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魔女の道々  作者: 川獺右端
第十章 アリスと三人の家来
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第78話 内陣に漁船喫茶を作る

 ヨリックは内陣に駐めた漁船で生活をしている。

 食糧も買い置きしてあるので、特に問題は無い。

 夜市の中は華やかだが、内陣は人が居なくて暇であった。

 甲板で流星号の世話を焼いたり、剣の素振りをしたりして時間を潰した。


「さすがに一月は厳しいかもなあ」


 とはいえ、街に出れば諜報組織に拉致され拷問で尋問されるだろう。

 内陣ならば、あまり外部の人間が入ってこないので安全は安全だ。


――まあ、アリスとディアナが夜市を楽しめればそれで良いだろう。


 船舷がコンコンと叩かれ、若い魔女がぴょこりと顔を出した。


「内陣で喫茶店がしてーんですよお、許可はお兄さんに取ればいいんで?」

「喫茶店? 内陣でか」

「へいへい、魔女でないお客さんがたんと集まりましょうぜ、喫茶店あれば繁盛しますわなあ」

「そういうのは夜市本部だろう、なんで俺に?」

「ああ、この漁船の甲板とキッチンが使いてえんですよお」


 なるほど、とヨリックはうなずいた。


「この漁船はディアナの物だから、彼女に相談すればいい。俺としては良いアイデアだと思う」

「でしょでしょー、『月』のディアナ師かあ、ちょっくら行って相談してきまさあ」

「俺はヨリックだ、あんたは?」

「キキーラでさあ、ペガサスナイトの旦那」


 キキーラの頭は引っ込んだ。

 何年かぶりに若い女性と話したので、ヨリックは新鮮な感触を味わっていた。


 しばらくして、キキーラはディアナとアリスを連れて戻って来た。

 あと、初老のおばさんが一緒だ。


「ヨリック、許可が取れたよ。あんたさんのご飯の世話をすれば只で貸してくれるってさあ」

「そりゃ、災難だな」

「なあに、男一人喰わすのは魔女の甲斐性ってえもんだよ。こちらは料理をやってくれる、ジルバ師だ、なりたてほやほやの魔女さあ」

「というか、あんた『西の長靴亭』の女将さんじゃあ無いか、魔女だったのか?」

「あれまあ、ヨリックの旦那、いやだよう、王都から遠く離れた夜市で出会うなんてえねえ」

「なんだよ、顔見知りかよー」

「下宿の近くの宿屋の女将で、良く飯を食いに行ってたんだよ。そうかジルバさんが料理するのか、それは楽しみだ」


 アリスを抱いたディアナが前に出て来た。


「お二人とも、よろしくおねがいしますね。私たちではヨリックのご飯までは手が回らなくて」

「まかせといてくれっ、軽食とお茶と酒を出す感じだあな。ジルバ師が調理、あたしが配膳をやる、ヨリックもなんかしなよ」

「おう、暇だからな、ウエイターでもバーテンダーでもやるぜ」

「おみせおみせ」


 キキーラの属性は『火』階級は赤だった。

 日頃はランドランドの煉瓦工場で炉を回しているが、せっかくの夜市だから一稼ぎしようと思ったらしい。

 アルトマンの街に出て、中古のテーブルと椅子を買い求め、漁船の甲板と下に並べると小洒落たカフェが出来上がった。


「ジルバのおりょうり、うまいっ!!」

「ありがとうございますね、アリス姫」


 さっそく、ディアナとアリスはランチを作って貰って食べていた。

 さっさと作ったパスタだが、なるほど美味しい。

 プロの味わいであった。


内陣に豪華な馬車が入って来て漁船の前で止まった。


「ディアナ!! おお、アリスか、お爺ちゃんだよ」

「んまああ、大きくなって、アリスちゃん。でかしたわディアナ!」

「お父様、お母様!!」

「じじと、ばばなのか!!」


 アラニス侯爵家の二人であった。

 四人は喜びの涙を流しながら抱き合った。


「よく元気で、アリスをこんなに大きく育てて、立派だぞ、ディアナ」

「姉さんも後で来ますよ」

「おー、おー、それは良かった良かった」

「ジイジ、バアバ、こんちは」

「もうご挨拶ができるのね、お利口さんね、アリスちゃん」

「アリスにあげようと思って、色々考えて、おもちゃを沢山もってきたんだ、ほら、あげよう」

「ふおーーー!」


 巨大なおもちゃの包みにアリスのテンションが爆上げになった。


「いま、漁船でカフェをやろうと思ってテスト中なの、一緒に甲板でお茶を飲みながらお話しましょう。二人とも昼食は?」

「今日は朝を食べたきり、ずっと馬車を急がせておったよ」

「ご飯も出るのかしら」

「軽食もやってるわよ、すごく美味しいコックさんがいたの」

「ジルバのおりょうりは、んまいぞ」

「それは楽しみね、アリスちゃん」


 アラニス侯爵家は久々に家族が集まってランチとなった。

 アリスは侯爵が持って来たおもちゃに夢中であった。


「ディアナは、そろそろ、アラニス領に帰ってこないか」

「まだ、早いわ、せめてアリスが十二歳にならないと」

「サンディもクーニッツ伯爵領に行きっぱなしで寂しいのよ」

「そうだな、娘達が居ないし、アリスがいないので私は寂しい」

「じいじ、さびしいか」

「ああ、アリス、お前がいないので寂しいぞ」


 アラニス侯爵はアリスを抱き上げ頬ずりをしてそう言った。

 久々の幸せな家族の交流だった。

 ディアナのぽっかり空いた胸の穴に柔らかく幸せの空気がふくらんでいった。


 昔は、お姉ちゃんと、ターラー先生とずっと一緒で、いつも幸せだったのにな……。

 ディアナは遠く置いてきた物を思いため息を吐いた。

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アリスちゃん人気者ヤッター!  ただサンディとの再会が妙に引っ張られている感じで少しドキドキしてしまうんだぜ・・・。普通に焦らしてるだけであってくれー。
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