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魔女の道々  作者: 川獺右端
第十章 アリスと三人の家来
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第86話 オートマタ・ナナの誕生

 ナナの人形への移転は一時間弱で完了した。


 ナナは目を開き、上体を起こした。


 世界がとても綺麗に見えた。

 軍用カメラのモノクロの視界ではなく、人形に使われた眼球は深海のイカ魔物の眼球から作った高度な品物だった。

 人間の感じる色の領域を遙かに超えた視界をナナにもたらした。


『綺麗……』


 鈴が鳴るような美しい声がした。


「うわ、綺麗だぞ、ナナ」

「すげえな、ダーグのおっさんは変態だな」

『そんなに?』

「見てみなさい」


 ダーグが鏡を見せてくれた。

 そこにはとても美しい少女が映っていた。

 人形くさい所は無く、自然な少女のような繊細な表情を浮かべて、微笑んでいた。


『これが……、私……』


 銀髪で青い目で整った顔だった。

 腕や足の関節は球体になっているが、清潔感のあるメイド服を来ていた。


『ダンカン、クランク師……』

「ああ、そうだぞ、ナナ」

「良かったな、可愛い」


 元の魔導動甲冑の体は部屋の隅に立たされていた。


「いま、中枢部分は人形を動かす制御につかっているが、魔導動甲冑を着込んだら、そちらに自動的に制御が移るようになっているよ」

『ありがとうございます。ダーグ博士』

「いやいや、良いんだ、良いんだよ、救われたのは私だ。ありがとう、ナナくん」


 ダーグはぽろぽろと涙を流した。


「さあ、漁船に戻ってアリスとディアナをびっくりさせてやろうぜ」

「ああ、そうだな、みんな喜ぶぞ」

『はい』

「先生も来いよ、ソーニャとかに紹介してやんよ」

「ありがとう、クランク師」


 ナナは魔導動甲冑を身にまとった。

 確かに触ると回路が接続されて魔導動甲冑を動かす事ができるようだ。


「さあ、行こう」


 四人は店を出て、ベドー山に繋がる坂を登り始めた。

 諜報系の人間が尾行している気がするが、姿は見えなかった。


 内陣に入り、漁船に戻ると、アラニス侯爵夫婦がやってきていて、アリスとディアナとテーブルを囲んでいた。


「あれ、どこ行ってたんだ? ナナ、ダンカン」

「港街をナナが見たいって言ってたんで送って行った」

「危ないぞ、ナナ~」


 ナナは魔導甲冑を開き、オートマタの姿を現した。


『アリス様、いつもありがとうございます』

「は?」

「港街に人形師さんが居て、ナナを人形に入れてくれたんだよ」

『そうなのです』


 ナナは大口を開けてこちらを見ているアリスに微笑んだ。


「すげーすげー、ナナが、ナナが喋った~~!! ぎゃあ、すげえ可愛いし、なにこれなにこれ、自動人形? すげえすげえっ」

「うわあ、凄い美少女人形ね。凄いわ、というか、喋れるようになったのが凄いわね」


 アリスは興奮してナナをもみくちゃにした。


「すげえな、ナナ、ずいぶん小さく可愛くなったなあ」

「これはウェイトレスに最適ですよっ」


 クランクが知らせたのか、ソーニャとプラントが内陣に小走りでやってきた。


「これが、オートマタかあ!! すごいぞ、デシデリアの技師上がりの人形師さんが港街に居たとは」

「魔導動甲冑にされた魔女はみんなオートマタに出来るのかしら、博士」

「自我を取り戻した機体だけですな。それが一番難しいかと、ナナくんの自我の取り戻しは一種の奇跡ではないかと思いますな」


 事はそう簡単ではないと知って、ソーニャとプラントはがっくりとした。


「でも、すぐにでも工場を破壊しに行きたい。デシデリアの魔女たちを助けたい」

「そうは言ってもねえ」


 アリスの提案にソーニャは難色を示した。

 プラントが漁船から外陣に向けて駆け出して行った。


「プラントはなんだろう?」

「なんか思いついたのかもね」


 とりあえず、ナナとダーグと一緒にテーブルに着き、事情を聞いた。


「デシデリアの技師さんが夜市のある街に居たなんて、なんて偶然かしら」

「偶然じゃないよ、これは魔女達を助けようって天の声なんだよ」


 アリスが興奮して言うが、ソーニャは渋い顔だ。

 プラントが分厚い本を持って駆けて戻って来た。


「あったあった、珍しい魔法だから覚えてたんだよ」

「なんだよ、プラント」

「聞いて驚け、『機』属性魔法に、機械に自意識を発生させる魔法の特許があったんだ」

「お、おお」

「ナナは『機』属性だし、アリスは地上の魔法全てを使えるから、二人は使えるんだ」

「機械に自意識を発生させて、どうする魔法なのよ?」


 ソーニャがプラントに聞いた。


「ああ、機械に自意識を持たせると、故障部分などを教えてくれるので色々と便利、だそうだ」

「使えるのか? それ」

「ディアナが破壊した魔導動甲冑のスクラップがあるから、それを使って実験してみればいい。これが使えたら、魔導動甲冑にされた魔女をオートマタにして救えるぞ」

「おう、やってみよう!!」


 さっそく倉庫からスクラップを出して来て、ナナが魔法を掛けてみた。


 上半身だけのスクラップだったが、魔法が掛かった瞬間に自立的な動きをするようになり、スピーカーに繋ぐと喋った。


『ここはどこですか、私は誰ですか』

「君は……、六百四十五号だよ、いま自我を取り戻したんだ」

「お前はロクシゴーだ、よろしくな、ロク」

『あ、はい』


 実験は成功だった。

 ダーグは鍛冶魔女のアイナと協力して、全力でオートマタの素体を作り、ナナの後に、五人のオートマタが生まれた。


 ソーニャはそれを見て、心を決めた。


「デシデリアの魔導動甲冑工場に攻め込み、魔女と魔導動甲冑を救出します」


 魔女の道々の軍事行動が決まった瞬間であった。

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― 新着の感想 ―
ゴウランガ・・・!おお、ゴウランガ! 罪無く兵器に変えられた幼子達が救われ、悪魔の軍事国家の滅亡が決まった瞬間である!
>「お前はロクシゴーだ、よろしくな、ロク」 もー少し女の子らしい名前を〜! (TдT) デシデリア… \(^o^)/オワタ
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