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魔女の道々  作者: 川獺右端
第十章 アリスと三人の家来
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第85話 人形師ダーグの店

 ナナとダンカンは複雑で細かい裏路地を逃げまどった。

 二人だった諜報員の追っ手は四人に増え、ダンカンとナナは離ればなれになって逃げた。


「畜生、どこにいきやがったか」

「農民はいたか」

「いや、見失った、大男もだな」

「ちっ、脱走兵め」

「夜市の内陣に逮捕に行ってはいかんのですか?」

「馬鹿、魔女の巣みたいな所に行けるか。クランクもいるし、’こっそり捕まえて拷問して情報を吐き出させないと」

「はっ」


 恐ろしく物騒な事を言いながら二人の諜報員は去っていった。

 物陰に隠れていたナナはほっと胸をなで下ろした。


「動甲冑兵さん、こっちへ」


 眼鏡でエプロンを着けた職人風の中年がナナを手招いた。


「脱走兵だって? 夜まで家に隠れていなさいよ」


 人の良さそうなおじさんで悪い人には見えなかった。

 ナナは頭を下げておじさんの開けたドアをくぐった。


 一歩室内に入ると、ぱあっと視界が明るくなった。

 部屋一杯に小さな人形の頭部、胴体、ドレス、腕足が並んでいた。


――人形師。


「兵隊さんは逃げてきたのか、大変だったね。夜になって包囲が弱くなったら街から逃げると良いよ」


 眼鏡のおじさんはにっこり笑ってそう言った。

 ナナは黙って頭を下げた。


「体外スピーカーが故障してるのかい? それとも元から無口なのかな」


 ナナが頭を上げると、慌てたようにおじさんは手を横に振った。


「いや、ごめんごめん、リンデンの人間ではないよ。私はダーグと言って、昔、デシデリア共和国で魔導動甲冑の技師をしていてね。ちょっと詳しいんだよ。少し見ても良いかい」


 ナナの記憶にはダーグの姿は無いが、元よりアリスに会うまでの記憶が無いのだから仕方が無いだろう。


「七百番台かあ、大分色々仕様が変わっているね。私の関わった頃は三百番台で、基礎研究みたいな頃だったね。手も、足も、ずいぶん進歩したね」


 ダーグはナナの体の各部をチェックした。


「具合の悪い所があったら応急処置も出来るけど、大丈夫かい?」


 ナナはジェスチャーでダーグに必要ないと伝えた。

 メンテナンスは鍛冶魔女のアイナ師がやってくれていた。

 専門外だったが、器用なアイナ師は魔導動甲冑を何とかしてくれている。


 ストーブでお湯が沸き、ダーグはお茶を入れた。


「君もどうかな」


 ナナがいらないとジェスチャーすると、彼は苦笑した。


「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。うん」


 なぜ、デシデリア共和国の技師が他国のこんな南の港町で人形店をしているのだろうか。

 ナナは工房を見まわしながらそう思った。


「もうね、動甲冑を作るのが厭になってね、それで流れてきたんだよ。兵隊さんは知っているかな? その動甲冑にはね、小さな女の子の魂が宿っているんだよ……」


 ダーグは寂しそうにぽつりと語った。


「上官はね、魔女なんか動物と一緒だ、何人潰しても気にすることは無いんだって、大声で僕を説得したんだ。もっともっと作ってデシデリア共和国を富ませなくてはいけないって。最後は絶叫するみたいに、自分に言い聞かせるように言ってた。彼は最後に自殺したんだ。で、僕は悲しくなって技師をやめて、南に流れて来たんだよ」


 ダーグは手元にあった、人形の頭を撫でた。


「いつか、魔導動甲冑に宿った魔女の子の意識が戻ったら、僕に復讐して欲しいとも思ってるんだ。でも、そんな日は来ない事は解って、ただ後悔しながら僕は人形を作り続けているんだよ」


 ナナは少し迷って、フェイスガードを開いた。

 ダーグは空のヘルメットの中を見て棒立ちになり、膝から崩れ落ちて泣いた。


「君は、意識が戻ったのか」


 ナナはうなずいた。


「ありがとう、意識を取り戻してくれてありがとう。ああ、なんて日だ」


 そしてダーグは立ち上がり、工房の奧にナナを誘った。

 カバーを外すと、まるで生きているような少女の人形があった。


「ずっと、ずっと、君のような子に渡すために体を作ったんだ。華奢だけど、人と同じ動きが出来て、声も出るよ。君はこの体に入ってほしい」


 それは美しい少女の人形だった。

 ナナはその中に入る事を想像して心が浮き立った。


 店の外が騒がしくなった。


「ク、クランク来来!!」

「なろー、アリスの家来を放せっ!」

「ぎゃあ、クランク師、ありがとうっ!」


 店の前で大立ち回りが行われているようだ。


「君の仲間かい?」


 ナナはうなずいて、ドアを開けた。


「お、ナナも居たか、大丈夫か」

「ナナー心配したぞ」

「君はナナと言うんだね」


 ナナはうなずいた。


 クランクとダンカンがダーグの人形店に入り、説明を聞いた。


「ナナに新しい体をやれるのか」

「というか、喋れるようになるのか、それは凄い」

「コアユニットの移植だけで動くから、一時間ぐらいで終わるよ、やっても良いかな」

「ナナはそうしたいんだな」


 ダンカンの問いかけにナナはうなずいた。


「技師の先生、お願いします」

「これ、他の魔導動甲冑の中の魔女達も救えるのか?」

「そうなったら良いなと、ずっと思って作っていたんだ」

「後でプラントに話を通す。魔導動甲冑から魔女を開放できるようになるかもしれねえな」

「魔女の道々でやるのか、それは心強いよ」


 ナナは綺麗な人形の中に入れると思い、胸が高鳴った。

 そして、施術が始まった。

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ああ、デシデリアは自分たちの所業で滅びそうだねこれは。解放された甲冑少女が許してくれるとはね~。 動甲冑の技術って病気とかで長く生きられない魔女の娘を生かすためとか善用する余地はあるだろうけど、残して…
やっぱりクランク来来…。諜報員…( ̄ノ ̄)/Ωチーン >「これ、他の魔導動甲冑の中の魔女達も救えるのか?」 >「そうなったら良いなと、ずっと思って作っていたんだ」 (๑˃̵ᴗ˂̵)و ヨシ!
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