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魔女の道々  作者: 川獺右端
第十章 アリスと三人の家来
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第87話 グリシラ平原会戦

 デシデリアという国は古来から魔女を迫害してきた。

 かの国の国民にとっては、魔力を得た人間は魔物であって、人では無いのだ。

 したがって古来から魔女を見つけるとデシデリアでは火あぶりにして殺してしまう。

 最近は魔女と一緒に近代化を進める国が多いので、表面的には迫害は無いように見せているが、裏では陰湿に排除しているのであった。


 デシデリア共和国の大統領に対し、魔女の道々より糾弾書が届いた。

 魔導動甲冑に子供の魔女を部品として組み込んだのを批難する文章で、同じ物は各国の王宮に対し送られていた。

 これに対して大統領府は悪質なプロパガンダで的外れな批難であると反応、でっち上げはやめて頂きたいと返信した。


「道々の魔女どもは何をするつもりなのか?」

「魔導動甲冑工場へ軍事行動するつもりですな。夜市会場から大型軍艦が宙を飛び、グリシラ平原へと向かっております」

「月の魔女の魔法か、軍隊は?」

「道々に賛同した、クーニッツ連合国から五千の兵が同行していますな」

「魔女と陸兵五千か……。ふむ、リンデン王国へ救援要請をしろ、月の魔女を倒す機会だ、喜ぶであろう。首都防衛隊からも陸兵一万と魔導動甲冑兵を百を出そう」

「確実な勝利ですな、大統領」

「魔女のような下等生物に馬鹿にされては不愉快であるからな」


 『月』の魔女が動いた、との一報はリンデン王国へと入り、陸兵二万と、魔導動甲冑隊二百がグリシラ平原へと行軍した。


 後の世に言うグリシラ平原会戦は唐突に始まった。


 初手はディアナの水平ストライクからだった。

 彼女は港街で買った大型軍艦を平原に下ろし、近場の岩石を月の力で掴み、力一杯敵陣に向けて投げた。


 巨大な質量の岩塊が空を行き、陣をひいた陸兵を数千人単位でなぎ倒した。

 無数に飛んでくる岩塊は避ける以外の対処方はなかった。

 岩塊が平原を転がるたびに兵士達が肉片となりすり潰された。


 魔導動甲冑が走って来た。

 剣を振り上げ獣のような叫び声を上げて、ディアナの軍船に向けて駈け寄ってくる。

 その数、三百機である。


「『汝、迷いを解きて心を動かしたまえ』」


 ナナとアリスが声を合わせて呪文を詠唱すると、二百九十九機の魔導動甲冑は動きを止めた。


【さあ、聞け、あんた達は、私の家来になれ】


 アリスが『繋』の魔女から教わった念話を周囲に放つと、二百九十九機の魔導動甲冑はうなずき、体内の男共を荒野に吐きだした。


 一機だけ、止まりもせずにディアナの軍艦に肉薄する魔導動甲冑があった。


『アリス姫!! リンデンにお帰りくださいっ!!』

「ありゃ、あいつ、なんで自我が生えないんだ?」

「ステファン! ターラー先生の仇!!」


 ディアナは手近な岩を持ち上げステファンの黒い魔導動甲冑に放った。

 ステファンは巧みにかわして、軍艦の甲板に飛び乗った。


『大罪人ディアナめ、覚悟しろっ!! お前を殺し、アリス様をリンデンにお連れする!!』

「……、お前、臭い」


 ステファンは動きを止めた。


『タ、ターラーに焼かれた関係で魔導動甲冑を脱げないのですっ、悪臭はご勘弁ねがいたい』


 ステファンはターラーの圧縮した火炎に焼かれ、魔導動甲冑と皮膚が癒着し、あの夜から脱ぐ事ができなくなった。

 入浴も出来ず、排泄も思うままにならず、悪臭が立ちこめていた。


「それより、甲冑、お前なんでこいつ吐き出さないの?」

【……、ステファンさまを愛しているからです……】

「ああ、そう、臭いのに」


 魔導動甲冑は匂いを感じる機能がないのだなと、アリスは思った。


 アリスはすたすたと、ステファンの魔導動甲冑に近づいた。


「姫さん、危ないぞっ!!」

「離れなさい、アリス!」


 アリスは両手に緑色の光を灯し、魔導動甲冑に触った。


『あ、あああああっ』


 一瞬でステファンの古い火傷は治り、魔導動甲冑から皮膚が外れた。


「吐き出せ、甲冑」

【いやですステファンさまへの思いを私は】

「臭い男に念話は通じないし、お前にああいう体を与えるよ」


 アリスはナナを指さした。

 ナナはオートマタの体を魔導動甲冑から出して手を振った。


【あんな、体?】

「良いだろ、声も出せる、臭い奴と会話できるよ」

【あ、その、良いんですか】

「うん、私もそういう話大好き」


 アリスも女の子であるから、甘酸っぱい恋の話は大好物であった。


「なので、その臭い男を吐き出せ」

【はい】


 魔導動甲冑はステファンを吐きだした。


「な、何を、あ、ああ、火傷が、治って」

「ヨリック、ダンカン、こいつ臭えから軍艦から叩き落として」

「おうよ」

「何をする!!」


 魔導動甲冑から吐き出されたステファンはヨリックとダンカン、そして流星号によって軍艦の甲板から投擲された。


「後でこの子を持ってくからさあ、本陣とかで待ってろ」

「馬鹿な、馬鹿な~~!!」

「あと、風呂入ってろ、臭え」


 軍艦の周囲には自我を取り戻した三百機の魔導動甲冑が居て、うろうろしていた。


「んじゃ、ダーグ博士、この子の換装をお願いね」

「解った、だが臭いのう」


 アリスは水魔法で流水をザバザバ掛けて魔導動甲冑の中を洗った。

 匂いは大分増しになった。


「おまえ名前は」

【555号です】

「そうかー、機体が黒いからオニキス・ゴーゴーという名前をつけてやる」

【ありがとうございます】


 ダーグ博士はオニキスから制御装置を外し、黒髪のすらりとしたオートマタの体に入れた。


『これが……、私』

『良かったね、オニキスちゃん』

『あ、ありがとう、ええと』

『ナナだよ、よろしくね』


 オニキスはふんわりした幸福感に包まれて微笑んだ。

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