリン平原の戦場
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第9話 バンバリン平原の戦場を見る

 ゾーヤとターラーの師弟はイドンの街から一ヶ月掛けて街道を歩き、バンバリン平原へと到達した。


 峠から平原が一目で見渡す事ができて、大国リンデルと小国ランドランドの軍隊が布陣を張っているのが見えた。


「さて、ターラーならどっちに加勢するかい?」

「やっぱり小国です、大国の横暴許すまじですよっ、リンデル王国はランドランドの所有するアリラカ鉱山を手に入れようと侵略に来たんですよねっ」

「そうだー、アリラカ鉱山をめぐって、もう十年も戦争してんぞ。ちなみに私はあの鉱山都市で生まれたよ」

「師匠の故郷ですか、だったらなおさらランドランドの味方をして防衛しなきゃ」


 ゾーヤは鉱山のある山を懐かしそうに見上げた。

 まあ、懐かしいだけで親もういないし、足を踏み入れた事は無いのだが。


「ちなみにな、ランドランドが鉱山を手に入れたのは二十年前だ、少数民族が所有していた鉱山を武力で乗っ取った」

「えーーーっ」

「大国リンデルは少数民族の生き残りに故郷を開放するという名目で攻め込んでるぞ」

「そ、それは……、どっちが良い者ですか?」

「読み本じゃあねえからよ、良い者も悪もんもいねえのよ、どっちも適度に正当性があって、適度にいい加減だあなあ」


 ターラーは混乱しながら二つの軍を見た。


「正当性とか、うーん、うーん、正義の方に付きたいですっ」

「正義っぽい感じはランドランドだけどよう、貰える金貨の数はリンデルの半分だし、泊まる所はボロいし、飯は不味いし、良い事が無いぞ。唯一の長所はクランクと戦わないで済む事ぐらいだあな」

「『剣』の人、居るんですか?」

「あいつは戦場が家だからな、いるぜ。あと、若い王子が気に入っているから十年ずっとランドランドだあな。あいつがいなきゃこんな戦力差の戦争は十年も続かないよ」


 ワルプルギスの夜市であった、クランク師匠はなんか凄くヤバイ感じで強そうだった。

 身体強化で剣で戦う魔女なんて、彼女以外は居ない。


「師匠は前回はどちらに?」

「リンデル王国」

「ずっとですか」

「ずっと、給金が良くて、寝床が綺麗で、飯が美味くて人材が揃っていて、士官が馬鹿な命令を下さねえんだ」

「士官の命令……」

「馬鹿士官はどこにでもいて、魔女に突撃しろとか、五人でクランクを倒してこいとか馬鹿な命令を下される事がある」

「あれ、真面目にクランク師匠とは戦わないんですか」

「戦わねえよ、なんであんな戦闘馬鹿と戦わなきゃなんねんだ、ふざけんな」

「ちょっとほっとしました」

「魔女と魔女を対決させてつぶし合わせようってえ士官はいるんだが、そういうのは聞く必要がねえ、魔女がどんどん死んじまうのは良くねえしよ」


 ターラーは悩んだ。

 社会正義か、賃金の高さか。


「さて、いくべい、リンデンの陣地で夕飯をくうぞ」

「やっぱそっちに行くんですかー?」

「あたりめえだ、賃金倍だぞ」


 元よりターラーの選択肢とかは無かったようだ。

 質問をしたのは戦場について弟子に考えさせる為だったようだ。


 峠を下りて、リンデン国の陣地に下りていく。

 途中で歩哨の兵士に誰何されたが、ゾーヤが自分の名前を名乗ると背筋を伸ばして敬礼して、指令本部に知らせに全力で走っていった。

 指令本部のテントから三十台の女性士官が出て来て手を振りながら駆けよってきた。


「ゾーヤ師匠! いらっしゃい、今期も入ってくれますかっ」

「ああ、世話になるよ、ミリンダ」

「あら、あらあら、こちらはお弟子さんですか? こんにちは~」

「こ、こんにちは、ターラーと言います、『火』属性です」

「まあああああっ!! 『付け火のターラー』が我が陣営に、良くいらっしゃいましたね、感動ですっ」


 ゾーヤとターラーはミリンダの案内で司令部テントに入り、傭兵契約を結んだ。


「ターラーさん、火属性は戦場に欠かせないんですよ、沢山活躍して、沢山稼いでくださいね」

「は、はい、がんばります」


 ゾーヤとターラーは宿舎テントの一室を与えられた。

 簡素だが、しっかりして清潔なベッドがあり、意外と居心地がよさそうだった。


「戦場だから、荒れ地にテン泊かと思いましたよ」

「ランドランド軍に傭兵すると、まあ地べたでテン泊だなあ」


 戦争は同じ条件で戦うんじゃないんだなと、ターラーはしごく当たり前の事を実感していた。


 夕方になったので、食堂テントに行き、食事を貰った。

 豪華では無いが、美味しくて食べ応えがある量のご飯だった。

 肉もマメも豊富で美味い。


「お、ゾーヤ師匠、ターラー来たかい」

「ロッカ、あんたも戦働きかい」


 火の組合のカエルっぽい先輩のロッカが食堂テントにいた。


「ロッカ先輩! 来てたんですか」

「まあ、『火』は戦場向きだからな、いるぜ」

「知っている人がいて良かった~~」

「ワルプルギスの夜市は知り合いを作って、いろんな場所で助け合うためにあるんだよ」

「ははは、ちげえねえ」


 ゾーヤ師匠とロッカ先輩はエールの木のジョッキを打ち合わせた。

 ターラーもエールジョッキを打ち合わせ乾杯した。

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― 新着の感想 ―
相手陣営に魔女がいても本気で戦わなかったりするのね。 魔女が死に過ぎても困るって話、社会のインフラの一部みたいなものだからかな。 あるいは本来の役割があったりするのかも。定期的に魔物とか魔王と戦うとか…
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