第82話 魔導動甲冑の秘密
ダンカンは木々の間を跳んで逃げるアリスの後を必死に追いかけて行く。
小さな子供なのに身軽で素早い。
これまで見つける事が出来なかったエルフィンの里を初めて見つける事が出来るかもしれない。
ダンカンの胸は高鳴った。
そして、アリスを見失った。
どこにも居ない。
ただ茫漠と緑が広がっているだけだった。
ぎしり、と動甲冑が勝手に一歩動いた。
『む、こっちか?』
魔導動甲冑の動く通りにダンカンは歩を進めた。
酔っ払いのような千鳥足だが、なんとなく法則性があるような無いような……。
一瞬気配が揺らぐと建物が沢山ある広場にダンカンは出ていた。
アリスが広場に立ってこちらを見ていた。
「あれ、ついてきた?」
『アリス姫、どうかご帰還をっ!!』
アリスは顔をしかめて魔導動甲冑を見ていた。
「え、わあっ、なんだ、アリス、こいつ動甲冑兵じゃんかよ!」
ヨリックがダンカンを見つけて剣を抜いた。
「おまえ、なに?」
『ダンカン特等兵でありますっ』
「あんたじゃない」
『え?』
急に魔導動甲冑の装甲が二つに割れてダンカンが排出された。
「な、な、なんだなんだ、ナナマルナナ、何事だ!!」
魔導動甲冑は装甲を閉じアリスの前にかしづき頭をたれた。
「アリス、どきなさいっ!!」
ディアナが一抱えもある岩を浮かべて魔導動甲冑へ叩きつけようとしていた。
「ししょー、だめっ、これ、まじょ」
「魔女? え、魔女なの?」
「まじょがはいってる」
魔導動甲冑はさらに深く頭を垂れた。
「竜骸を元に作ってるって話だが」
「確かにおかしいとは思っていたのよ、竜の死骸なんてターラー先生が倒したグリーンドラゴンからこっち出ていないわ、魔導動甲冑は毎年二百機とか三百機とか建造されていて、計算が合わないとは思っていたの、魔女を部品に使っていたの……」
アリスは魔導動甲冑のヘルメットに優しく手を置いた。
「ナナマルナナ、おまえはわたしのけらいになれ、いいか?」
ナナマルナナは深くうなずいた。
「よし、ナナ、これからおまえはわたしのけらいだ!」
ナナはなんだか嬉しそうなジェスチャーをした。
「あ、あのう、俺はその、どうしますか?」
「おまえ、だれ?」
「ダ、ダンカンです、魔導動甲冑の兵であります」
「かえれよ」
「ええー」
「アリス、帰すと里の位置がばれるな、殺しちゃうのが面倒が無くていい」
「そ、そんなああっ!」
「ナナはいいけど、ダンカンはなあー」
ナナはジェスチャーで、ダンカンの命乞いをしてくれているようだ。
「ナナはやさしいなあ」
「ダンカンは平民?」
「あ、はい、農村の出です、淑女さま」
「あら」
「おお」
「農作業は出来るの?」
「ええ、兵隊になる前はずっとやってましたから」
「じゃあ、農作業をお願いね、だったら居て良いわ」
「あ、ありがとうございます」
ダンカンは首の皮一枚で命が繋がってほっとした。
ダンカンは里の畑を見回った。
ディアナもヨリックも貴族で農民ではないので、見よう見まねで農業らしい事をしていただけであった。
それでも存外良い野菜が取れていたのは深樹海の地味の良さ故であった。
さっそく作付けを替えたり、苗木の世話をしたりで、ダンカンはせっせと働いた。
やっぱり兵隊で戦ったりより、こうやって土と格闘して野菜を作っているのが楽しいな、としみじみと思った。
時々ナナも手伝ってくれて、アリスも一緒になって作業してくれた。
立派な野菜が取れると、ディアナからヨリックからアリスまで、皆が褒めてくれた。
「ダンカンをころしてうめなくてよかった、トマトがおいしい」
「ははは、もっと美味しい物を作りまさあね、姫様」
「ほめてつかわすぞ」
装甲だけで動いているナナだが、動きを見ていると、わりと小さい子供な感じがした。
言葉が出せれば良いのだが、どうもだめみたいだ。
デシデリア共和国は極端に魔女の産出が低い。
何故かと長年謎だったが、子供の頃に魔力のある女児を選別し、殺して部品にしているからなのだろう。
「かのくにはほろぼさねばならないな」
「同感だけど、今はまだね、メテオストライクが使えるようになってからね」
「ナナみたいなこどもがくるしむのはつらいなあ」
「今はだめよ、アリス」
将来はメテオストライクでデシデリア共和国を必ず滅ぼす、とアリスは心に決めたのだった。
今でも小さい衛星を移動させる事はできるが、都市を焼くほどの数を集めるのはまだ無理だった。
もう少し時間が経つとメテオストライクも育つ、そんな予感がアリスにはあった。
ただ、メテオストライクを持つ事が直接幸福に繋がっているかどうかは甚だ疑問ではあった。
世界を焼き尽くす激怒ではあるんだけど、それ以上の物では無いようだった。
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