第80話 内陣漁船カフェが大盛況
漁船カフェは大盛況で連日満員であった。
ディアナとアリスのために舳先の一等席は予約席として除外しておかねばならないぐらいだった。
大盛況の理由は、ジルバの料理が美味しい事もあるが、ヨリックがイケメンで魔女に人気があるという事も大きかった。
夜市の中の酒場は全てが魔女が運営しているので、バーテンに男性が居る漁船カフェが人気になるわけである。
「うひひ、読み通り当たりやしたねえっ、ヨリックさんのお陰でさあ」
「そんな事は無いだろう、内陣に美味しい料理を出すカフェがあるからだろう。立役者はジルバ師だ」
「まあ、ジルバ師、ヨリックさん、あたし、ディアナ師の船と四つ揃っての大盛況かもしれやせんね、けけけ」
キキーラは金箱の金貨を数えながら緩んだ笑顔を浮かべた。
ヨリックはそれを見ながら肩をすくめ、流しでカップと皿を洗った。
アリスの夜市生活はとても幸福で刺激的な物だった。
彼女が地上の全ての魔法を使えると知った魔女達は競って自分の属性の奥義を教えようとして、アリスもまた良く覚えた。
火属性、風属性については、ターラーの圧縮火炎や、ゾーヤの竜巻移動などの奥義を、アリスは、なぜか自然に覚えていた。
「家系の直系の魔女の魔法は伝わるみたいだね。私の『算』の『高速暗算』とかも覚えるかな?」
「その前に、私の『身体強化』と『魔法障壁』だろう」
などと、プラントもクランクも、アリスに奥義を教えたくてしかたがないようであった。
とはいえ、三歳の幼児に覚えられる魔法と覚えられない魔法があり、クランクの魔法などはもう少し大きくなってからという事になった。
エリカの飛行魔法などはエルフィンの里ですでに教えており、ターラーの杖に跨がって器用に飛ぶ事が出来て、さらにジンバルでジェットブーストしたりしてアリスは飛行を楽しんでいた。
サンディは、ディアナとアリスと三人でテント場で泊まり、久しぶりのテント泊を懐かしんだ。
三人は朝ご飯は自炊したが、昼と夜は漁船カフェに食べに行った。
サンディもディアナも自炊は出来るが、そんなに好きではないようだ。
アラニス侯爵夫婦とヴァンフリートは麓のヒルトマンの街に宿を取り、毎日のように内陣に来て、ディアナとサンディとアリスと食事を取り、お茶を飲んだ。
アリスにとって濃密で楽しい夜市の一ヶ月はあっというまに過ぎていった。
サンディは再びクーニッツ伯爵領へ、ディアナとアリスは中央深樹海へと戻る事になった。
「いやあ、儲かりましたなあ、また次の夜市でも漁船カフェをやらせてもらいたいんすなあ」
「ええ、ヨリックの食事だけでなくて、私たちの食事としても便利に使わせてもらったわ、ありがとう、キキーラ師、ジルバ師」
「ジルバごはんありがとうーっ!」
「おほほ、どういたしまして。次も良かったら呼んでくださいね」
キキーラとジルバは漁船を下りて行った。
キキーラはランドランドのレンガ工場へ乗り合い馬車で戻って行った。
ジルバは、徒歩でピョーリ国の首都に戻っていった。
宿屋を亭主とやっているらしい。
サンディはヴァンフリートの馬車に乗ってクーニッツ伯爵領へ、アラニス侯爵も豪華な馬車で領に戻っていった。
それを見送ってからディアナは漁船を空中へと浮かばせた。
「さ、エルフィンの里に戻ろうか」
「みんなにおみやげわたすっ」
アリスはエルフィンの子供のために美味しそうなお菓子を沢山買っていた。
「夜市は楽しかったなあ、次は四年後か」
「そうよ、毎回待ち遠しくてね、お姉ちゃんといっしょに早く来ないかなって、指折り数えていたわよ」
「うーん、はやくまた、よるいちに、いきたいっ、さびしい」
「お姉ちゃんに会いたい?」
「かーちゃにもあいたいけど、ししょーがいるからがまんがまん」
「偉いわ、アリス」
「えへへへへ」
アリスは褒められて少し照れた。
漁船はのんびりと空を旅して中央深樹海へと戻っていった。
懐かしい巨大樹の麓、エルフィンの里へと漁船は着陸していく。
『おかえりおかえりアリスちゃん』
「かえってきたよう、おみやげあるよう」
『『『わーいわーい』』』
エルフィンの子供達は喜んだ。
ディアナは、船を里の中央に下ろし、懐かしい我が家へと戻った。
一ヶ月締め切っていたので、中が少々かび臭くなっていた。
窓を開き、空気を入れ換えた。
アリスはさっそくお爺ちゃんから貰った大量のおもちゃを二階の子供部屋に運び込み、お菓子を食べながら、エルフィンの子供と一緒に遊びはじめた。
ヨリックは流星号を漁船から降ろし、馬屋で飼い葉を与えた。
ついでにブラシも掛けてやると流星号は嬉しそうにいなないた。
また静かな隠れ里の生活が始まる、とディアナは独りごちた。
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