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魔女の道々  作者: 川獺右端
第十章 アリスと三人の家来
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第81話 農夫の息子ダンカンの災難

 リンデン南部にキョーロ村という農村があった。

 太陽妃さまが居た頃は一年おきぐらいに大豊作であったが、リシャール失領王が馬鹿げた事をしてから凶作続きの上、戦争が続き税が値上げとなり農民達は悲鳴を上げていた。


 ダンカンという農夫の息子がいた。

 優しくて親孝行だったが頭は悪かった。

 村の表通りをぶらぶらと歩いて畑に行こうとしたら、途中で棍棒を持った兵隊たちと行き会った。


 強制徴用隊だった。


 ぎゃあと悲鳴を上げてダンカンは逃げようとしたが、ニヤニヤ笑いを浮かべた強制徴用員たちが猛禽のように襲いかかり、棍棒で死なない程度にボコボコにして連行した。

 哀れな農民達を数珠つなぎにして連行して彼らは練兵基地へと運んだ。

 そこで、服を脱がせ、水を掛け、髪を短く切って清潔な下着と軍服を支給し、狭い兵舎に押し込んだ。


 訓練は次の日から行われた。


「お前達は風雲急を告げるリンデン王国の危機に志願もせずに惰眠をむさぼろうとした最低の国民である。そんな国民は最低の歩兵にしかならない、だが、それでも戦場では何かの役に立つかもしれぬ。戦場最低のウジ虫としての自覚を持ち、うごめき、そして死ね」


 片目の軍曹はそんな恐ろしい訓示をして、新兵たちをしごきまくった。

 最初は娑婆っ気のあった新兵たちも三ヶ月もすると目付きの悪いリンデン歩兵として出来上がった。


 ダンカンは割と訓練の成績が良かった。

 都会から徴兵された兵隊よりも農村出の方が体力があり、朴訥で良い兵士になる、と軍曹は信じていたようだ。

 もちろん軍曹も農村の出だからだが。


「ダンカン二等兵! 貴様は魔導甲冑大隊への転属を命ずる」

「サーイエッサー!! というか、魔導甲冑ってなんすか?」

「まあ、なんか凄い甲冑だ。新兵から何人か配属される。今年はお前と何人かを送るというこっちゃ、がんばってこいよ」

「あ、はい」


 とりあえず、農村に居る時よりも、飯は良いし、休みは多いし、ダンカンは軍隊を気に入っていた。

 こんな事なら志願して良い所に送って貰えばよかったな、とまで思うぐらいだ。


 教育連隊からガタイの良い新兵が四人、馬車に揺られて王都郊外まで運ばれて行った。


「王都が近いのか……」

「おうよ、休暇は王都で遊べるって噂だぜ」

「そりゃ凄いな、旅費も宿代も掛からないで王都か、軍隊っていいなあ」

「ちげえねえっ」


 農民出の新兵四人は笑い合った。


 動甲冑大隊教導隊基地にダンカン達は運ばれ、検査の後に教育隊に配属された。

 しばらくは体力や武器の訓練だったが、魔導動甲冑が個々に支給された。


 初めて見る魔導動甲冑は、なんだか大層な物であった。


「凄い物だろう、この装甲で魔女の初歩的な魔法を跳ね返す、リンデンの秘密兵器だ。お前達は光栄に思わなければならない、お前達は身分の低い歩兵であるが、魔導動甲冑を着込む事で太古の英雄と同じ動きをし、英雄と同じタフさで戦えるのだ。なんとしてでも、悪鬼魔女ディアナを殺し、太陽妃サンディさまと、王女アリスさまをリンデンに取り戻すのだ!!」

「「「「おおおおお!!!」」」」


 ダンカンの乗る機体は707号機、あと七十番後なら縁起が良いのにと戦友にからかわれたが、そういう記念的な番号は士官が持って行くと相場が決まっているのだ。


「ナナマルナナ、よろしくな」


 機体からファーーーンと軽い機械音がして、返事をした気がした。


 魔導動甲冑とは只の甲冑ではなく、装着者の動きをサポートして実際の何倍の力を出したり、何倍もの速度で動いたり出来る夢の魔導機械だ。

 ダンカンは武道を知らないが、軍隊に来て覚えた軍隊剣術を魔導動甲冑で増幅して戦う。


 教導隊は三ヶ月で終わり、ダンカンは本隊に配属された。

 第五魔導甲冑分隊だ。

 士官は貴族だったが、偉ぶらない人で平兵隊のダンカンたちにも親切にしてくれて助かった。

 厭な士官の下だと地獄なんだぜと、古参の兵隊に聞いて、ますますダンカンは運が良いと喜んだ。


「さて、第五魔導甲冑分隊はこれより中央深樹海の探索を開始する。二週間の行程で隠されたエルフィンの里を探し、ディアナを殺し、アリス姫を確保するのが目的だ。深樹海には魔物が沢山居る、それらを排除しつつ前進となる」

「「「「サーイエッサー!!」」」」


 ダンカンの所属する第五魔導甲冑分隊はリンデン側から深樹海へと分け入り、中央大樹を目指して道なき道を行く。

 沢山の凶悪な魔物を倒し、道に迷い、それでも少しずつ前進していく。


 魔導動甲冑は森林の中でも効果的だった。

 力が強く、動きが速く、各種のセンサーがあるのは有利だった。

 通信魔導具も積んでいた。


 ダンカンは慎重に進む。

 森の枝を小鬼が飛び交っている。


「おまえら、なに?」


 小鬼では無かった、女の子だった。


『ア、アリス姫でありますかっ!!』


 高い枝の上にアリスが立っていた。

 光点が沢山まとわりついていた。


『アリス姫を現認しましたっ!! オーバー!!』

『確保しろ、ダンカン特等兵!!』

『了解!!』

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― 新着の感想 ―
さてダンカン君はいったいどうなってしまうのか? アリスちゃんは全魔法の使い手、火でも水でも風でもなんでもあるぞ。 生き延びられたら西遊記の猪八戒枠っぽくはなれそうだけど。
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