第88話 グリシラ会戦の後始末
デシデリア共和国軍とリンデン王国軍の連合軍は、ディアナの魔法に手も足も出せなくて負けた。
魔女の道々の軍には、クランクやローパーなどの熟練の魔女も居たのだが、出番が無かった。
大質量の物が高速で飛んでくる、という単純な魔法に対する対処方が無かったのである。
たった一つだけの対応策であった魔導動甲冑は、ナナとアリスの呪文で自我を目覚めさせられ、動きを止め、魔女の道々軍に寝返った。
三百機、全ての魔導動甲冑がである。
陸兵は合わせて三万居たが、ディアナの放つ岩石にはまったくの無力であった。
陸兵達は我先に逃げまどい、撤退していった。
荒野に立つ魔導動甲冑工場だけが残った。
ディアナの軍艦は工場に近づいた。
工場の外壁に太った男が少女を抱えて立っていた。
「魔女よ退け、退かねばお前達の仲間を殺す」
そう言って太った男はナイフを振り上げた。
「やめろっ!! デブ、てめえっ!!」
「糞ガキめっ!! はやく退け、そうでなくては、こうだっ!!」
「きゃあああっ」
太った男は少女の腕を刺した。
アリスは怒りで目の前が真っ赤になった。
「その子を放せっ!!」
「退けっ、退け!! 魔女めがっ!!」
太った男は少女をザクザクと刺した。
少女は悲鳴を上げつづけた。
アリスの胸の中で真っ赤な怒りの蛇がうごめき背骨にそって脳天から空に向けて飛んだ。
――メテオ・ストライク
怒りは星を呼んだ。
天空を切り裂き轟音を発して星が工場へ向けて落ちる。
「あああああああっ!!」
「アリス! 怒りを止めなさいっ!!」
ディアナの悲鳴も怒り狂ったアリスには届かない。
星が、幾つも幾つも天空から尾を引いて工場へと落ちて行く。
ナナが魔導動甲冑のジェットを吹かせて工場の壁に向けて飛ぶ。
落ちてくる流星を背にして太った男を殴り飛ばし、少女を抱き上げて軍艦へと戻る。
アリスは正気に戻らない。
鼻血を吹き出しながら、星を呼ぶ。
平原に、工場の壁に、敷地の中の工房に、星が落ちる。
『この子を治してくださいっ!! アリスさまっ!!』
ナナはアリスに血まみれの瀕死の少女を突き出した。
アリスは目を見開き、星を呼ぶのを止めた。
呼ばれていた星は力無く落ち、平原に穴をあけた。
「な、治す、治す、治れ治れ治れ!」
アリスは溢れんばかりの緑色の光を両手に集めて、少女の傷を癒やす。
致命傷だった傷は治っていき、少女の呼吸が静かになった。
アリスは、ほっと息をついて、そして声を上げて泣いた。
『大丈夫ですから、アリスさま、大丈夫ですから』
ナナは魔導動甲冑を抜け出し、アリスを抱いて背中を優しく撫でた。
ディアナは、ほっと胸をなで下ろした。
――アリスのメテオストライクでここら一帯を破壊し尽くしてしまうところだったわ……。
その後は、兵隊とクランクに工場の制圧を任せ、ディアナは平原に軍艦を下ろした。
三百機の魔導動甲冑と、二百人の魔女の卵の少女たち。
それが、魔女の道々の戦果であった。
彼女らを積んで、軍艦はワルプルギスの夜市へと戻っていった。
子供魔女たちは即座に師匠が出来た。
一人の魔女が二人も三人も弟子を取った。
ローパーも二人『火』の魔女を弟子に取り、エリカもエリカの弟子も子供魔女の弟子を取った。
ダーグは必死になって魔導動甲冑からオートマタに換装していったが、なにしろ三百機だ、相当の時間が掛かりそうであった。
アリスは一晩寝て、すっきりした顔で出て来た。
「いやあ、失敗失敗、ナナ止めてくれてありがとうな」
『大丈夫ですよ、アリスさま』
「メテオストライクが使えるようになったのか?」
「まだだ、ヨリック。まだ魔力が足りない所で使ったから暴走して危ない所だったよ」
「そうか、気を付けろよ、アリスは自分だけの命じゃないからさ」
「わかった、ごめん」
ディアナが昨日の少女を連れて甲板に出て来た。
線の細い黒髪の綺麗な少女だった。
「具合は大丈夫」
「はい、アリスさま、ありがとうございました」
「……」
アリスは少女を見つめた。
「ええと、属性はなに?」
「は、はい? えと『道』です」
「珍しい属性ね、お名前は?」
ディアナは少女に問いかけた。
アリスは黙って少女を惚けたように見ていた。
「あ、ペトロネラといいます」
ペトロネラははにかんで笑った。
「ペトロ、お前は、私の弟子だ」
「「「え?」」」
アリスの中に確信があった。
この子は私の弟子だと思った。
「いや、アリスはまだ弟子を取る時期じゃないし」
『早すぎませんか、というか、私を弟子にしてくださいよ』
「ナナは家来だ、ペトロは弟子だ」
「あ、あの、私は変な属性で、何が出来るか解らないですし、その、ご迷惑では?」
「ペトロの『道』は道筋を付ける属性だ、いろいろな物をあるべき所に置く事ができる属性だ」
「そうなんですか?」
ペトロネラは半信半疑で半笑いであった。
「私は師匠をやるほど、まだ魔女の経験をしていない、けど、そんな事は些細な事だ、一緒に育って行こう、弟子よ」
「は、はあ、その、ご迷惑でなければその」
「今日から、お前は私の弟子だ!」
アリスは満面の笑みでそう言った。
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