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魔女の道々  作者: 川獺右端
第十章 アリスと三人の家来
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第84話 ナナは港街で冒険する

 ナナは街が見たくてしょうがない。

 漁船カフェの手伝いをしてウェイトレスをしていてもずっとそんな事を考えていた。


 彼女はアリスと出会うまで、自意識という物をもっていなかった。

 アリスの姿を見た瞬間に彼女の意識は生まれた。

 人間であった頃の記憶は何もない。

 自分の機体のように空っぽだった。


「ナナも外陣に行こう、中身は魔女なんだから問題はないよ」


 アリスがそういって彼女の手を引いた。


 ワルプルギスの夜市は魔女でいっぱいだった。

 沢山の魔女がアリスに笑顔をむけて、ナナに同情の視線をくれた。


 ナナはアリスが大好きだった。

 ディアナも、ダンカンも、ヨリックも好きで、流星号も好きだった。


「あそこがカジノ、プラントがいるぞ」

「いよう、アリス、ナナも外陣に入れたのか」

「そうだよ、ナナも魔女だから、良いんだよね」

「そういやそうだな、ナナ、夜市へようこそ」

「ナナの属性はわからない?」

「体が無いからなあ、ちょっとまってろ」


 プラントは引き出しから紙を取りだしナナに持たせた。


「念じてみな」


 ナナは素直に念じた。

 紙に何かの紋が浮かび上がった。


「うへえ『機』かよ、レアなのにもったいねえ。というか、『機』だから自意識を取り戻したのかね」

「ナナは、『機』の魔女! で、『機』ってなに?」

「機械とかに親和性がある紋だ、魔導具技師とかになる魔女が多いな」

「おー、そうかー」


 自分の紋を知ってナナは嬉しく思った。


「レア紋はあたしのテントが本部だ。登録しておくよ、ナナ」

「よかったなあ、ナナ」


 ナナはペコリと頭を下げた。


「しかし、喋れないのは面倒だなあ」

「なんとかならんのか?」

「ちょと考えてやんよ、またな」

「おう、またなー」


 アリスに引かれて外陣を回って歩く。

 テント村の豪奢なテントの前で、ディアナが焚き火でお茶を沸かしていた。


「あら、ナナ、そうか、そうね、あなたも魔女だからね」

「そうなんだ、師匠、ナナはテントで寝かす」

「そうね、そうしましょう」


 アリスとディアナに微笑まれて、なんだかナナは嬉しかった。


 夜半、ナナはテントを抜け出した。

 彼女は食事も睡眠も要らない。

 魔導リンゲル液のシリンダーを入れ替えれば一ヶ月休み無く働く事が出来る。

 リンゲル液は鍛冶魔女の人が作ってくれて、三年分ある。


 真上に月がある。

 魔女達が浮かれ騒いでいた。

 夜中飲んで騒ぐのだろう。

 ナナは熾火になった焚き火の前に座ってぼんやりと月を見上げていた。


「霊じゃあ無いから言葉は伝わらないヨーイヨイ」


 いつの間にか向かいに小柄な魔女が座っていた。

 目が真っ黒で据わっている感じだ。


「明日、街に行くと良いことがあるかもしれないって、言ってるヨーイヨホホイ」


 ナナはうなずいた。

 街には一度出て見たかったのだ。


 それだけ言うと謎の魔女は立ち上がり去っていった。

 色々見えている人なんだろうとナナは思った。

 明日……。

 外套を着てフードを被れば大柄な男性に見えるだろう。


 街を見たい。

 ナナは切実にそう思った。


 テントに戻り、ナナはアリスの隣に寝転んで機能を落とした。

 アリスは寝ぼけてナナに抱きついてきた。

 やさしくはだけた毛布をかけ直してあげた。


 次の日、漁船に帰って、ダンカンの外套とフード付きシャツを被り、ズボンを履いた。

 これで人間と思われるだろう。


「なにしてんのナナ」


 ダンカンが声を掛けてきた。

 身振り手振りで街の方に行きたいと伝えると、ダンカンは唸った。


「街が見たいのか、だが、一人では危ないだろう。しかたがない、俺も一緒に行ってやるよ」


 ダンカンと並んで歩けば二人の男衆に見えるだろう。

 ナナにとっては助かる提案だった。


 二人は内陣から通路を通って街に出ようとした。


「おまえ、ナナだな。どこ行くんだ?」


 出口でクランクに二人は止められた。


「なんだか街が見たいらしいよ」

「危なく無いか、諜報の奴が一杯居るぞ」

「まあ、昼間から無茶はしてこないだろうよ」

「それもそうか、危なくなったら頑張って引き延ばせ、私が駆けつけてやるからよ」

「その時はたのんます」


 二人は仲の良い兄弟のようにベドー山を下りた。

 港街トーリングへは少し歩く感じだ。


 ナナは坂の上から港街を一望して感嘆した。

 結構広い街だった。


 ナナは初めて人が沢山の街を見た。

 キラキラした物が沢山売っている。

 展示されている海の向こうの商品に、とても心を引かれるのだった。


 とてもウキウキして楽しい。

 ダンカンもそれをみて微笑んだ。


「よかったな、ナナ」


 ナナはうなずいた。


「ダンカンだな、脱走兵の」

「げえっ!」


 意外な事に敵に見つかったのはダンカンの方であった。

 黒づくめの諜報員っぽい二人組に誰何された。


「逃げるぞ、ナナ!」


 ナナはうなずいた。

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― 新着の感想 ―
あーあ、余計なことしないで情報収集に専念してれば死なずに済んだのに・・・。 生きて情報を持ち帰るまでが諜報ですよ。
諜報員ズ…クランク来来 Ω\(ˇーˇ )チーン
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