第83話 二回目の夜市
アリスの家来が三人になり、ディアナの手間はずいぶん減った。
アリスも大きくなってあまり手間が掛からなくなったが、その分、樹海の中に遊びに出かけたりで何かと心配であった。
深樹海の魔物たちは、なぜだかアリスの事が好きで、あまり喰おうとする個体はいなかった。
それどころか、綺麗な花が咲いている場所に案内してくれたり、希少な薬草の生えている草原に案内してくれたりしてくれた。
アリスの森遊びにはエルフィンの子供と、ナナが付き添っていた。
色々な場所をアリスは移動して知っていく。
遠くまで行って疲れたらナナが体内に格納して運んだりしていた。
弓矢を持ち、鳥を落としたり、猪を魔法で狩ったりしていた。
ターラーの杖に跨がって『土』の飛行魔法も使えるので年々移動範囲が広くなっていく。
そんなこんなで、あっというまに四年の月日は経ち、ワルプルギスの夜市の年となった。
今年は大陸の南岸港街トーリングに近いベドー山での開催らしい。
出発の一週間前から、必要なテントを積んだり、キャンプ用品を揃えたりと大変であった。
「今年も漁船カフェやるのか?」
「ああ、キキーラしだいだけどな」
「漁船でカフェをするんですかい?」
「ダンカン自慢の野菜も売ろう売ろう」
「あはは、良いですな」
「ナナもウエイトレスだ、良いな」
アリスの無茶ぶりにナナはうなずいた。
「楽しみだなあ、今回はクランクに『身体強化』とか『障壁』とか教えてもらって剣も教えてもらおう」
「もう、あんまりお転婆ばかりしてはだめよ」
「楽しみ楽しみ!」
アリスも七歳になって、大分大きくなってきた。
本当は小等舎に入れたい所だけれども、拉致誘拐の恐れがあるのでそれは出来ないのだ。
家庭教師の先生を入れようにも人となりをきちんと証明する事が出来ない。
魔女の師匠であるディアナは魔女の生き方を教える事はできるが、人生全般の事はやはりちゃんとした先生や沢山の友だちと培っていくものであると思うのだ。
どこかに良い先生は居ないだろうか、ディアナの心配は続く。
荷物を積み込んで、漁船はエルフィンの里を出発した。
今回のワルプルギスの夜市は南の方なので巨木の手前で折り返し、南方へと向かった。
途中湖で停泊したりしながら開催地のベドー山を目指す。
「海だ海、凄いぞ、ダンカン、海海!」
「おー本当ですな、久々の海ですわ」
「ダンカンは海を見た事があるのか、ダンカンなのに!」
「リンデンの王都は港湾都市ですよ、そりゃあ、見た事はありまさあね」
ナナは海を見るのは初めてらしかった。
「ししょー、海で泳げるか!?」
「だめよ、危ないし」
「えー、残念だなあ」
ナナも残念そうなジェスチャーをした。
そのうちアリスを気軽に海に連れて行きたいわね。
と、ディアナは思ったが、今は駄目だった。
二日ほどかけてベドー山に着いた。
やはり手頃な大きさのはげ山で、どこでみつけてくるのか会場の山はどこも良く似ている。
今回も内陣へ漁船を着陸させると、魔女達が寄ってきて歓迎してくれた。
「アリスちゃん、また来たねー」
「またおっきく……」
魔導動甲冑のナナを見て、魔女の皆は杖を構えた。
「だめーっ!! これはナナ、私の家来!!」
「なんだ、動甲冑騎士も仲間にしてしまったのかえ?」
「さすがはアリスちゃんだわ」
「え、中身は?」
ナナが装甲を開いて中を見せた。
「ナナは動甲冑、デシデリア共和国の奴らは魔女の子供を潰して動甲冑の部品にしてるんだ!」
「「「「!!!」」」」
集まった魔女の表情が一瞬で変わった。
「な、なんて事を、子供をなんだと思ってるんだい」
「ナナちゃんは意識が戻ったのかい、よかったねえ」
「デシデリアの畜生どもは滅ぼさないといけないね」
魔女たちはかんかんに怒っていた。
キキーラが外陣からやってきた。
「やあ、アリスちゃん今年も来たねえ、一緒に漁船カフェしようねえ……。ど、どうしたの、この雰囲気」
周りの魔女に説明を聞いてキキーラもかんかんに怒った。
「あと、でっかい人がいるね、あなただれ?」
「ダンカンです、ナナに乗っていた兵隊です」
「「「「あんたがっ!!」」」」
「だめー、ダンカンも私の家来! 美味しいお野菜を作るよ」
ナナもダンカンを庇うジェスチャーをしたので怒れる魔女たちは止まった。
「家来が三人になったんだね、よかったね、アリスちゃん」
「ジルバさんは? そろそろ準備しようぜ、キキーラ」
「ああ、外陣で見たからもうすぐ来るっしょ、ヨリックさん」
船の中に積んだテーブルや椅子を運び出し、クロスを掛けて看板を立てると、カフェっぽい雰囲気になるから不思議であった。
ジルバさんがやってきて、さっそくみんなの昼食を作ってふるまってくれた。
「んまい、やっぱりジルバの料理は美味しいっ!」
「あらあら、ありがとうね、アリスちゃん。このお野菜、すごいけど、あなたが作ったんですって、ダンカンさん」
「はい、それくらいしかすることがなくて」
「ダンカンの野菜はすごいぞ、直販もしたいっ」
「あらあら、一月は長いから、しばらく後の方が良いわね。美味しいからお料理で消費してしまうと思うわ」
「そ、そうか」
お昼が終わると、本格的に漁船カフェを開店した。
ディアナとアリスは大きなリュックを背負って外陣のテント村へと運んでいった。
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