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魔女の道々  作者: 川獺右端
第十章 アリスと三人の家来
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第77話 夜市の開会式

「それではウット山ワルプルギスの夜市を開催します」


 はげ山の上でソーニャが夜市の開催を宣言した。

 丁度内陣からも見える場所だったので、漁船の上で聞いているヨリックと流星号も見えた。


 ディアナは柵の内側でアリスと一緒に手を叩いた。


 ドオンと花火が上がり、楽隊が陽気な曲を流し始める。


「夜市の始まりよ、アリス」

「おまつりおまつり」

「そうよ、四年に一回の魔女のお祭りよ」


 アリスはキャアキャアと手を叩いて喜んだ。


 空には箒の魔女が沢山飛んでいて、色とりどりの花火で空中に字を書いていた。


『アリスちゃん、初夜市おめでとう』


 と、火文字で空中に書かれ、そして消えていった。

 わあ、とディアナは声を上げてしまった。


「きれー」

「アリスちゃん夜市参加おめでとうって書いてあるわよ」

「ほんとっ!! うわああいっ!!」


 アリスは両手を空に掲げて喜んだ。

 キラキラした火花をつかみ取るように。


 壇上ではセレモニーが続いていた。

 ひっきりなしに魔女がアリスに声をかけ、参加を喜んでくれた。

 

「みんな、うれしそうっ」

「そうさ、『星』の魔女、アリスちゃんが初参加だからねっ、みんな嬉しいのさ」

「ほんと? わたしのこと、うれしい?」

「そうだとも、アリスちゃんは魔女の希望の『星』なんだからねっ」

「うわああいっ」


 アリスは手を叩いて喜んだ。

 ディアナも嬉しかった。

 姉の産んだ赤ちゃんが、みんなに受け入れられて、祝ってもらえる、それはすごく胸が温かくなる体験だった。


 ディアナに一緒に飲もうと『水』の魔女が誘ってきた。

 アリスの世話があるというと、酒場で一緒に食べればいいさと言われてディアナは一緒に魔女の酒場に行った。


 『水』の魔女は貫禄のある中年女性で、道々の重鎮な感じであった。

 ニコニコ笑いながら食事を奢ると言ってきて、ディアナが遠慮すると、アリスちゃんとのお近づきだよ、と言われて断れなくなった。


 魔女の酒場では、シチューとソーセージ、パンという大味の夕飯が出ていて、見た目は悪かったが、意外に美味しかった。


「エールは飲まないのかい、ディアナ師は」

「私はあまりお酒は」

「そうかいそうかい」

「ししょー、おなかいっぱいになった」


 アリスが食事を半分残した。


「おやつを沢山食べるから」

「ケーキおいしそうだったんだもんっ」

「そうかいそうかい、でも食事はちゃんとしないと駄目だよ、アリスちゃん」

「うー、きをつける」


 知らない魔女にたしなめられて、アリスはシュンとなった。

 ディアナは小声で良いのよと良いながらアリスの頭を撫でた。


「まだアリスちゃんは小さいからね」

「そうですね。ありがとうございます」


 アリスが眠そうにしていたので、ディアナは魔女酒場を出てテントに戻った。

 良い匂いのするテントに入り、毛布に潜り込むと、幼かった頃の夜市の記憶が蘇り、胸を締め付けた。

 ああ、お姉ちゃんと一緒にターラー先生と夜市を過ごして、すごく楽しかったなあ。

 その頃の記憶はキラキラときらめくディアナの大事な宝物だった。


――明日には、お父様お母様とお姉ちゃんに会えるわ。


 とても楽しみだった。



 少し寒いので目を覚ました。

 あたりはまだ暗い。

 早朝だった。


 テントを開けると外には霧がのたうっていた。

 ウット山あたりは標高が高いので霧も多いのだろう。


「さむい」

「暖かくしましょうね」


 アリスに重ね着をさせてもこもこにした。

 テントの横の炉の熾火を起こしてお湯を沸かしお茶を入れた。

 アリスにはミルクを湯煎して飲ませた。

 そうこうしているうちにパンが焼け、チーズがとろけた。

 二人でハフハフ言いながらパンを食べる。


「今日は雨になるかな?」


 ディアナは空を見上げた。


「ならない、今夜半に少しふるけど、日中は持つよ」


 隣のテントから顔だけを出した魔女が教えてくれた。


「おはようございます、ディアナとアリスです」

「有名人! 『空』のタマキだよ。天気読みの魔女だよ」

「おてんきよめるのか!」

「読めるぞー、わりとどこ行っても喜ばれるんだ」

「お茶でもどうですか、タマキさん」

「ありがとー」

「パンもたべるか?」

「あはは、ありがたいね、アリスちゃん」


 夜市ってこんな所だった、と、ディアナは思い出した。

 魔女と魔女が気軽に知り合い、友だちになる場所だ。

 ディアナも過去の夜市で同年代ぐらいの魔女たちと何人か友だちになった。

 アリスの歳の魔女はまだ来るのは早いだろうが、八歳ぐらいになれば早熟な魔女が入って来てアリスと友だちになるだろう。


 お茶を飲みながら、タマキと色々な話をした。

 彼女はランドランドの方を四年ほど回っているらしい。

 かの国は工業が発展しはじめていて景気がよく、天気読みの魔女の仕事も沢山あったそうだ。


「てんきよみ、おしえろー」

「あはは、これは紋がないとね」

「この子使えますよ」

「え?」

「この世界にある魔法は全部使えるそうなんですよ」

「ししょーのまほうはつかえない、この『ほし』のちからじゃないから」

「へええ、じゃあ、こうやってね、指に魔力を纏わせて垂直に空に打ち上げて、それから発振!」


 アリスはタマキの魔法を真似して魔力の柱を天に立ち上げ、発振した。


「うわ、本当に発振させたっ、凄いねっ」

「なんだかあちこちもやもやしてる~」

「あはは、雲の気配や種類を覚え無いと読めないわよね、でもきっと覚えられるよ、アリスちゃんなら」

「おもしろい」


 積乱雲や羊雲、雲の種類を教えるタマキと、それを熱心に聞くアリスをみて、ディアナは微笑んだ。

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